韓国政府が出入国審査に使う「人工知能(AI)識別追跡システム」の構築を名目に、韓国人・外国人の顔写真を民間業者に渡していたという事実が最近の本紙報道によって明らかになったことで、政府はようやく参加業者のリストを法務部のホームページに公開した。個人情報保護法上、個人情報処理業務を第三者に委託する場合には、受託者が誰であるかを開示しなければならない。しかし法務部は、これを事業開始から約2年間履行していなかったことが確認された。法務部が業者に個人情報を移転する際に結んだ契約は、単なる委託ではなく、違法な「個人情報提供」に当たるとの指摘も相次いでいる。
政府、個人情報を民間委託した事実を「ようやく公開」
25日の本紙の取材内容を総合すると、法務部は今月21日、出入国・外国人政策本部のホームページの「業務公示」の掲示板に掲示物をあげ、「個人情報保護法に基づき、法務部は個人情報処理業務委託契約において委託する業務内容と受託者を公開する」と明らかにした。この掲示物で法務部は、「AI識別追跡システム技術の開発および検証・実証」のために顔写真などの個人情報処理委託契約を結んだ24業者を公開した。このうち16社は昨年6月、8社は今年4月に契約を結んでいた。
政府が参加業者を公開したのは、個人情報処理業務委託者の義務を規定した個人情報保護法のためだ。同法第26条等は、個人情報処理業務を第三者に委託する場合は、委託業務の内容や個人情報処理業務の受託者などを「情報主体がいつでも容易に確認できる」形で公開することと定めている。しかし、政府が同事業の参加企業のリストを公開したのは、2019年4月に法務部と科学技術情報通信部(科技部)が了解覚書(MOU)を結んで事業を開始してから、2年6カ月がたってのことだ。
情報人権団体は、受託者公開の「時期と方法」がすべて過っていたと批判している。情報人権研究所のチャン・ヨギョン常任理事は「少なくとも個人情報が収集される時点で、その処理方針や受託者などが情報主体に知らされなければならない。法務部は2年以上にわたり通知もせずに個人情報を民間業者に利用させてきた」と指摘した。
これについて法務部関係者は「科技部とMOUを結んだのは2019年だが、実際に個人情報を実証サーバーにアップしたのは昨年8月ごろ」と説明した。参加業者のリストを最近になって公開したことについては、「錯誤があったものとみられる。規定上、公開するのが正しいと確認した」と述べた。
「顔写真は『委託』ではなく『提供』とみるべき」
政府は、個人情報を民間業者に「提供」するのではなく、単なる「処理委託」をする場合には、情報主体の同意を得る必要はないという立場を示している。個人情報保護法上「法律に特別な規定がある場合や法令上の義務を順守するために不可避な場合」には、本人の同意なしに個人情報を利用できるが、「出入国審査高度化」が目的である同事業はこのような事由に該当するというのだ。
法務部と科技部は最近発表した説明資料で「法務部は出入国審査のため国民・外国人の生体情報を収集・活用できるという法的根拠がある」とし「自動出入国審査台を通過する人の身元を迅速かつ正確に識別できるAI識別システムを開発するという目的で事業を推進している」と明らかにした。
しかし、法務部の契約内容は「委託」の要件に該当しないという法曹界内外の反論は少なくない。最高裁(大法院)は2017年4月、個人情報保護法に関する事件(2016ト13263)で「個人情報処理委託において、受託者は委託事務処理の対価以外に個人情報処理に関して独自の利益を有してはならない」との判決を下した。
一方、同事業の民間業者は少なくとも1億7000万件以上の韓国人・外国人の顔データからAIアルゴリズムを学習し、特許を取得するなど、「独自の利得」を得たとみられる状況が確認された。共に民主党のパク・チュミン議員室が法務部・科技部から受け取った資料「AI識別追跡システム関連著作権特許など知的財産権」によると、昨年だけで2社の民間業者が「カメラ入力映像ディープラーニング」「非対面口座開設システム」でそれぞれ特許を登録したか、特許決定登録を待っている状態だった。
政府は事業初期から「グローバル競争力確保」「新市場進出」などを参加業者に向けた「褒美」として掲げてもいた。これも受託者に「利益」を与えるという目的と解釈しうる余地がある。科技部は、2019年4月に法務部と業務協約を結んだ後の報道資料で「科技部・法務部の共同プロジェクトは、出入国システムの先進化と国内のAI技術力の向上を共に図る」とし「AI企業は、出入国システムの開発・高度化の過程でグローバル競争力をいち早く確保し、新市場に進出できる」と述べている。
民主社会のための弁護士会(民弁)のデジタル情報委員会所属のソ・チェワン弁護士は、本紙の電話取材に対し、「民間業者が手を出せない個人情報にアプローチして得た無形の利益と特許などは、この事業を通じた『独自の利益』とみなすことができる」と述べた。さらに、「個人識別システムを開発することは出入国審査目的の個人情報の利用でもないため、委託要件を備えていないとみられる。政府が個人情報を民間に『委託』ではなく『提供』したということ」だと指摘した。
弁護士協会・民弁など法曹団体が相次ぎ「批判声明」
大韓弁護士協会(弁協)と民弁などの法曹団体は、このような方式の個人情報の民間移転に対して、相次いで憂慮を表明している。弁協は22日に声明を発表し、「顔認識データを民間業者に大量に提供した政府の個人情報軽視行為に対して深刻な憂慮を表明する」「出入国審査過程で確保した顔画像などの映像は、他の情報(パスポート情報)と簡単に結びつけられて個人を特定しうる情報に当たる。提供・利用などの処理は慎重に行わなければならず、原則として(利用に対する)当事者の同意が必要だ」と述べた。