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世界6位の戦力、だが作戦権は米国に…韓国軍が「病んでいる」本当の理由

登録:2023-06-05 02:47 修正:2024-04-23 06:45
[ハンギョレS]ムン・ジャンリョルの安保多焦点|消えた「戦作権返還」 
「条件付き戦作権返還」期限なくなり 
頭脳を奪われた状況、中枢神経まひ
尹錫悦大統領が5月11日、ソウル龍山の大統領室庁舎で開かれた国防革新委員会の発足式で発言している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 国軍の統帥権者の口から「韓国軍は難病にかかってしまった」という指摘が飛び出した。5月11日の「国防革新委員会」の発足式で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「(文在寅前大統領が)『全世界に、北朝鮮は非核化するから(北朝鮮に対する)制裁を解除してほしい』と言ったのが軍の病の原因だ」と主張した。この奇異な因果関係がひとまず正しいと仮定すれば、尹錫悦政権の外交安保政策はかなり一貫性があるようにみえる。国防白書に北朝鮮を「主敵」と再び明記したり、先制攻撃と斬首作戦を持ち上げ合同軍事訓練を拡大したり、韓米、韓米日首脳会談、主要7カ国首脳会議(G7サミット)、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)、ASEANなど、行く先々で「北朝鮮の核糾弾と制裁の強化」を叫んでいるのだから。しかし、その因果関係が正しくないというのが問題だ。

 人体に例えると、韓国軍の体調は「正常」であるばかりか、むしろ2年連続で世界第6位の評価を受けるほど強大だ。だったら「精神」が病んでいるということだろうか。残念ながら否定はできない。ただし、その原因が前政権の非核化に向けた努力だと主張するのは論理的思考力の不在をあらわにするにとどまらず、軍に対する冒とくだと言える。大半の軍幹部はイデオロギー的レッテル貼りに振り回されたしはしない。過去の権威主義時代とは明確に異なる非政治的職業意識を持ち、「軍本来の任務」に忠実だ。

 認識の誤りは問題を解決するどころか悪化させる。個人の疾病に対する誤った診断と処方もそうなのだから、国家組織に対しては言うまでもない。軍が「病んでいる」本当の理由についての省察は、軍をおとしめるものではなく、尊重の表れだ。長らく論議されているが最近はまったく議題にもならない2つの問題だけを考えてみよう。慢性疾患でも致命傷を受けうるからだ。

「戦作権を維持してほしい」という懇願

 いまだに韓国軍の戦時作戦統制権(以下「戦作権」)は米軍の4つ星将軍(韓米連合司令官)にあるという事実には、恥以前に不思議な感じがする。連合司令官は直属の上司である米国のインド太平洋軍司令官の指揮を受け、朝鮮半島において戦争の突入段階から終結までの「責任」を負うことになる。7人の韓国軍の4つ星将軍のうち6人は連合司令官の作戦統制下に入り、残りの1人(合同参謀議長)は「戦争指導」に参加はするだろうが、主に戦況報告を受ける仕事を担うだろう。要するに、朝鮮半島での戦争において韓国軍は権限も責任もないということだ。

 戦作権を取り戻す努力がなかったわけではない。1960年代末、朴正熙(パク・チョンヒ)大統領は「自主国防」の旗印を掲げて兵器の国産化を強く推進した。それから20年あまり後、盧泰愚(ノ・テウ)政権は戦作権返還を大統領選挙の公約として掲げ、停戦時(平時)作戦統制権の1992年までの返還と戦作権の1994年までの返還に米国と「合意」までしている。しかしこの合意は、1994年末に作戦情報危機管理に関する権限を連合司令官に「直ちに」再委任することで、うわべだけの「停戦時作戦権返還」に終わった。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は2012年4月17日と日付けまで指定し、戦作権の返還に米国と合意したが、李明博(イ・ミョンバク)政権が米国に「懇願」したため1度延期された。朴槿恵(パク・クネ)政権は返還期限をなくしたうえで「条件にもとづいた戦作権の転換」へと変更。文在寅政権はこれをそのまま引き継いだため、事実上米軍の「合格判定」なしには不可能な条件クリアのために仕方なく努力しているうちに終わってしまった。本来は自分のものなのに取り戻すのはこんなにも難しいのか。

