5泊7日の英・米・カナダ歴訪を終えた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が24日夜、空軍1号機で帰国した。歴訪外交を終えた大統領は通常、帰国途中に機内で同行取材陣と会い、歴訪期間の成果を説明するが、尹大統領は6月末の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議訪問の時とは異なり、今回は帰国途中の機内懇談会を行わなかった。今回の歴訪外交に関する大統領室内部の雰囲気をうかがわせる。「手ぶら屈辱外交」と低俗発言の波紋に染まった今回の歴訪を機に、外交・安保コントロールタワーを新たに立て直さなければならないという声が高まっている。
尹大統領は最初の歴訪先である英国から、エリザベス2世に対する「拝礼のない弔問」として話題になった。大統領室は「交通渋滞」にともなう英国側の案内に従ったものだと説明したが、現地事情をあらかじめ考慮して準備していなかった事前調整不足だという国内世論の叱責があふれた。
大統領室が歴訪の出発前から予告していたジョー・バイデン米大統領との韓米首脳会談は不発に終わり、ニューヨークの行事会場で「48秒対面」に代えられた。大統領室は事前ブリーフィングで韓国の電気自動車(EV)に対する補助金差別が盛り込まれた米国の「インフレ抑制法」(IRA)の解決策を議論すると述べ、期待感を膨らませたが、結果的に目に見える解決策は出てこなかった。
日本とは会合の形式すら曖昧な「韓日略式首脳会談」で低姿勢外交という論議を自ら招いた。尹大統領はニューヨークから岸田文雄首相のいる建物まで訪ね、30分間の話し合いにとどまった。最大懸案である強制動員被害者賠償に関する解決法はもちろん出ておらず、日本側は「非公式の懇談」として意味を縮小した。
ニューヨークを発つ直前に起こった尹大統領の「暴言」の波紋は、国民に今回の歴訪の全体的な印象を規定する事件となった。海外メディアに報道され、米議員たちが尹大統領に反発するツイートを掲載するなど、外交的波紋も膨らんだ。最初の論議から15時間後に大統領室が出した「尹大統領の発言の対象は米議会ではなく韓国国会」という趣旨の釈明は、かえって「嘘」という批判ととともに「韓国野党なら暴言を言ってもいいのか」という反発を招いた。暴言の波紋は外交政策の内容とは直接関係がないが、論議の発端とその後の釈明は外交・安保に対する大統領の無理解と参謀陣の無能さを象徴的に示した。
尹大統領の今回の歴訪をめぐる「外交惨事」は、表面的には外交の内容と形式などに関する事前調整不足と、現場の突発的な場面によるものだ。特に「実力者参謀」とされるキム・テヒョ国家安保室第1次長が15日、尹大統領の歴訪計画を事前に説明し、「韓米、韓日首脳会談を行うことで合意した」と性急に発表したことは、重大な失策の一つに挙げられる。この過程で大統領室が「(日本側が)快く合意した」と発表したことについて、日本側が不快感を示し、対話の主導権を日本に渡すことになったからだ。
だが根本的には、米中対立が深まる中で安保だけでなく経済・技術まで米国と同盟化しようとする尹錫悦政権の基調から始まった事態という指摘が出ている。「屈辱的な低姿勢外交」という批判が出るほど韓日首脳会談に執着したのも、韓米日安保協力を強調する米国の気を引くため前のめりになったためという分析だ。尹大統領は就任後、韓米同盟強化を叫んできたが、インフレ抑制法問題からも分かるように、ドナルド・トランプ政権と同様にバイデン政権もまた、米政界の超党的基調である「米国第一主義」を固守している。中央大学のイ・ヘジョン教授(政治国際)は25日、「対中国競争の激化の中で米国は力が落ち、過去とは違って同盟と利益を共有する余力がない」とし、「韓米同盟の基本算法、対米外交戦略の根本的な認識転換が必要な時点なのに、ひたすら米国だけを見つめている格好だ」と指摘した。
今回のような「外交惨事」を繰り返さないためには、尹大統領がすべての国が生き残りをかけた競争を繰り広げている国際情勢の中で、韓米同盟と韓米日協力強化に一方的に求愛する基調から脱しなければならないという指摘が出ている。
さらに、尹大統領がまず荒っぽい言葉遣いを慎むなど、激しい国際外交の場に臨む態度を変え、政府外交・安保コントロールタワーの交替にも取り組まなければならないという話も出ている。平和ネットワークのチョン・ウクシク代表は「参謀陣が尹大統領に外交・安保政策についてきちんと報告しているのかさえ疑問だ」とし「今からでも参謀陣を刷新し、大統領が専門家の話に耳を傾けるべきだ」と話した。