ユン・ソクヨル前検察総長が在職していた時の検察が、未来統合党(現・国民の力)側に告発状を渡し、汎与党陣営の要人を告発するようそそのかしたという疑惑が浮上した後、関係者らの証言が交錯し、攻防が続いている。告発状を受け取ったことを事実上認めたキム・ウン議員(当時、未来統合党の議員候補)と、疑惑を全面否定したユン・ソクヨル陣営の立場が異なっているうえに、陣営側がテレグラムの証拠画面は捏造だという疑惑まで提起し、疑問点は今もなお解消されずにいる。
キム・ウン議員、告発状を受け取って渡したのか
議論の中心には、検察と野党をつなぐ役目を果たしたとされるキム・ウン議員がいる。キム議員は2日に立場を表明し「当時の議員室には多くの情報提供があり、情報提供された資料は当然、党の法律支援団に渡した。情報提供された資料であれば、それを党に渡すことは全く問題にはならない」と主張した。「公益情報の提供」を強調し、党に告発状を渡したという点を事実上認めたのだ。告発状を作成したという疑惑を持たれている最高検察庁のソン・ジュンソン捜査情報政策官(当時)は、キム議員の司法研修院での同期(29期)だ。
国民の力のイ・ジュンソク代表は3日、ソウル中区のプレスセンターで行われた寛勲討論会で、キム議員の「不確実な返答」を根拠に党務監察に着手することを明らかにした。キム議員の釈明が疑惑を後押しする根拠となると認識したユン・ソクヨル陣営は、同日キム議員に「詳細に検討して発言せよ」というメッセージを送った。陣営総括室長のチャン・ジェウォン議員は韓国放送(KBS)ラジオでのインタビューで、「キム・ウン議員は、当時は議員ではなかったうえに、正しい未来党側から未来統合党に来て公認を受けて出馬した人だ。そのような人に告発状を渡す馬鹿がいるだろうか」と述べた。チャン議員はまた「ユン・ソクヨル氏が本当に野党の告発が必要だと言ったならば、当時の(未来統合党の)法律支援責任者はチョン・ジョムシク議員だったが、ユン氏とチョン議員はとても近い間柄だったため、チョン議員に渡してすぐに告発させればいい。なぜ人を介して渡す必要があるのか」と抗弁した。ユン陣営のキム・キョンジン対外協力特別補佐もこの日、CBSラジオに出演し、「野党候補として出馬している人に、代理告発をしてほしいといって告発状を渡したというのか。これは今の状況とは整合性がまったく取れていない」と述べ、「キム・ウン議員は詳細に検討し、釈明する報道資料を出す必要がある」と語った。ユン・ソクヨル陣営とは異なる釈明をしているキム議員に対し、警告を鳴らしたものと読みとれる。
今回の疑惑を最初に報道したインターネットメディア「ニュースバース」は、キム議員が違法性を認識して告発状を党に渡したという証拠を持っていると主張した。発行人のイ・ジンドン氏はこの日、TBSラジオのインタビューで「告発状を党の法律支援団に渡したと述べたキム・ウン議員が、当時違法性を認識して渡したことを立証できる状況資料がある」と語った。 また、「キム議員がこのことをリークしたと推測している人が多くいるが、絶対にない」と述べ、「(リークしたのが)キム議員であるのなら、釈明や弁解をとりとめもなく不十分にしたりはしなかっただろう」と反論した。
メッセンジャーに表示された「ソン・ジュンソクより」は捏造?
ソン検事が告発状を作成したという疑惑についても攻防が繰り広げられている。ニュースバースは今回の疑惑を報道するなかで、昨年4月3日にソン検事が告発状をキム・ウン議員にメッセージアプリのテレグラムを通じて送信した時の「ソン・ジュンソンより」と表示されてる画面のキャプチャー画像を公開した。しかし、ユン・ソクヨル陣営は、テレグラムの名前を操作した可能性まで取りあげている。キム・キョンジン特別補佐はこの日、「発信者のテレグラムのメッセンジャーの設定で名前を『ソン・ジュンソン』に設定すれば、その人の正体が誰であってもソン・ジュンソン氏が送ったかのように表示されることになる」と述べ、「監察の過程を通じて明らかにされるだろうが、捏造が行われた可能性も十分にあると思われる」と語った。ソン検事も「(告発状を)渡した事実自体がない」と否定している。キム・ギョンジン特別補佐の主張のように「第3の人物」の電話番号に対し「ソン・ジュンソン」と設定しておき画面を捏造したとすれば、前代未聞のフェイクニュースとなる。
ユン・ソクヨル陣営がこのような捏造の可能性まで提起するのは、ソン検事が担当した最高検察庁の捜査情報政策官の地位の特殊性のためだ。犯罪情報を収集・管理し検察総長に直接報告する捜査情報政策官は、検察総長の「目と耳」の役目を果たす重要な参謀だ。昨年8月にチュ・ミエ法務部長官(当時)が、次長検事級の捜査情報政策室を部長検事が担当する捜査情報担当官室に縮小・改編したが、ソン検事はそのまま留任となった。ユン前総長の信任によって可能な人事だった。ソン検事が最高検察庁の捜査情報政策官として野党側に告発状を渡したとすれば、ユン前総長の指示とみなす以外には考えられない。ニュースバースの発行人イ・ジンドン氏も「検事や検察を取材したことのある記者であれば、ソン・ジュンソン検事が就いていた『捜査情報政策官』がどのような地位なのか全員が知っている。その地位の属性上、検察総長の指示なしには動けない」と強調した。
ユン・ソクヨル前総長は「政治工作」と反発…「検察総長が知らなかったといって逃れることはできない」
結局、ソン・ジュンソン検事がキム・ウン議員に告発状を渡したという疑惑が事実であれば、最終的にはユン前総長の責任を追及しなければならない状況になる。しかし、ユン前総長は疑惑自体を全面否定しており、「政治工作」だと強く反発している。ユン前総長はこの日、ソウル鍾路区の韓国キリスト教会館で記者団に「一体、何をしようというのか分からない。あるのなら(証拠を)出すべきだ。政治工作は一度や二度ではない」と言って不快感を示し、「誰かを告発せよと言ったこともなく、そうする理由もない」と否定した。
ユン前総長は「昨年1月、(法務部が)正しい立場を擁護した検事たちまで含め全員を報復人事で追い出し、国民感情がぎすぎすした」とし、「この事件で告発がなされたとしても捜査を行うかどうかわからないのに、それをそそのかすということ自体が常識に反する」と強調した。さらに彼は「チャンネルA事件も、結局は選挙目的の政権側とマスコミによる政治工作だったことが明らかになった」と述べ、「常識ある国民の皆さんが適切に判断するだろう」と付け加えた。共に民主党が国会法制司法委員会を召集し、緊急懸案質疑の形で出席を要求しうるという情報についても、「昨年、私を監察懲戒したことも工作だったのだから、その工作の方から先に捜査し、懸案質疑と緊急質疑、国政調査を先にやってほしい」と述べた。すべてが政治工作だという主張だ。
ユン前総長は「誰かを告発するように言ったことはない」と主張したが、最高検察庁の捜査情報政策官が野党側に告発を教唆したのだとしたら、「指示したことはない」という説明で逃れることはできないという指摘が出ている。国民の力の大統領候補であるチェ・ジェヒョン元監査院長はこの日、「たとえ知らなかったとしても、(ユン前総長は)指揮責任からは逃れられない」と指摘した。国民の力のある議員は本紙に「検察でそのようなことがあったというのが事実だと判明すれば、最高責任者である検察総長が知らなかったと責任逃れをすることはできない問題」だと述べた。