 戦作権返還反対の論拠は、表面上は北朝鮮の脅威だが、内面的には反米フレームに対する「恐怖」だ。韓国の政治家の多くは、進歩であれ保守であれ、戦作権返還主張と反米を簡単に結び付ける。軍の指揮部も同じだ。そして反米すなわち親北朝鮮という「等式」によって理念の恐怖がついてくる。尹錫悦政権の外交と安保は、この時代錯誤的な理念という機関車で「価値」と「力による平和」という事実上空っぽの客車を引っ張っていっている格好だ。

 戦作権を持たない韓国軍の兵器は、米軍の「作戦資産」となる。米軍の「戦略資産」の展開は、自分たちの立場からすればいずれにせよ実施しなければならない訓練を朝鮮半島の周りで行うこと以上の実質的な意味はなく、朝鮮半島における軍事的緊張を維持・高揚させることで、米国の戦略的利益の増大にさらに寄与する。韓米核協議グループ(NCG)において韓国の役割が大きくなるとしても、作戦統制権構造の中では特に意味はない。韓米日3国軍事同盟化も、実際には日米の「戦争同盟」の強化と米軍主導の戦争指揮体系の拡大と考える方が正しい。

 もちろん、どのような兵器であれ国防には役立つだろう。しかし現在の指揮体系の下でいくら3軸体系を強化したり、毎年数兆ウォンにのぼる米国製の兵器を購入したり、果ては核兵器を保有したりしたとしても、それらは韓国が自由に使えるものではない。このように長きにわたって頭脳をアウトソーシングして(させられて)きたあきれた状況にあって、韓国軍の中枢神経が病まずにいられるだろうか。自らの軍を自ら指揮して戦って勝ちたいと思うのは、抽象的な自主権以前に、軍指揮官の普遍的な本能ではないのか。

尹錫悦政権で「陸軍偏重」が加速

 韓米連合防衛システムから派生した慢性の病の一つは、陸軍に過度に偏った軍の構造だ。対米依存的な軍事戦略と軍構造を改革するための最初の本格的な試みは、盧泰愚政権時代の「818計画」だ。法律化までされたものの、陸軍が兵力と上部組織の縮小に反発したため成功できなかった。その後、3軍の「戦力不均衡」は次第に改善されたものの、高官クラスの「人事の不均衡」は是正されなかった。そして、盧武鉉政権の「国防改革2020」と「国防改革に関する法律」制定(2006年12月)で解消されるかにみえた。合同参謀本部の下の高位指揮官参謀の補職比率を、陸海空それぞれ2対1対1(国防部直轄部隊は3対1対1)と法制化したのだ。文在寅政権時代までに人事不均衡に対する海・空軍の不満は多少軽減した。

 戦力構造と人事の不均衡は軍の命である団結力を阻害するため、他のいかなる不条理よりも重大な問題だ。尹錫悦政権の発足後は、この慢性的な問題が再び頭をもたげている。安保室(国防担当次長、秘書官、危機管理センター長)、国防部(長官、政策室長)、合同参謀本部議長などにすべて陸軍(陸軍士官学校)出身者が起用されているのだ。今年5月11日に発足した「国防革新委員会」(委員長は大統領)の副委員長も陸軍出身者だ。合同参謀本部「核・WMD対応本部」(現在の長は陸軍少将)を拡大して来年創設されることが予定されている戦略司令部の司令官も、陸軍出身者が務めることが確実視されている。戦略司令部は航空機、ミサイル防衛システム、潜水艦、宇宙戦力などを網羅した3軸体系を運用する計画であるため、陸軍よりも海・空軍の方が適しているはずだが、「戦略」という言葉が陸軍を引き付けている。

 筆者も(陸)軍出身だからか、「軍が病んでいる」と言われると抵抗を感じる。それでも肯定的に考えよう。診断と治療のためなら、このような表現はある種の愛情を表すものであるはずだから。尹大統領も軍を愛していると信じたい。

ムン・ジャンリョル|元国防大学教授

盧武鉉政権の国家安全保障会議(NSC)戦略企画室国防担当、文在寅(ムン・ジェイン)政権の大統領直属政策企画委員などを歴任。『軍事科学技術の理解』などの著者としてかかわった。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1094472.html韓国語原文入力:2023-06-03 08:00
訳D.K

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