原子番号94、プルトニウム(Pu)。太陽系の端を回る準惑星「冥王星(プルートー)」の名にちなんだこの銀灰色の金属は、世界で最も危険な核物質とされる。1945年に長崎で巨大なきのこ雲を噴き上げ、7万人を死に追いやった爆発は、ビリヤードボールほどの大きさの約6キロのプルトニウムの塊が生み出したものだ。
核兵器用の物質の生産に反対する科学者と政治学者のグループである国際核物質専門家パネル(IPFM)の調査によると、昨年初め現在で約540トンにのぼる世界のプルトニウム累積量のうち、316トンは民間用に分類される。米国、フランス、日本など10カ国あまりが核燃料サイクルを大義名分として原子炉の使用済み核燃料を再処理し、ため込んでいるのだ。
「核拡散問題まで論じずとも、プルトニウムを燃料として使うこと自体が話になりません。プルトニウムを燃やすという高速炉プログラムはまったく経済性がなく、再処理で取り出すことで二次的に放射性物質が流出し、環境面でも利点がない。すべてが否定的で、喜ぶのは研究費を受け取る原子力業界だけです」
文在寅(ムン・ジェイン)政権で最初の原子力安全委員会委員長を務めたカン・ジョンミンさん(現在は原子力コンサルタント)は「原子力業界が核燃料として使用する資源であるウランの不足に対する憂慮から追求したプルトニウムのリサイクルの夢は、今や全世界の悪夢になってしまった」として、このように主張した。
カンさんは、東京大学で核燃料サイクルの研究でシステム量子工学の博士号を取得後、IPFMの設立者であるプリンストン大学のフランク・フォンヒッペル名誉教授とともに、原子力業界が語らないプルトニウムのリサイクル問題について発言を続けてきた。カンさんとフォンヒッペル教授は2019年末、もう一人の専門家である日本の田窪雅文博士とともに、自分たちの主張を一般人に分かりやすく伝えるための本『プルトニウム』を世界的な学術書籍出版社であるシュプリンガーから出している。この本が最近、韓国で翻訳出版されたことを機に、本紙は先月31日、カンさんがたまに行くソウル大学持続可能発展研究所の研究室でインタビューを行った。
「高速増殖炉の燃料として使う原子炉級プルトニウムでは核兵器は作れない、という話をする人がいまだにいますが、それは技術的に完全な誤り。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを抽出することは、全世界どこでも禁止されるべき、というのが私たちの本の要旨」だとカンさんは述べた。
カンさんは、環境団体の脱原発の主張には100%は同意しないが、大容量の原発を建設することには反対する。そのような自らの立場を彼は「漸進的脱原発」と規定した。原子力の専攻者としては珍しく、核燃料の再処理と原発に否定的な彼の見解は、東京大学の博士課程とプリンストン大学でのポストドクターとしての経験で固まった。
カンさんは、ソウル大学原子核工学科で修士を終え、原子力研究院での3年間の勤務を経た後にようやく留学の途についた。「原子炉に核燃料を入れて燃やすことについての研究はよくなされているんですが、燃やした後の燃料を処理することについてはきちんとなされていなかった。それで、その問題を勉強して一生の生業としなければならないと思ったんです」
プリンストン大学のフォンヒッペル名誉教授らと
核燃料サイクルの問題点を指摘した『プルトニウム』著す
2年前に英語版を出版し、最近韓国で出版
「日本で起こるところだった使用済み核燃料プールの火災
古里で発生すれば全国民が避難迫られる
使用済み燃料の地層処分が答え」
カンさんは、東京大学の博士課程に籍を置いていた際に、日本の電力中央研究所の高速炉チームで実習を行ったことで、日本の使用済み核燃料の再処理は、結局は核兵器のためのオプションだということを理解した。このようにして芽生えた再処理に対する否定的な見方は、フォンヒッペル教授との出会いを通じて確固たるものになった。フォンヒッペル教授は、1970年代半ばに米国のカーター政権の再処理反対政策に影響を与えた専門家グループの一人で、40年以上にわたってプルトニウムを取り出すための再処理とプルトニウム使用に反対する活動を行っている。カンさんは「フォンヒッペル教授の研究室で研究したことで、完全に改宗した」と言って笑った。
脱核論者が共通して指摘する原子力発電の問題点は、環境コストと事故のリスクを十分に反映していないため高く評価された経済性、低く評価された事故リスク、電力供給網において再生エネルギーと両立しにくい硬直性などだ。カンさんはこれらの指摘に同意しつつ、特に使用済み核燃料による事故の危険性を強調する。
この危険性については、今回の著書でも中心的に扱っている。2011年に福島第一原発の3つの原子炉で水素爆発が発生した際に、日本の原子力委員会の近藤駿介委員長は、状況がどれほど悪化しうるのかを尋ねる菅直人首相に対し、4号機の使用済み核燃料プールで火災が発生しうると答えた。幸い、そのような状況には至らなかった。しかし、もし火災が発生していれば、最悪の場合、日本の人口の約4分の1に当たる3000万人が放射能による汚染を避けて避難しなければならなかっただろうというのが、本書で示された分析結果だ。
「福島で起こるところだった使用済み核燃料プールの火災が、韓国の古里(コリ)原発3号機で、主に東南の風が吹く夏に発生したら、朝鮮半島の南北のすべての人が避難しなければならない事態にもなり得ます。こうしたプールの火災は、地震や津波のような自然災害では発生しなくても、航空機の衝突やミサイル攻撃などの物理的打撃によっては十分に起こり得ます」
使用済み核燃料の再処理を擁護する側は、再処理は高レベル廃棄物の毒性と体積を大きく減らすので、処分場を効率的に活用できる方法であると宣伝している。しかし『プルトニウム』の著者たちは、使用済み核燃料は5年ほどプールで冷却した後も40~50年は乾式キャスク(厚い金属の筒)に保管し、その後に処分容器に入れて工学的にきちんと設計された地下深くの地層に処分するのが最善の方法だとの結論を下した。カンさんは「何か少し複雑でありながらも安全に処理する方法を学ぼうという考えで留学したんですが、実は深い地層に処分するのが答えだった」とし「当時はそれが答えだということを知りませんでした」と語った。
カンさんは2018年1月に原子力安全委員会の委員長に任命されたが、10カ月後の同年10月、国政監査期間中に突然辞職した。当時のメディア報道によると、KAIST招聘教授時代の2015年に、原子力研究院の研究費支援を受けて米国の学術会議に出席したことが、委員長の欠格事由に当たるという野党の問題提起のためだった。カンさんが辞職した日はちょうど原安委に対する国政監査が開かれる日だったため、メディアと国会では無責任だとの批判があふれた。
これについてカンさんは「大統領府の人事首席室から、うるさいから国政監査の日の朝8時までに辞表を提出するようにと言われ、辞表を提出した後も、予定されていた国政監査には臨むつもりで事務所に出勤したんです。でもすぐに出て行けというので、国政監査には出席できませんでした」と語った。カンさんは「もう話してもいいだろう」と言ってその日の内幕を打ち明けた。