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「353万人接種」でも収まらぬワクチン不信…「補償を幅広くすべき」

登録:2021-05-06 02:39 修正:2021-05-06 14:42
ワクチン不信の解消に積極的な対応が必要 
「異常反応」国民請願14件…接種意向は6.6ポイント減の61.4% 
副作用の因果関係証明は容易ではないが、政府は「補償原則」ばかりを強調
あるリハビリ病院で車椅子に座ったまま治療を受けている26歳の作業療法士Aさん=Aさんの家族より提供//ハンギョレ新聞社

 26歳の作業療法士Aさんは、3月4日にアストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンを接種した。その日の夕方から激しい頭痛と意識低下、手足の力が抜ける症状が見られた。症状はますますひどくなり、2カ月が経った今も車椅子なしでは一人で動けない。建設会社の現場所長である父親と療養保護士である母親がこれまで、息子に現われた症状の原因を探るために訪ねた病院は5カ所にのぼる。接種当日と翌日の午前に訪れた救急室、20日ほど入院した京畿道のある上級総合病院、仁川(インチョン)の大学病院とソウルの大学病院、5日現在も入院して一日中リハビリ治療を受けているリハビリ病院だ。「政府(地方自治体と疾病管理庁)に、どこの病院に行けばいいのか、こういう時のための政府指定の医療機関はないのかと聞いてみたんですが、まだ回答はありません。『被害調査班会議を開き、50人近い医師が検討した。そしてワクチンとは関係がないとの結論が出された』と市の疫学調査官が電話してきたのがすべてです。そう言いつつ『実費保険には加入しているのか』と聞くんです。実費保険だなんて。訪ねていって胸ぐらでもつかんでやりたかった」。Aさんの父親は本紙の電話取材に対し、こう言って涙を流した。

 息子のCT写真を持ってあちこち訪ね歩いたものの、病院はどこも様々な可能性を語るばかりだった。結局、主治医は「脳脊髄炎」との診断を下した。接種前から進行していた疾患との判断とともに、疾病庁の被害調査班は因果関係なしと判断した。この間、Aさんの父親が訴え得た場所は、大統領府の国民請願掲示板だけだった。「あちこちの病院を四方八方歩き回って感じた挫折感で、うっ憤がこみ上げてきます」

未曾有の事態だが…対応体系はコロナ以前のまま

 今年2月26日にコロナワクチンの接種が始まり、5日までに353万人が1次接種を終えている。だが、大統領府国民請願掲示板で接種後の異常反応を訴えているのはAさんの父親だけではない。異常反応を訴える請願文は5日午前現在で14件にのぼる。頭痛や体の痛みのようなよくある免疫反応例ではなく、Aさんのように重症で稀な疾患を伴ったケースだ。しかし政府の反応は、ただ「ワクチンとの因果関係に関する調査を進めている」という冷ややかな回答にとどまる。接種直後に症状が現れたという時期的な因果関係のために疑問を抱く当事者やその家族が、政府の公的体系を外れ、国民請願掲示板などのオンラインへと向かうのはそのためだ。

 特に、27日から65~74歳の高齢者494万3000人に対するアストラゼネカ製ワクチンの接種が始まれば、Aさんのような「制度外での被害の訴え」はさらに急速に増え、政府のワクチン接種政策に対する信頼の低下はより深刻化することが懸念される。この日、中央事故収拾本部が文化体育観光部と共同で行ったコロナ認識調査の結果によると、予防接種を受けると答えた人の割合は61.4%で、3月の調査より6.6ポイント低下している。

 政府は、現在の異常反応対応体系が「科学」を基盤としていることを連日強調している。重症であれ軽症であれ、異常反応が疑われれば個人が届け出る。その後、市や道の疫学調査官が調査を行い、疾病庁が設置した被害調査班の専門家が医務記録などをもとに因果関係を検討する。 補償を受けるにはワクチンとの因果関係が認められなければならず、届け出から補償までは最大で120日がかかることもある。

 因果関係の判断は「相対評価」による。政府は、このような評価は世界保健機関(WHO)が定めた異常反応判断ガイドラインに則っていることも強調している。WHOのように、(1)因果関係が明らかな場合、(2)因果関係に蓋然性がある場合、(3)因果関係のある可能性がある場合、(4)因果関係を認めることが難しい場合、(5)明らかに因果関係がない場合、の5段階に区分し、(1)~(3)であれば因果関係を認め、補償の対象とするという説明だ。疾病管理庁予防接種推進団のパク・ヨンジュン異常反応調査支援チーム長は4日、「(2)~(4)は、ワクチンによって発生した可能性とその他の要因(高齢、基礎疾患、全身の状態)を秤にかけて決定される」と述べた。

「因果関係が明白でなくても被害補償は考慮すべき」

 まさにこの点で、社会的論議は大きくならざるを得ない。コロナ予防接種前も、同様の問題がなくはなかった。2014年、生後7カ月で予防接種を受けた後に難治性てんかんなどと診断され、1級障害判定を受けた子どもの家族が、長い間訴訟を続けていたのも、同様の状況のためだ。訴訟の末、最高裁は、「医学的、自然科学的に明確に証明されていないとしても、予防接種が原因だとの推論が医学理論や経験則上で不可能でなければ、因果関係を認めるべき」との判決を下した。因果関係の判断がどうしても「相対評価」の領域にとどまらざるを得ないのであれば、より積極的に因果関係を認めることが望ましいとの趣旨だ。

 加えてコロナ禍においては、未曾有の感染症の猛威の中、少なくとも国民の70%の接種の完了が目標となっている。ならば、政府は今より積極的に異常反応への対応に乗り出すべきだと専門家は指摘する。保健医療団体連合のチョン・ヒョンジュン政策委員長は「現代医学にも限界があるため、すべての疾患の原因が究明できるわけではない」とし「『関連性が明らかにできない』ことと『関連性がない』ことは異なり、『関連性がない』ということが明確でないケースは補償する必要があると考える」と述べた。医師でもある共に民主党のシン・ヒョニョン議員も先月26日「コロナワクチンは緊急承認された新薬であるため、科学的な因果関係の立証が困難なグレーゾーンが存在することは認めなければならない」とし「基礎疾患のなかった人がワクチン接種後に問題が生じた場合は、緊急支援が行われなければならず、基礎疾患のあった人も、因果関係が明白でなくても、まず被害補償が考慮されなければならない。ワクチンの蓋然性を排除できないという医師の所見だけでも補償することが必要だ」と述べている。

 しかし政府は、依然として法的な困難ばかりを語っている。パク・ヨンジュン・チーム長は「因果関係を評価する前に補償を幅広く行うのは法的に難しい。前後関係や根拠が確認されていない状態で先に補償を行うというのは容易ではない」とし「ただ、(治療の)支援はより早く行う方向で検討している」と説明した。

チェ・ハヤン、ソ・ヘミ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/health/994024.html韓国語原文入力:2021-05-05 20:22
訳D.K

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