本文に移動

[寄稿]「イカゲーム」の視聴者を見る楽しみ

登録:2021-10-21 06:47 修正:2021-10-21 08:02
チェ・ソニョン|延世大学コミュニケーション大学院客員教授
ネットフリックスのドラマシリーズ「イカゲーム」のスチールカット=ネットフリックス提供//ハンギョレ新聞社

 1980年代に全世界的な人気を得た米国ドラマ「ダラス」は、上流階級の偽りと偽善、欲望、道徳的なジレンマ、出生の秘密など、俗物的な典型性と非現実性を等しく備えた低俗なドラマだった。90数カ国に輸出され、「ダラス一色」と言われるほどの熱い成功をおさめたが、複数の国では、低俗なドラマがハリウッド文化帝国主義を強化したという批判が続いた。特に、主な視聴者層である女性を質の悪い連続ドラマを見る愚かな大衆だと蔑視する批評が多かった。1982年にオランダで超国家的な「ダラス現象」を観察した大学院生のイエン・アンは、この一方的な主張の妥当性を検証するために、興行成績には表れない視聴者のドラマを楽しむ心理の調査を始める。「ダラス」ファンに熱狂の理由を書いて手紙を送ってほしいという広告を女性雑誌に載せ、彼女らの返事を受けとり研究する。手紙の分析の結果、アンは彼女らが「感情的リアリズム」と「嘲弄的視聴」という両面性を持っていることを見つける。ドラマのすべてのストーリーと設定にひたるのではなく、登場人物の葛藤、幸福、愛のような共感が可能で普遍的な感情には現実的な一体感を感じる反面、現実性のないストーリーと設定に対しては優越感を感じ嘲弄的な視聴を楽しむということだ。

 アンの研究『ダラスを観る楽しみ』(原題:Watching Dallas、1985)は、ネットフリックスのドラマシリーズ「イカゲーム」の集団視聴が起きているグローバルな視聴共同体の反応を理解するための洞察を提供する。今は検索で何でもわかる時代で、いつどこで誰とどう見ているのか、どのような場面に反応するのかを容易に調べてみることができる。驚くべきことに、K-POP現象で見られたユーチューブのリアクション動画(番組を視聴している様子を撮った動画)が「イカゲーム」で再現されていた。専門のレビュアーだけでなく、スペインの山里に住む農家からゲーマーまで、様々な国籍・人種・性別・年齢層の人々がこのドラマを見て笑い、泣いて、驚いていた。緊張感あふれる恐怖のシーンでは顔を隠して悲鳴を上げたかと思えば、たちまち登場人物に感情移入し、ゲームに勝つのを応援する姿は、自分と同じだった。

 特に、字幕の読みとりを極度に嫌う外国人が韓国語版を視聴する場合が多く、興味深い。俳優の演技を余すところなく鑑賞でき、より背筋が寒くなる感じがするという理由で、韓国語版を“勇気をもって”選択するユーチューバーが多かった。レビュアーが韓国語のセリフを完全に理解できなければ、世界各地の「イカゲーム」のファンたちが、わざわざ文脈についての説明のコメントを付けているのも、独特な現象だ。一部からは、韓国語が言語的な不便さを引き起こし韓流の拡散の妨げになっていると指摘されているが、韓国語はむしろ文化の多様性の幅と深さを加えてくれているようだった。アクセス数が多い第6話「カンブ」のリアクション動画のレビュアーは、一様に嗚咽と沈黙、途方に暮れた表情で視聴を終え、まれに本編よりさらに深い苦痛を感じさせることさえある。そのためか、オンライン空間では「このエピソードは、リアクティング・コミュニティを焦土化させた」「このエピソードを見たら、他の人のリアクションビデオを見てみたくなる」などのコメントが話題になっている。

 米国のあるレビュアーは「イカゲーム」について「徹底的に娯楽的だが、どうして鋭い社会的批判まで加えることができるのか。このようなシリーズは生まれて初めて見た」と述べ、ハリウッドのコンテンツとは完全に異なるストーリー形式に衝撃を受けたことを告白した。見慣れているように感じていた「感情的リアリズム」とは違う、おそらく「社会的リアリズム」という新しい覚醒が起きたためではないだろうか。

//ハンギョレ新聞社

チェ・ソニョン|延世大学コミュニケーション大学院客員教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1015790.html韓国語原文入力:2021-10-20 02:30
訳M.S

関連記事