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韓国政府、出入国者の顔写真1億7千万件をAI開発民間企業に提供していた

登録:2021-10-21 06:31 修正:2021-10-21 07:12
仁川空港第2旅客ターミナル自動出入国審査システム/聯合ニュース

 韓国政府が出入国審査に使う「人工知能」(AI)開発のため、約1億7千万件の韓国人や外国人の顔写真を民間企業に提供したことが確認された。生体情報の顔は個人情報の中でも処理規定が厳しい「センシティブ情報」だ。政府はこの情報を当事者の同意なしに民間に提供しており、今後議論を呼ぶものと予想される。さらに政府は、仁川国際空港の入国ロビーに数百台のカメラを設置し、生体情報をさらに蓄積している。共に民主党産業の育成のために政府が強引な手段を取っていると指摘されている。

■1億件以上の顔写真、民間に提供

 20日に共に民主党のパク・ジュミン議員が法務部と科学技術情報通信部(科技部)から入手した資料によると、両部処は2019年4月に了解覚書(MOU)を締結し、2022年に完了することを目標に「AI識別追跡システム構築事業」を進めている。法務部が出入国審査過程で確保した韓国人と外国人の顔画像や国籍、性別、年齢などの情報を科技部に移管し、科技部がこれを民間企業に移管してAI技術を研究する事業だ。パスポートのスキャンなどをせずに出入国者の身元識別や危険状況の事前探知ができるようにするなど、出入国審査の高度化を目的に掲げている。2019年6月に、ホン・ナムギ副首相兼企画財政部長官の主宰で開かれた関係長官会議の後に政府が発表した報道資料にもこの事業に関する言及はあったが、データ収集の範囲や方法、開発主体など詳細な事業構造が確認されたのは今回が初めて。

 同事業で昨年、民間企業が法務部から提供された顔データのうち、外国人の情報は約1億2000万件。民間企業はこのうち1億件を「AI学習用」に、2000万件を「アルゴリズム検証用」として使用した。2018年現在、法務部は外国人約9000万人の顔写真を2億枚以上持っているが、このうち半分以上を学習用として使ったことになる。

 韓国人出入国者の顔写真も「AI学習」に使われた。法務部はパク・ジュミン議員に送った文書で、「AI識別追跡システム事業で(韓国人の)約5760万件の顔データを使用した」と明らかにした。現行の出入国管理法上、法務部は入国審査時に韓国人の顔面などの生体情報は収集・保存していないが、2008年に導入された自動出入国審査を申請した韓国人の指紋や顔写真などは保存している。法務部はこの際得た韓国人の顔写真と性別や年齢などの情報を科技部に移管したという。

■スマートなAIとアルゴリズムの開発が目的

 今年からは「リアルデータ」を得るという名目で仁川空港の出入国場を通る韓国人と外国人の「動画」も収集している事実も確認された。民間企業に提供される「顔画像」の情報量は、今後さらに増える可能性があるという意味だ。法務部は昨年だけで仁川国際空港の出入国審査台の周辺に顔面認識用の固定型カメラ50台、4面全方向カメラ26台、回転型カメラ12台の計88台のカメラを設置した。今年6月、科技部傘下の情報通信産業振興院(NIPA)が作成した事業提案書にも、100台以上のカメラを出入国審査場や審査台のブースに追加設置するという計画が含まれている。事業期間中の2019~2022年に毎年約100台、計400台のカメラで現場データを確保するというのが政府の計画だ。

 民間企業は出入国管理区域のカメラで撮られた人と、これまで法務部に登録された韓国人と外国人のデータを照合する「1対多数」のマッチングアルゴリズムを開発している。入国審査場で「異常行動」を示した人まで、既存の登録データと照らし合わせて誰なのかを探す学習をする。現行の自動出入国審査でのように、カメラの前の人物がパスポート写真の人物と同一かどうかを検証する「1対1」マッチングより複雑な形だ。事業提案書を作成した情報通信産業振興院は、「出入国者の顔の位置追跡と撮影」をして「監視カメラ(CCTV)に撮影された写真と既存のデータベースの写真との比較で(写真の中の人物が)登録された出入国者であるかを確認し、撮影された写真と同一人物を見つけるまでデータベースを照会する」と説明した。

■「類を見ない規模の情報人権侵害」

 顔画像などは、個人情報の中でも個人の身元を特定するのに使われる「センシティブ情報」だ。 個人情報保護法は、「個人の身体的、生理的、行動的特徴に関する情報として特定の個人を識別する目的で生成された情報」などをセンシティブ情報と規定する。センシティブ情報の第三者への提供や処理のためには、情報主体の「別途同意」が必要だ。

 法務部、科技部はこの情報を「情報主体」の同意なしに使ってきた。法務部はパク・ジュミン議員室に送った文書で「法務法人から法律諮問を受けるなど慎重な検討を経て、この事業が出入国審査という情報収集目的範囲に該当すると判断した」とし、「情報主体の同意は受けていない」と明らかにした。

 市民団体などからは「類を見ない規模の情報人権侵害だ」という批判が出ている。チャン・ヨギョン情報人権研究所常任理事は「出入国する韓国人や外国人の実際のデータを告知や同意なしにAI開発のため使用し、民間企業に提供した事例は国際的にも見当たらない。衝撃的な事件」だと指摘した。パク・ジュミン議員は「AI識別追跡システムは出入国審査を容易にし、空港内の安全維持にも役立つ側面があるだろうが、同事業が個人のセンシティブ情報を扱う際、当事者の同意もなく、特別な根拠規定もない状態で進められたなら、直ちに適法性を再検討すべきだ」と述べた

チョン・ホソン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/economy/it/1016022.html韓国語原文入力:2021-10-21 04:59
訳H.J

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