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どれだけ、そしてなぜ…統計を把握できない韓国の「妻殺害」

登録:2021-09-07 04:26 修正:2021-09-07 08:00
韓国の犯罪統計から抜けている「配偶者殺害」 
犯罪者-被害者関係のカテゴリーに「配偶者」なし 
ジェンダー暴力、最も極端な形態が把握できず 
「親密な関係の暴力、統計を体系化すべき」
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

#1.離婚訴訟中の妻を殺害した40代の男性が5日に拘束された。A容疑者は所持品を取りに家に立ち寄った妻を長剣(日本刀)で殺害した。現場には妻の実父もいたという。

#2.先月5日午前1時37分ごろ、京畿道坡州市(パジュシ)のあるマンションで、40代の男性B容疑者が凶器で妻を殺害し、その後、本人も命を絶った。

 今年8月の1カ月間に韓国国内の通信社で報道された「妻殺害」事件は10件(重複を除く)だった。2件は警察の捜査段階で、8件は裁判所の判決が報じられた。発生時期はそれぞれ異なるが、「0親等」の男性によって命を落とす女性の数が少なくないことがわかる。

 では年間規模はどうだろうか。わからない。毎年「韓国女性の電話」が発行する報告書「親密な関係の男性による女性殺害の分析」によると、昨年は97人の女性が親密な関係の男性に殺され、このうち45人の加害者が夫(元夫を含む)だった。この数値もメディアに報道されたもののみをまとめたもので、実際にはもっと多いだろう。未遂に終わった事件なども除外されている。

 「妻殺害」は、家庭内暴力の主な対象が最も極端な被害者となる類型に属する。しかし実態が分からないため、問題意識の向上や政策的対応も図られにくい。

 実際のところ、「妻殺害」は捜査機関による犯罪統計からして存在しない。警察や検察が出している統計の中の「犯罪者と被害者の関係」のカテゴリーには「配偶者」がないからだ。

 代表的な犯罪統計である「警察犯罪統計」と「最高検察庁犯罪分析」は、犯罪者と被害者の関係を15種に分類している。国家▽公務員▽雇用者▽被雇用者▽職場の同僚▽友人▽交際相手▽同居親族▽その他の親族▽取引相手▽隣人▽知人▽他人▽その他▽不詳だ。殺人、強盗、強姦などの主要犯罪が主にどのような関係において発生するかを把握するために分類したものだ。

 この分類に「配偶者」はない。配偶者殺人は「同居親族」カテゴリーに含まれるが、この分類の中には親または子どもを殺害する尊属・卑属殺害なども含まれるため、配偶者殺害の現状と規模を正確に把握することは難しい。実際に、2019年に発生した1050件の殺人犯罪では、犯罪者と被害者の関係は親族(27.1%)が最も多かった。配偶者、子ども、親、兄弟などによる殺人がすべてまとめれたためとみられる。

 ジェンダー暴力の実態把握は当然にも不可能になる。家庭内暴力は一般的に家族構成員内で発生した暴力をいうが、2017~18年に発生した家庭内暴力犯罪のうち「加害者が男性、被害者が女性」の事件は74.8%(韓国女性政策研究院)にのぼる。性別による権力不均衡が暴力の原因となるジェンダー暴力的性格を帯びているのだ。しかし、同居親族という広い範囲で括られている現行の犯罪統計では、このようなジェンダー暴力の性格はあまり目立たない。最高検察庁の「犯罪分析」は罪名を基準として分析が行われている。例えば、家庭内暴力事件でも殺人が発生すれば一般殺人事件、暴行があれば一般暴行事件として括られる。統計だけでは配偶者殺人の発生状況はもちろん、家庭内暴力の被害者に対する臨時措置の現状なども把握できないのだ。韓国女性政策研究院ジェンダー暴力研究本部のチャン・ミヘ先任研究委員は「女性に対する暴力が最も極端に現れる事例が配偶者殺害だが、現行の犯罪統計がこれを把握できていないのは問題だ」と指摘した。警察大学のノ・ソンフン教授も「犯罪統計は関連対策樹立のための基礎資料だ。この統計が細かくなければ、対応策づくりにも限界が生じる」と述べた。

 最高検察庁は「犯罪分析」とは別に毎月「家庭内暴力事犯の通報・処理の現状」を発表してはいるが、総通報件数▽求公判・求略式・不起訴などの処分件数が分類されているに過ぎない。家庭内暴力の主な加害者と被害者は誰で、どのような種類の暴力が主に発生しており、それに伴って捜査機関がどのような措置を取ったのかは、この統計では把握できない。

 配偶者カテゴリーが抜けている犯罪統計の限界は、すでに何度も指摘されてきた。2019年5月に女性家族部と統計庁が開催した「女性暴力犯罪統計の改善」をテーマとするセミナーでは、韓国女性政策研究院のユン・ドッキョン研究委員(現在は名誉研究委員)が発表の中で「現在の被疑者統計原票の『被害者との関係』で、家庭内暴力を集計しうる項目は同居親族程度であり、家庭内暴力の主な対象である配偶者が抜けている」と指摘している。同セミナーで京畿大学のイ・スジョン教授(犯罪心理学)は「韓国の殺人統計は、加害者と被害者の犯罪分類が非常に限定的」だとし、米バージニア州の犯罪統計と比較した。バージニア州の犯罪統計は「殺人の犯罪者・加害者と被害者の関係」を、親密な関係▽前・現配偶者▽事実婚の配偶者▽交際中の異性▽同性愛関係など、計24種に分類している。韓国より9種多い。イ教授はまた「IPH(Intimate partner homicide=親密な関係における殺人)の加害者は大半が男性、被害者は女性であり、男性IPH犯罪者は性的嫉妬と所有欲のために殺人を犯し、IPHを犯した女性は虐待関係を終わらせるために殺人に頼るなど、恐怖から反応する傾向を示した」との研究結果を紹介した。

 専門家は「親密な関係における暴力(IPV=intimate partner violence)」についての体系的な統計作成が必要だと口をそろえる。韓国刑事・法務政策研究院のチャン・ダヘ研究委員は「『親密な関係における暴力』統計は、国際社会のジェンダー関連の現状を比較する際の主要指標として用いられる。にもかかわらず韓国はこの統計が構築されておらず、比較そのものが難しい。まず、親族カテゴリーから配偶者などを分離すべきだ。女性暴力防止基本法の趣旨に則り、親密な関係における暴力についての統計を別途作成することも必要だ」と述べた。2018年に制定され、2019年12月に施行された女性暴力防止基本法は、女性に対する暴力の発生状況などに関する統計を体系的に管理するため、女性家族部長官がこれを定期的に収集・算出・公表するよう明示している。

チェ・ユナ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/women/1010626.html韓国語原文入力:2021-09-06 15:37
訳D.K

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