#昨年5月、ソウル北部地裁の刑事5単独のホン・スヌク判事は、女性の同僚のタンブラーに6カ月間に6回にわたり自分の精液を入れた疑いで起訴された40代の男性A氏に、罰金300万ウォン(約29万円)を宣告した。A氏に適用された罪名は「器物損壊」だった。器物損壊の法定刑は3年以下の懲役または700万ウォン(約67万円)以下の罰金であり、性犯罪で処罰する場合(10年、1500万ウォン(約140万円)以下)より軽い。性犯罪の前科が残らず、個人情報の登録・告知の対象からも除外される。
#同月、ベトナム国籍の女性B氏は、タクシーに乗ったところ、運転手から「20万ウォンあげるから私としよう」など、売春を提案する話を聞かされた。B氏は「結婚しているし、子どももいる」と言ったが、タクシー運転手はセクハラを止めなかった。下車後に警察に申告すると、「適用する容疑として適切なものがない」という言葉が返ってきた。現行法上、セクハラはその対象が障がい者・高齢者・児童である場合のみ加害者を処罰できる。男女雇用平等法に「職場内セクハラ」の処罰条項はあるが、その対象は事業主であり加害者ではない。結局、該当のタクシー運転手は何の刑事処罰も受けなかった。
身体の接触がないという理由で法の網を逃れる性暴力の事例は容易に見当たる。上記の事例のように、被害者は明らかな不愉快・脅威・恐怖感を感じるが、加害者を「処罰する法が適切ではない」と言う。現行の性暴力処罰法の限界のためだ。現行法は身体間の「接触」を基本とする前提で作られており、被害者の所有物やアバターなどを対象とする間接形態の性暴力や、言語的なセクハラのような「非身体的」性暴力は処罰が難しい。米国メディアが「韓国の法体係には、変態が厳罰を避けることを可能にする多くの穴がある」(「VICE」、昨年8月)と指摘するほどだ。
法務部デジタル性犯罪等専門委員会(ピョン・ヨンジュ委員長)は先月28日に発表した第5次勧告案を通じて、このような法の死角地帯を埋めるために「性的人格権」の概念を導入し、これを侵害する行為を犯罪として規定・処罰する必要があると提案した。性的人格権は、個人が自分の意思に反して性的対象化されない権利を指す。憲法10条の「一般的人格権」条項が「性的人格権」の概念も包括しているが、別の独立した法益を設定し、これに対する侵害行為をより幅広く確実に規制しようというのがこの勧告案の要旨だ。具体的に専門委は、現行の性暴力処罰法に性的人格権の侵害時の処罰規定を新設する案を提示した。例えば、「望まない性的表現が被害者に伝わるようにして、屈辱感または嫌悪感を誘発する行為」に該当すれば、物理力を伴わない非身体的行為でも処罰するということだ。実際、フランスでは、侮辱的・屈辱的に他人の尊厳を毀損したり、脅迫的・敵対的・攻撃的に性的または性差別的な言動をすることを「性的嫌がらせ」と規定し処罰する。韓国とは違い、言葉だけで成立する性的嫌がらせも明白な性暴力とみなすのだ。
専門委は、最近急増しているオンライン上での性的加害行為に対応するためにも、このような条項が必要だと指摘する。「ゲームやメタバースなどで、女性キャラクターを対象に性的な行為をしたり、ユーザーが女性であることを確認して性的な対話を誘導したり、侮辱、悪口、ストーキングを行うなど、オンライン上での性的嫌がらせの類型は多様化」している。10~20代の女性が主な被害者だ。それでも、言語的・非身体的行為という理由で処罰されないケースがほとんどだ。専門委は「(デジタル性暴力の)被害者は、周囲の人に対する信頼または日常生活の安全に対する感覚を喪失するなどの被害を経験する」とし、「被害者保護と追加被害の防止のために、加害行為を効果的に制止できる方法を模索する必要がある」と述べた。
専門委はまた、性犯罪者に対する保護観察の順守事項に「違法撮影物の所持・保管・視聴の禁止」条項を追加するよう勧告した。法務部が強姦・強制わいせつ・公衆密集場所わいせつなど罪名別に再犯率を分析したところ、カメラなどを利用した撮影犯罪者の再犯率が最も高かった(『2020性犯罪白書』)。専門委は「夜間時間帯の外出制限や特定場所への立入禁止のような既存の順守事項だけでは、性犯罪の再犯要因を除去することは難しい」とし、「オンライン活動に対する禁止を(保護観察順守事項に)追加する必要がある」と指摘した。