韓国政府が日帝強占期(日本による植民地時代)の強制動員被害者が日本企業に請求した賠償金を国内企業の寄付で賄う案を示し、被害者が苦労して勝ち取った勝訴判決を形骸化させたという批判が高まっている。これに先立ち、朴槿恵(パク・クネ)政権は強制動員被害者の訴訟を妨害し裁判を長期化させたが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は10年ぶりに勝ち取った韓国最高裁(大法院)の勝訴判決を骨抜きにしたわけだ。日本企業から賠償も謝罪も受けることができなくなった被害者たちは、韓国政府を相手に闘わなければならない状況に置かれた。
現在、最高裁で勝訴確定判決を受けた被害者たちの法廷争いは、韓国だけで13年間にわたる。1997年に日本の裁判所に訴訟を起こした日本製鉄強制動員被害者たちは、2003年に敗訴が確定すると、2005年に韓国の裁判所に訴訟を提起した。1・2審は「日本裁判所の判決の効力が韓国でも認められる」として原告敗訴と言い渡したが、最高裁は2012年5月「被害者の損害賠償請求権は日本の違法な植民地支配および日本企業の反人道的違法行為による慰謝料請求権」だとし、1965年の韓日請求権協定で個人の慰謝料請求権まで消滅したとみることはできないとして、原審を破棄した。ソウル高裁は2013年7月、破棄差し戻し審で、最高裁の趣旨に従い「新日鉄住金(現日本製鉄)は被害者に各1億ウォンずつ賠償すべき」として、初めて強制動員被害者に一部勝訴を言い渡した。日本製鉄が判決を不服として再上告したことで、ボールは再び最高裁に渡された。
しかし、すぐ終わると思われていた最高裁の再上告審判決は朴槿恵政権とヤン・スンテ最高裁長官率いる司法府の「裁判取引」で、予想をはるかに超えて長期化した。韓日関係の悪化を懸念した朴槿恵政権が判決の先送りや判例の変更を求める一方、ヤン長官も当時宿願の事業だった上告裁判所の設置などを掲げてこれを受け入れた情況が、当時の裁判所事務総局の文書で明らかになったのだ。最高裁が2012年に判断した趣旨通り破棄差し戻し審で判決が行われたにもかかわらず、再上告審の結論が出るのに5年近く時間がかかり、2018年10月になってようやく原告勝訴の判決が確定した。審理不続行棄却(4カ月以内に本案審理なしに上告を棄却すること)を期待していた高齢の被害者たちは、結局勝訴判決が確定するのを見る前にこの世を去った。
尹錫悦政権が6日に提示した「第三者弁済案」はこのような難航の末に確定した最高裁判決の趣旨を無視したものだ。違法行為をした日本企業が被害者に損害賠償をしなければならないという最高裁判決にかかわらず、韓国企業が日本企業の損害賠償額を肩代わりし、被害者の債権を消滅させるという内容であるためだ。被害者たちは2018年の判決で敗訴が確定した後も損害賠償を拒んでいる日本企業を相手に、国内資産を現金化する強制執行過程を進めているが、政府はこの案件を審理中の最高裁に「問題解決に向けて外交的努力を尽くしている」という内容の意見書を提出し、被害者側から「裁判への介入」という反発を買った。事実上、事件処理を引き延ばしてほしいという要請だと、被害者側はみている。
民主社会のための弁護士会(民弁)は政府発表後、「なぜ尹錫悦政権が日本の強制動員加害企業の司法的責任を免責し、被害者の権利を認めた2018年の韓国最高裁の判決を形骸化させるのか」と批判声明を出した。強制動員事件を代理するキム・ジョンヒ弁護士は本紙との電話インタビューで、「政府の今回の決定は最高裁判決に反するものだ。法律の最終的解釈の権限は司法府にあるのに、政府が最高裁判決の趣旨を没却するのは三権分立の原則に反する」とし、「被害者の拒否意思を無視して(判決金の)供託が行われた場合は、その無効を法廷で争う計画」だと明らかにした。