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「朝鮮戦争に核兵器を使用しなかったのは奇跡」(2)

登録:2023-09-14 01:28 修正:2023-09-14 08:55
10日(現地時間)未明、ロシア軍がウクライナの首都キーウをドローンで攻撃し、民間施設の近くで炎が上がっている=キーウ/ロイター・聯合ニュース

(1の続き)

-ウクライナ戦争はいつ頃、どのように終わると予測するか。戦争勃発当初はロシアが簡単に勝つと予想されていた。

 「まず指摘すべきは、今ロシアはウクライナで決して敗北しているわけではないということだ。7月に米国のトニー・ブリンケン国務長官は『ロシア侵攻後に奪われた領土の50%を奪還した』と明らかにしている。まだ残りの50%は奪還できていないということだ。民間人に数万人の死者が出ているが、プーチン大統領はこの戦争を早く終わらせはしないだろう。

 これまで(守勢に追い込まれていた)ロシアの攻勢に転じるだろう。ウクライナは(現在より)領土を失う公算が大きい。プーチンはウクライナを放棄することはできない。もし中国がメキシコと軍事同盟を結べば米国はどう出るか、想像してみてほしい。米国政府も国民も受け入れられないだろう。ウクライナによるNATO加盟の試みは、ロシアにとっても大きな脅威にならざるを得なかったのだ」

-開戦当初はウクライナのNATO加盟の試みが原因になったとして、もう少し慎重であるべきだったと一部から指摘されていたが、その後、ウクライナの民間人への被害が深刻化したことで、そのような見方よりも人道主義的な面から戦争を起こしたロシアに責任を問う意見の方が強い。

 「ロシアがウクライナに侵攻したのは間違いだ。しかし、戦争の第1の出発点はウクライナのNATO加盟の試みだと思う。ベルリンの壁崩壊(1989年11月)後の1990年2月、米国はドイツ統一に対する協力をソ連に要求した際に、NATOの東方拡大は行わないと約束した。しかしその後、2004年のバルト3国のNATO加盟など、NATOは次第にロシアの方へと拡大していった。ウクライナのNATO加盟には、ロシアは敏感にならざるを得ない。米国メディアのウクライナ関連報道はもう少し注意深くみつめる必要がある。米国メディアではプーチンはやくざのように、そして米国が人類を救っているように描かれている。それがすべてではない」

-来年の米国の大統領選挙前にバイデン大統領がウクライナ戦争を終わらせ、それを成果として掲げて大統領選挙を行おうとしているという予想があった。

 「米国が望む通りには戦争は進まないと思う。いくら巨額をつぎ込んでもウクライナの状況は大きくは変えられないだろう。戦争は長期戦になるだろうし、米国にも終わらせる能力がない。ロシアの経済制裁も失敗した。むしろロシアからガスなどの原材料を輸入してきた欧州の方が苦しんでいる。ドイツの今年の成長率が1%に落ちたのも、それと無関係ではない。BRICS諸国の脱ドル化、ロシアと中国の密着などの逆風も呼び起こした。米国のロシアに対する経済制裁は、次第に米国にとってマイナスとなっていくだろう」

-韓国政府はウクライナ戦争でどのようなスタンスを取るべきか。 ウクライナ戦争に関係する兵器取引について米国が北朝鮮に警告したように、ロシアも韓国の弾丸支援に対して警告を発している。

 「2019年のハノイ朝米首脳会談の失敗以降、米国はもはや北朝鮮に何の信頼も与えられずにいる。だから北朝鮮は(米国の警告は無視して)やりたいようにやるだろう。しかし、韓国は北朝鮮とは異なる。距離を保つ必要がある。何より弾丸などの殺傷兵器を支援したり取引したりしないことが賢明だと思う。人道主義的支援に限定した方が良い」

-現在の新冷戦構図はいつまで続くと思うか。

 「全世界が戦争へと突き進むのではないか、暗黒の時代がやって来るのではないかと心配だ。各国が一方の陣営に属し、一方的に一方の味方ばかりして国防予算を増やし続けている。特に危険なのは、米中ロなどの大国が核兵器開発一辺倒であることだ。かつての冷戦時代には米国とソ連の戦略兵器削減条約(START)などもあったが、今はそのような動きが見られない。米国が軍備を増やせば、それだけ中国もロシアも軍事費を増強し続けている。

