21日午前11時30分ごろ。ネットフリックスの人気ドラマ「イカゲーム」の主要ロケ地であるソウル道峰区双門洞(トボング・サンムンドン)の白雲(ペグン)市場の路地で、4人の商人が熱く討論していた。ドラマの人気をきっかけに道峰区役所の公務員が2日連続で訪れ、市場に「道峰区文化広報館」を設立するのはどうかと商人たちの意見を聞いたのだ。商人たちは「訪れる人が増えるのはいいことだ」「だからといって売上増加につながるわけではない」と各自の意見を述べた。
小さな65の店舗が集まる白雲市場は、40年以上の歴史があるにもかかわらず、普段は町内の住民だけが利用してきた小さい市場だった。しかし最近は外部からの人出が絶えない。先月17日に公開された「イカゲーム」がグローバルコンテンツとなってからというもの、外国人客とユーチューバーがカメラを持って市場を訪れるようになったのだ。商人たちは、市場が有名になるのは喜ばしくもあるが、ともすれば「観光客疲れ」するだけではないかとの反応も示した。
この日、ドラマのロケ地である「八道干物屋」の前には「サンウの魚屋-八道干物屋」、「イカゲームのロケ地、イ・ジョンジェ主演」と書かれた発泡スチロールの箱が、商品の陳列台の上に置かれていた。ドラマに出てきた店の様子を印刷した紙や宣伝用ポスターなども、発泡スチロールの箱に貼り付けられていた。この店で8年にわたり干物を販売してきた社長のSさんは「(ドラマのロケ地なのかを尋ねる)確認の電話をかけてくる人があまりにも多いので、書いて貼っておいた。宣伝用ポスターはお客さんが作ってくれた」と説明した。外国人やユーチューバーなど、訪れる人は増えているが、売上げには変化がない。Sさんは「1人で店を経営しているが、写真を撮りにくるお客さん全員に応対するのは大変。かといって、わざわざやってくる人たちを粗末に扱うわけにもいかない」と語った。
白雲市場と共にドラマに登場したコンビニ「CU牛耳川(ウイチョン)店」も忙しくなった。店主のチェ・グィオクさんは「夜に車で水原(スウォン)や安養(アニャン)などから外国人がやってくる。4~5人のスウェーデン人が2、3回、韓国人通訳まで連れてきて映像を撮影していったりもした」と話した。彼らはラーメンと焼酎を買い、実際にドラマの主人公が座った席に座って、そっくり真似をして帰っていったという。CU本社の社員が値札も新しいものに取り換えてくれたことで、チェさんはドラマの人気を実感した。
商人たちは思わぬ人気に喜んでもいたが、ドラマの中のイメージで訪れる人々のせいで市場の近代化計画が白紙に戻されるのではないかと心配もしていた。惣菜店を営むAさんは「市場が老朽化しすぎているため現代風に補修しようとしているのだが、観光地になってしまうと老朽化した状態を保たなければならないのではないか」と懸念を示した。八百屋の店主のBさんも「市場に人がたくさん来るのはいいが、実際にそれが売り上げにつながらなければあまり意味がないと思う」と語った。市場活性化業務を担当する白雲市場マネージャーのイ・ソンヒさんは「ドラマによって白雲市場の特定店舗だけが有名になる一時的な人気で終わるのではなく、市場全体が活気を取り戻してほしい。市場にふさわしいコンテンツ開発について悩んでいる」と話した。