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カタールW杯を動かす「隠れた手」

登録:2022-12-05 03:07 修正:2022-12-05 09:00
AI予測能力vs人間の躍動性 
 
12台のカメラ、センサー付きサッカーボール 
アルゴリズムAI審判が判定の問題を軽減 
 
公共の安全を大義名分に顔認識カメラ 
正確さ欠如、プライバシー侵害に批判
22日(現地時間)のカタールW杯C組第1戦アルゼンチン対サウジアラビア戦。有力な優勝候補アルゼンチンにサウジアラビアが勝利した。12台の追跡カメラとセンサー付き公認球「アル・リフラ」が重要な役割を果たした=ルサイル/キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 ワールドカップ(W杯)サッカーは異変と熱気が噴出する場だ。アルゴリズムの精巧な予測システムはこれを制御できるだろうか。21日に開幕したカタールW杯は、優勝国予測、判定、公共の安全、競技場の運営までもが、最先端のセンサーとアルゴリズムによって駆動される。世界の人々の祭りにおいて先端デジタル技術が判定問題を減らし、公正な結果につながるという期待に劣らず、公共の安全を大義名分にして至る所に浸透したアルゴリズム技術は、敏感な個人情報の漏洩、プライバシーの侵害を招くと懸念されてもいる。

人工知能補助審判

 W杯開幕以降に存在感が際立っている技術は、半自動オフサイド判読技術(SAOT)だ。カタールとエクアドルによる開幕戦で、前半3分にエクアドルの選手が決めた初ゴールを無効にしたのも、この判読技術だ。競技場に設置された12台の追跡カメラと、センサーが装着された公認球「アル・リフラ」のおかげで可能になった先端判読技術だ。カメラは選手たちの関節の動きを29に分割して追跡しており、アル・リフラの中のセンサーは1秒に500回以上ボールの位置を感知してビデオ判読システム(VAR)に伝える。このように収集されたデータを人工知能が分析してオフサイドを判断し、審判に知らせる。

 今回のW杯で注目すべき異変として取り上げられているサウジアラビア対アルゼンチン戦も、半自動オフサイド判読技術が勝敗を分けた。アルゼンチンは前半に3度もサウジのゴールネットを揺らしたが、毎回判読技術によってノーゴールと宣言され、結局は敗北した。先端判読技術の導入によって、慢性的な判定問題が解消されるのはもちろん、サッカー全般のパラダイムすら変わるだろうという見方も出ている。

顔認識技術

 カタールW杯では、公共の安全と治安を大義名分として顔認識技術が一気に導入された。主催者によると、試合中の人々の動きを追跡するために1万5千台以上のカメラが配置された。顔認識カメラはテロや暴行など、多くの人の集まる際に発生しうる犯罪を防止するために使われる。競技場の内部と近隣の主な場所に設置され、競技場に入場した観衆と外部に集まっている数多くの人をモニタリングする。顔認識カメラが収集したデータは管理センターのセキュリティ技術者がリアルタイムでモニタリングしているため、非常事態が発生した際には迅速な対処が可能となる。英国のマンチェスター・シティ、スペインのアトレティコ・オサスナ、フランスのFCメス、オランダのNECナイメヘンなどの有数の欧州のサッカークラブも、チケット確認、競技場への接近規制などのために顔認識などの生体保安技術を導入しているが、正確さの欠如による問題が膨らんでいると、3日に米国の情報技術専門誌「ワイヤード」が報じている。

 顔認識技術は、誤用や乱用によってプライバシーが侵害されうる、偏向性および技術の欠陥により差別の根拠とされうる、という懸念が強い。2017年に英国カーディフのミレニアム・スタジアムで行われたイタリアのユベントスとスペインのレアルマドリードによるチャンピオンズリーグ決勝戦は、顔認識技術の不正確さと乱用が引き起こした人権侵害の代表的な例とされる。競技場に入場予定の7万人あまりの観衆のうち、2470人が顔認識技術によって過去に逮捕歴のある人と同一人物とされたが、92%が誤りだったとBBCは報道している。

 2019年に米国立標準技術研究所(NIST)がマイクロソフト製品を含む189の顔認識AIを分析したところ、黒人とアジア系に対するエラー率は白人の10~100倍にのぼった。女性や老人の顔を認識する際にもエラーがよく発生した。すでに逮捕などの司法権行使の過程で顔認識技術は頻繁に利用されているが、人種差別や人権侵害へとつながる恐れがある。米国では、顔認識AIの誤りで無実の黒人が犯人と誤認され、逮捕される事件が複数回報道されている。韓国でも今年1月に、法務部と科学技術情報通信部が出入国の際の本人確認用に収集・保有していた1億7千万件あまりの内外国人の顔情報を、民間企業に無断提供していたことが明らかになり、個人情報収集問題がふくらんでいる。

 欧州連合(EU)を中心として、顔認識技術を規制する動きも活発になっている。EUでは公共の場での顔認識技術の使用は原則的に禁止されており、行方不明の児童の捜索、差し迫ったテロの脅威の防止、重大犯罪の被疑者の検挙など、例外的な使用だけが認められている。

アルゴリズムによる勝敗予測

 W杯で最大の関心事は優勝の行方だ。ビッグデータを用いた優勝国予測アルゴリズムによると、ブラジルが有力だ。英国のアラン・チューリング研究所のアルゴリズムによると、ブラジルの優勝の可能性が25%で最も高かった。統計専門企業「オプタ」がスーパーコンピューターで予測した優勝候補もブラジルで、確率は15.8%だった。

 アルゴリズムによる予測は、スポーツはもちろん、生活の多くの領域に浸透している。アルゴリズムは巨大なデータを分類、分析して未来を予測する。しかし予測は、変化に対して開かれている可能性と未来への扉を狭める。サウジアラビアはアルゼンチンに勝利する確率8.7%を打ち破って初勝利を手にした。異変と反転はW杯の醍醐味であり、地球人の胸をときめかせる。人間の躍動性がアルゴリズムを超えることを、W杯は改めて確認させてくれる。

ハン・グィヨン|人とデジタル研究所研究委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/technology/1069196.html韓国語原文入力:2022-11-28 14:05
訳D.K

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