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尹大統領夫人に渡された「ディオールのバッグ」が残した3つの質問

登録:2023-12-02 06:17 修正:2023-12-02 07:40
尹錫悦大統領の夫人、キム・ゴンヒ女史/聯合ニュース

 先月27~30日、ユーチューブチャンネル「ソウルの声」が取り上げた「(尹錫悦大統領の夫人)キム・ゴンヒ女史のブランドバッグ授受疑惑」は、大統領夫人が高価な贈り物を受け取る場面をそのまま流し、波紋を呼んだ。キム女史をめぐり、「請託禁止法」(キム・ヨンラン法)違反の有無が議論の的になる中、第3者を通じてキム女史に贈り物を渡し、この場面を報道した「ソウルの声」の取材方式をめぐる報道倫理問題も議論を呼んでいる。また、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足後、大統領夫人関連業務を行ってきた第2付属室を廃止したことが大統領の配偶者に対する「制度的管理」の失踪につながったという指摘もある。争点をまとめてみた。

請託禁止法違反の素地…人事介入疑惑も

 「ソウルの声」の動画によると、昨年9月13日、在米韓国人統一運動家のチェ・ジェヨン牧師は、キム女史が代表を務めたソウル瑞草洞(ソチョドン)のコバナコンテンツ事務室を訪ね、プレゼントの入った紙袋を渡した。キム女史は「またそんな…やめてくださいね」と言いながらも、これを受け取った。「ソウルの声」はこの紙袋の中には300万ウォン(約34万円)相当の「ディオールのバッグ」が入っており、昨年6月にも180万ウォン(約20万3千円)相当の高価な香水と化粧品のセットをプレゼントしたと明らかにした。

 キム女史が受け取った贈り物が尹大統領の職務と関連したものなら、請託禁止法違反の素地がある。請託禁止法は、公職者の配偶者が公職者の職務と関連して1回100万ウォン(約11万3千円)または1年に300万ウォン以上の金品などの授受を禁止している。配偶者が授受禁止金品などを受け取った事実を知った場合、公職者は直ちに所属機関長に報告し、提供者にすぐに返すべき義務がある。返還が難しい事情がある時に限り、所属機関長に引き渡すことができる。

 チェ牧師はまた、動画で「(バッグをプレゼントする以前の昨年6月に、また別のプレゼントを渡す際)キム女史と話をしている時に、電話がかかってきて、(キム女史が)出たが、その内容は『何だって? 金融委員に任命しろって?』と言いながら、自分の前にメモ用紙とペンを探したが、なかったため、後ろにある机に移動しながら何かを書き留めた後、通話が終わった」と語った。人事介入が疑われる内容だ。

「『おとり取材』は許されない」 vs「公人の場合は例外的に許される」

 専門家たちは公益的目的と透明な手続きなど条件を満たしたことを前提に、偽装取材やおとり取材も考えられるが、原則的には許されないという見解を示した。一方、取材方式が報道の伝えようとする実体的真実にまで影響を及ぼしてはならないという意見もある。

 世明大学ジャーナリズム大学院のシム・ソクテ教授は30日、ハンギョレとの電話インタビューで、「違法不当な行為で公人の道徳性を暴露するという内容だが、責任ある報道機関の一般的な手法とは言えない」と話した。ただし、取材陣に法的責任を問うことはできないと指摘した。韓国記者協会の新聞倫理実践要綱によると、「身分を偽装あるいは詐称して取材してはならない」(第2条)、「個人のプライバシーを承諾なしに侵害してはならない」(第12条)などの規定がある。ただし、公人のプライバシー報道は公益のために認められる。

 忠南大学のイ・スンソン教授は「おとり取材を禁止することが原則」としながらも、「非常に明白で重大な公益的理由で、接近しにくい事案に限り、事前に内部承認を経て事後すべての過程を公開することを条件に、考慮することはできる」と説明した。

 報道方式と実体的真実は別に考えるべきという意見もある。延世大学コミュニケーション大学院のチェ・ソニョン教授は「マスコミと記者が国民の知る権利のために良心を持って選択し評価を受ければ良い。取材過程の問題と報道した事実に対する検証は別途に扱わなければならない」と語った。

誰でもファーストレディに会える?

 「おとり取材」をめぐる議論とは別に、キム女史が非公式な面会を通じてブランドバッグを受け取ったという事実は、「毒樹の果実論」(毒のある木は実にも毒があるという意味で、違法に収集された証拠は違法で証拠能力がないという理論)で片づけられる事案ではない。大統領室は1日にもこれと関連して沈黙を守った。法違反の素地が大きい状況でも、事実関係を疎明して収拾するより、マスコミの注目度が落ちるまで時間稼ぎをしながら待つ方を選んだものとみられる。大統領室は「返還予定物品」に分類して処理する方針を明らかにしたが、入庫時期と返還の可否などについては口を閉ざしている。

 大統領の配偶者の日程や活動を補佐する機能に弱点があるという点も、看過できない重大な問題だ。キム女史に会う一般人が撮影道具を持参したにもかかわらず、セキュリティシステムを備えた警護処でこれを見つけられなかった点は保安上の致命的なミスと言える。キム女史の「力」を意識し、警護処でもキム女史への来客に対するセキュリティチェックを緩めたのではないかともいう解釈もある。大統領夫人として面談目的などを問わず、無分別に外部人と私的に接触(カカオトーク)し、面談の日程を決めた行為も不適切だという指摘もある。尹大統領は「帝王的大統領室」を清算するとし、大統領配偶者のための第2付属室を設置しなかった。キム女史の日程とリスク管理などは現在付属室関係者が担当しているが、今回の事件を機に第2付属室を復活させ、公的な補佐システムを透明にすべきという指摘が相次いでいる。

 このような中、大統領の配偶者と4親等以内の親族、大統領室首席秘書官以上の不正行為を常時監視する特別監察官が、大統領就任から1年6カ月以上が過ぎたにもかかわらず、与野党の交渉決裂で任命されていないことも問題点として指摘されている。国会予算政策処が10月に発行した予算案報告書によると、特別監察官室には10億900万ウォン(約1230万円)の予算が編成されている。

パク・ガンス、キム・ミナ、ファン・チュンファ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/bluehouse/1118747.html韓国語原文入力:2023-12-0200:44
訳H.J

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