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生配信の「ファン」があちこちでストーカー行為…BJたちには日常が恐怖=韓国

登録:2022-12-22 06:27 修正:2022-12-22 09:40
ストーカー行為に苦しむBJたちに聞いた
BJのソ・ミド(ハンドルネーム)さんの家に設けられた放送スタジオ=チャン・ナレ記者//ハンギョレ新聞社

 9月3日午前5時18分、BJ(インターネット放送で動画を配信する人)のソ・ミドさん(31)は寝ていたところ、びっくりして起き上がった。家の玄関ドアロックの暗証番号を押す音とともに、玄関に付けておいたドアベルが鳴ったからだ。まだ家に帰ってきていない家族はいないはずだった。玄関に出てみると、下駄箱の横に黒い帽子とマスクで顔を覆った一人の男性が立っていた。全身が固まってしまったソさんの代わりに、家にいた他の家族が「誰だ」と叫ぶと、男性の声に驚いた侵入者は「クソッ」という言葉だけを残したまま逃げた。「もし一人でいたら何が起きたか、考えるだけで恐ろしいです」。本紙のインタビューに応じたソさんが言った。

 ソさんは警察の捜査過程で、自宅に無断侵入した男性が、自分の運営するアフリカTV(AfreecaTV:韓国のP2Pベースの映像配信サービス)チャンネルの視聴者であるA氏(42)であることを知った。動画を生配信するたびにチャットを残し、BJの収益源である「星風船(投げ銭=映像配信者を支援できるオンライン送金システム)」も数回送ってもらったため、ソさんがニックネームまで正確に覚えている愛聴者だった。玄関のドアロックも動画視聴中に知ったソさんの個人情報を組み合わせて開けたものとみられる。暗証番号はソさんの誕生日4桁だった。ソさんは「一度生配信を始めると、3、4時間は行うため、知らず知らずのうちに個人情報を口にする場合が多い。どの駅の近くに住んでいるのか、誕生日がいつなのかは視聴者ならすぐに分かる。いくら気をつけても、数時間チャットで会話を交わす間、個人情報に全く触れないのは難しい」と話した。

 警察の調査でA氏は「ソさんがどんなふうに暮らしているのか、見てみたかった」と陳述したという。この事件を捜査した京畿道盆唐(プンダン)警察署は2カ月余りの捜査の末、A氏に住居侵入の疑いを適用し検察に送致した。警察はA氏の携帯電話やパソコンなどを押収し、ストーキング処罰法の適用を検討したが、今回の事件以外にはソ氏に付きまとったり連絡をしたりする持続的な行為が明らかにならなかったため、適用を見送った。ソさんは不安だ。「引越しをしたくても、家の契約期間もあるし、ほかの事情もあって、そう簡単には決められません。なぜ被害者が逃げなければならないのか、私にはわかりません」

 ソさんにはカメラのセッティング方法などを教えると言って近づいたり、一度も会ったことのない視聴者からストーカーのように交際を迫られたりする場合も多かったという。視聴者とリアルタイムで親密なコミュニケーションを取るうえ、視聴者の後援とチャンネル登録で収益が生まれる特性上、ソさんは「乙(弱い立場)」にならざるを得ない構図だと語った。「投げ銭を送りながら、食事権などと言ってデートを迫られたり、ニックネームを呼んで愛していると言ってほしいとか、肌の露出の多い服を着てほしいなどの要求を受けたりする場合が本当にたくさんあります。執着するのが一番厄介ですが、後援をしたからこれくらいは良いだろうと思うのかもしれません」

 セクハラと暴言など「人格殺人」も日常的に行われていた。「多くの視聴者の前でセクハラを受けても、加害者たちからは投げ銭をもらったのだから嫌なそぶりを見せるなと言われたりもします。不快感を顔に出さないのは本当に難しかったです」。我慢の限界だったソさんはセクハラを日常的に行った視聴者4人を警察に告訴し、現在捜査が行われている。そして、これらの出来事に耐えられず、結局、6カ月でBJの仕事を辞めた。被害者であるソさんは「私が投げ銭をもらうためにチャットで話したりしたことが、彼らに恋愛感情を抱かせたのではないかと思うと、辛かった」と語った。

 ソさんが受けた被害は視聴者と親密なコミュニケーションを取るBJの弱点を利用した代表的なストーカー行為だ。しかし、法的対応はもちろん、ストーキングの事実を訴えることすら躊躇するBJが多い。個人情報流出のリスクのある「セルタル」(セルフ個人情報公開)をしてこそ視聴者との距離感が縮まり、さらにBJの主な収益である投げ銭の後援につながるためだ。BJに対するストーカー事件を多く担当したイ・インファン弁護士(法務法人ジェハ)は「芸能人は主に憧れの対象であり、遠い存在のように感じられるが、BJはいつでも近くにいて自分と変わらない存在と認識される。ストーカーたちの犯行動機を聞くと、リアルタイムのチャットに対する反応で本人と交感する間柄だと勘違いしたり、類似恋愛感情を抱いて誤解したりする場合が多い」と話した。

 BJを始めて2年目になる20代のKさんも、このような理由で先月、各階に監視カメラが設置されているオフィステルを探して引っ越した。配信でちらっと体調が悪いと言っただけで、自宅の玄関のドアノブに薬の入ったレジ袋がかけられてあったり、ファンと言っていた男性がKさんの玄関ドアに耳を当てて盗み聞きしていて、Kさんに見つかったこともあったためだ。家の前のカフェでKさんが出てくるまで待ち続けるファンもいた。彼らにどうやって家を知ったのかと尋ねると「動画配信の時に窓が少し映ったことがあり、そこから商店街の店の名前が見えた」という答が帰ってきたという。一緒に暮らす家族に話しかけるファンもいた。「こういうことがあるたびに、ファンたちにとても怖いと訴えたが、『私たちが害を及ぼすわけでもなく、むしろ応援しているのに、何が問題なのか』と言われました。 BJが引っ越すというのは、数千万ウォンをかけて配信に必要な装備をセッティングし直すことを意味します。でも、家族に被害を与えるのも嫌だし、決めるのは簡単ではありませんでした」

 Kさんは玄関のドアに耳をつけていた男性を現場で見つけて通報してからは、ストーキングの可能性が見えても警察に通報はしないと話した。最初の通報当時、物証がないとの理由で、嫌疑なしの結論が出たためだ。「直接ドアの前で視聴者を見つけたのに、嫌疑なしになりました。すでにファンの間には何の被害もないのにファンを通報した破廉恥犯だと噂されて、収入源の投げ銭もあまりもらえなくなりました。他のBJたちも問題提起をして解決もされず、かえって被害を受ける場合が多く、深刻でなければ通報はしない人が多いですよ」。Kさんはショックで配信をしばらく休んでから、再開した。「それでもずっと配信を続けなければならないし、投げ銭も必要ですから」

BJのソ・ミド(ハンドルネーム)さんが10月24日、警察が提供したスマートウォッチを着用してインタビューに応じている。スマートウォッチは形などを公開しないでほしいという警察の要請によりモザイク処理した=チャン・ナレ記者//ハンギョレ新聞社
チャン・ナレ、イ・ウヨン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1072476.html韓国語原文入力: 2022-12-21 21:38
訳H.J

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