 1950年、米国は『国家安全保障会議報告第68号(NSC-68)』という政策文書を作成した。ソ連による全世界的な共産化を防ぐために、米国の国防費を3~4倍に増やすべきだというものだ。その後、米国は圧倒的な世界最大の軍事大国となった(米国の年間軍事費は中国、ロシアを含む軍事費支出2~10位の国のそれを合わせたものよりはるかに多い)。今後も当面は、米国に匹敵する軍事力を持つ国は世界のどこにも現れないだろう。中国が挑戦しているが、米国がのんびりと放置しておくとは思えない。

 米国は戦争をする国だ。この200年の歴史の中で、戦争をしていないのはたった16年に過ぎない。今も戦時状況だ。最大の兵器生産国であり、最大の兵器輸出国だ。米国は毎年、国防予算を8千億ドル(2024会計年度8420億ドル)以上使っている。米国にとって戦争はビジネスでもある。米国の外交・国防基調である『NSC-68』を見れば、今後も絶対に『平和が世の中を支配する』とは考えられない。」

-韓国では映画『オッペンハイマー』が大変な人気を集めた。戦争が全面戦争(total war)ではなく局地戦(limited war)にならざるを得ない主な原因が核兵器だと考える。第2次世界大戦後、実際の戦争で核兵器が使用されたことはない。今後もこの原則は守られると思うか。

 「今日のインタビューの最重要ポイントだ。現代戦の重要な起点こそ朝鮮戦争だ。最初の人為的な局地戦だったからだ。朝鮮戦争では、中国の介入によって米軍は史上最大の後退を強いられた。そのため、当時のトルーマン大統領は核兵器の使用を強く迫られた。しかし、トルーマンは使わないことを決めた。人為的な局地戦が生まれた瞬間だ。

 負けており、後退している戦争においても核兵器を使わないことを決めるのは難しい。映画『オッペンハイマー』にも出てくるように、トルーマンは第2次世界大戦で原子爆弾の投下を決めており、そのため戦争を早期に終えた。しかし、朝鮮戦争では原子爆弾を投下しないことを決めた。トルーマンはその決定について尊敬されるべきだ。しかし、当時のその決定でトルーマンの政治的キャリアは終わった。

 あの時、朝鮮戦争で核兵器を使用しなかったのは奇跡だ。朝鮮戦争で使わなかったからこそ、ベトナム戦争でもその基調が保たれた。戦史上、朝鮮戦争がベトナム戦争より重要なのはこのためだ。トルーマンの後、アイゼンハワー大統領時代、ソ連が攻撃してきたら核による大規模な報復を行うと警告する『大量報復戦略』概念を米国の安保ドクトリンの核心として掲げたが、核兵器を使わないという基調は今も続いている。

 戦略爆撃機、ICBM、SLBMは核戦力の3本柱(トライアド)だ。また、メガトン級核兵器の開発が続いている。地球を吹き飛ばすほどのものだ。そのため、核保有国は『存在論的脅威』にまでは至らないよう互いに努力してきた。ケネディ大統領時代にキューバ危機が起こったが、互いに存在論的脅威にまでは至らないようにした。しかし、最近になって存在論的脅威を感じるケースは生じている。例えば、台湾海峡危機を中国は存在論的脅威とみている」

朝鮮戦争当時のマッカーサー元帥(左)とトルーマン大統領(右)。1951年の中国介入後、元帥は満州に戦場を拡大することを求めたが、大統領は認めなかった。元帥は満州への原爆投下まで要求したという。同年、トルーマンは国連軍総司令官のマッカーサーを解任した//ハンギョレ新聞社

-ウクライナ戦争で核兵器が使用される可能性は。

 「現在はロシアが負けているわけではない。しかし、もし敗戦が懸念されるほどなら、(戦略核兵器ではなく)戦術核兵器の使用の可能性はあるだろう。

 1950年代末以降、米国ネブラスカ州に置かれているICBM「ミニットマン3」の弾頭には、目標地点がモスクワと表示されている。ロシアにもワシントン、ニューヨークを弾頭に記したICBMが配備されているだろう。このように、大都市に対する戦略核兵器の使用は共倒れとなる。しかし、軍や軍事地域をターゲットとする小型戦術核兵器の使用の可能性はあると思う。

 ウクライナでロシアが追いつめられれば、ウクライナ内部での戦術核兵器使用の可能性はあると思う。問題は、もし戦術核兵器が使用されたら、その次の段階へとまた一線を越えてしまいうるということだ。習近平とプーチンはいずれも一線を越えないように努力していることだろう。そうであることを願う」

クォン・テホ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1108291.html韓国語原文入力:2023-09-13 09:00
訳D.K

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