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[記者手帳]軍艦島、世界遺産登録「抹消」は可能か?

登録:2020-06-26 02:41 修正:2020-06-26 07:36
端島の歴史歪曲展示批判 
文化体育観光部と外交部、ユネスコに「登録抹消」書簡送付 
前例などを見ると、抹消は「物理的毀損」時のみ可能 
現実的目標は「強制動員の悲劇」を見せる「展示の補強」 
2017年の失敗繰り返さぬよう合理的アプローチ必要
「軍艦島」として知られる長崎沖の島、端島。1940年代に強制徴用された朝鮮人が石炭採掘に動員され、100人以上が死亡した所だ=アン・グァノク記者//ハンギョレ新聞社

 最近、日本の「歴史歪曲」批判が続いているユネスコ世界遺産「端島(軍艦島)」について、韓国政府が登録の「抹消」を進めることが報道されました。登録抹消。可能なのでしょうか? 結論から言います。「簡単ではない」と思われます。

 「抹消カード」を真っ先に切ったのはパク・ヤンウ文化体育観光部長官でした。パク長官は18日、国会文化体育観光委員会所属の共に民主党議員との懇談会の業務報告で、ユネスコに対し、「登録抹消を要求する」という趣旨の発言をしたことが確認できます。すると文体部は22日に報道釈明資料を出します。「政府は(端島に関する歴史歪曲情報を展示している)産業遺産情報センターに関し、ユネスコ世界遺産の取り消し要求は公式発表していない」とし、「外交部などと協議し、日本が約束を履行するよう多角的な対応策を講じている」と明らかにしました。パク長官の発言から2歩ほど後退したような内容です。

 文体部が一歩先に出ると、外交部も立場を表明せざるを得なくなりました。キム・インチョル報道官は23日、「前日にユネスコ事務局長宛の書簡を通じ、登録抹消の可能性の検討を含め、世界遺産委員会で日本に充実した後続措置の履行を求める決定文が採択されるよう、協力と支持を要請した」ことを明かします。「登録抹消」についても言及していますが、強調されていることは「日本に充実した後続措置の履行を求める決定文の採択」を進めるという後ろの部分です。専門家の間からは、同じ書簡を文体部と外交部がそれぞれ出すなど、「省庁間の勢力争い」をしているという声も聞かれます。

三菱端島炭鉱の強制労働現場を訪れた観光客たち=アン・グァノク記者//ハンギョレ新聞社

 ユネスコが世界遺産制度を運営し始めたのは1972年です。それ以降の48年間で抹消は2例しかありません。1例目は2007年のオマーンの「アラビアオリックスの保護区」、2例目はドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」です。両ケースとも、当該国政府は「遺産の保護」より「開発」を望んでいました。オマーン政府はこの地域で油田を開発しようとし、ドイツは渓谷に景観を損なう橋梁を建設しました。実際、「世界遺産条約履行のための作業指針」によると、指定の取消しは「登録を決定づけた資産の特徴が失われるほど資産の状態が悪化していた場合」と「(ユネスコが要求する、遺産の物理的保護に関する)改善措置が実施されなかった場合」に限られます。ユネスコ韓国委員会でも、今回のように「歴史歪曲」を理由として第三国政府が取り消しを要求した前例はないとしています。実際、登録を取り消すためには、世界遺産委員会の委員国の3分の2以上の賛成が必要です。

東京新宿区の「産業遺産情報センター」内部。朝鮮人強制労働被害で悪名高い端島の様子がパノラマ映像で展示されている=産業遺産情報センター提供//ハンギョレ新聞社

 では韓国政府は、日本の破廉恥な歴史歪曲に手をこまねいていなければならないのでしょうか。そうではありません。日本は2015年7月、明治期の日本の産業発展を示す端島などの23施設を登録する過程で、端島などの一部の産業施設で「1940年代に朝鮮半島出身者などが『自分の意思に反して(against their will) 』動員され、『強制労役(forced to work)』させられたことがあった。犠牲者を記憶にとどめるためインフォメーションセンターの設置などの措置を取る」と約束しています。しかし、15日に一般公開が始まった産業遺産情報センターの展示内容を見ると、朝鮮半島出身者が端島などで差別的待遇を受けたことはなかったという証言が紹介されるなど、歴史的事実を歪曲していることが確認できます。

15日に一般公開された東京新宿の産業遺産情報センターのホームページ。同センターは、軍艦島で働いていた朝鮮人に対する差別はなかったとの証言を紹介するなど、歴史歪曲が物議を醸している//ハンギョレ新聞社

 もちろん、日本政府は「約束違反」という批判を避けるため、日本政府代表の2015年7月の発言内容をそのまま展示してはいます。しかしこのような小細工は、「自分の意思に反して強制的に労働させられた朝鮮人のエピソード」など、遺産に関するすべての歴史(full history of each site)を展示せよという世界遺産委員会の勧告内容を履行したとは言えません。興味深いのは、同センターの長が安倍晋三首相と修正主義的歴史認識を共有する長年の友人である加藤康子(安倍首相の側近である加藤勝信の義姉)だということです。日本の歴史的過ちを認めようとしない安倍首相の強情が、この問題をこじらせ続けている主な原因なのです。

 幸い、ユネスコも「韓国の懸念は重要と考えており、これを世界遺産委員会の諮問機関に伝えた」という趣旨の返信を送ってきたと伝えられています。であるなら、韓国の外交目標は事実上不可能な「登録抹消」ではなく、約束を履行していない日本が過ちを正すよう、ユネスコ世界遺産委員会内の世論を作っていくことでなければなりません。その目的は、この島を取り巻く「すべての歴史」を知ることができるよう日本の産業遺産情報センターが展示を補強することです。

共に民主党の議員たちが23日午後、ソウル汝矣島の国会疎通館で、日本政府による軍艦島強制動員の事実認定と、国際社会との約束の履行を求め記者会見を行っている/聯合ニュース

 韓日は2017年、慰安婦関連の記録をユネスコ世界記録遺産(MOW)に登録する過程で大きな軋轢が生じました。日本は、2016~2017年のユネスコ分担金(分担額は2020年現在、中国に次ぐ第2位)の「支払い留保」はもちろん「脱退」さえちらつかせ、この登録を最後まで阻止しました。当時、この事業を推進した国際連帯委員会事務団のハン・ヘイン総括チーム長は、「米国が2017年に脱退を宣言した状況で、日本までこのような脅迫をしてきたので、ユネスコは当然、組織瓦解の可能性を懸念せざるを得なかった」と話しています。その時と同じ失敗を繰り返さぬよう、政府の合理的かつ緻密なアプローチが必要です。

キル・ユンヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/950901.html韓国語原文入力:2020-06-25 14:02
訳D.K

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