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嫌悪・恐怖の助長に感染したマスコミ、災難の前でも“敵味方”分け

登録:2020-02-13 09:25 修正:2020-02-13 17:31
[新種コロナウイルス事態の報道点検] 

地域に対する偏見が懸念される「武漢肺炎」という名称 
変更勧告にも、「中国の顔色伺いか」といって黙殺 
総選挙を控えて「無能な政府」のフレームを強調 
放送局は与野党議員の争いを煽り 

正確さより速報、質よりは量に重点を置く 
虚偽・過剰報道も数多く流れ 
感染者の身元暴露のようなプライバシーの侵害も 
言論界、13日に「報道準則」意見聴取
国民の生命・健康と直結した新型コロナウイルス感染症事態を報じるメディアが、嫌悪・恐怖を助長する刺激的な表現によってむしろ国民の不安と混乱を煽っていると批判されている//ハンギョレ新聞社

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者が先月20日に韓国国内で初めて確認された後、今まで韓国メディアはこの事態をどのように報道しているだろうか。生命・健康と直結した感染症の報道ですら、依然として正確性よりも速報競争に没頭し、嫌悪・恐怖感を過度に助長し、国民の不安と混乱を煽るかと思えば、4月の総選挙を狙った党派的報道が日常的に行われているという批判が溢れる。

■特定地域に対する嫌悪が込められた用語使用続く

 世界保健機関(WHO)は、今回拡散した感染症について、特定地域をめぐる不必要な偏見が生じないよう「新型コロナウイルス感染症」という病名を使用するよう勧告した。韓国記者協会、全国言論労組、民主言論実践委員会など言論団体でも先月30日、人種差別的な名称及び社会的嫌悪・不安を誘発しうる刺激的な報道の自制、現場取材記者たちの安全の考慮など、緊急提案を行った。キム・ドンフン記者協会長は「検証されていない誤った報道が出回り、国民の不安を煽っている。このような報道は自制しようという趣旨で指針を設けた」と明らかにした。当初は感染症の発生地を反映して「武漢肺炎」と命名していたメディアは、こうした勧告と指針を受け入れ、ほとんどが新型コロナに変えたが、一部の保守新聞は「中国の機嫌を伺うのか」といって黙殺した。朝鮮日報、文化日報、韓国経済などは記事本文では武漢肺炎と新型コロナを両方とも使用しているが、タイトルでは武漢肺炎にこだわる。一部の新聞は「武漢肺炎恐怖」「新型肺炎フォビア」「新型コロナ超非常事態」など、警戒心より過度な恐怖心をあおるサブタイトルを数面に渡って使用している。

 外国メディアの場合、地域名はなるべく入れていない。ニューヨークタイムズ、ワシントンポストなどの米国のメディアの大半は「コロナウイルス」であり、朝日新聞、読売新聞などの日本の新聞は「新型肺炎」という表現を使っている。

■4月の総選挙を狙った党派的フレーム

 過去、SARS、新型インフルエンザ、MERSなどの感染病事態の時も、不安と対立を煽る報道があったが、今回は4月の総選挙を控えて「防疫の穴」「防疫の惨事」など政府の無能さを表す党派的フレームが拡大している。ソウル大学言論情報学科のイ・ジュヌン教授は「社会的災難が起きたのにマスコミが露骨に党派的報道に明け暮れている」とし「災難を目前にしながら敵味方を云々し、公正な報道ができていないのが残念だ」と批判した。テレビ放送では与野党議員を呼んで感染症事態をめぐって争いを煽り、視聴者からにらまれてもいる。

 国民の不安を解消するため、専門性に基づいた正確な情報の伝達が切実に求められているのに、扇情的なムードに重点を置いた記事でかえって恐怖心を刺激しているという懸念も出ている。釜山大学新聞放送学科のイム・ヨンホ教授は「米国の『CNN』などの報道は専門家の解説と事件の進展を中心に淡々と伝える。ところが国内メディアは情報伝達より反応など情緒的な雰囲気に偏り、不安を拡大する」と指摘した。「ヘラルド経済」の『大林洞(テリムドン)のチャイナタウンへ行ってみたら…』(1月29日)のルポ記事は「タンを吐き、武漢肺炎もどこ吹く風の非衛生的な行動だらけだ」と書き、中国人に対するヘイト感情をあらわにして物議を醸した。

 先に、総合編成チャンネル「チャンネルA」は「中国、エイズ治療剤まで投入」(ニュースA、1月26日)と題するリポートの中で、武漢の医療陣を自称する女性が「感染者はすでに9万人に上る。現在2次変異まで起きた。爆発的な伝染が予想される」と話す映像を流した。SNSを通じて広まる未確認・虚偽操作情報に対し、マスコミが真偽を明らかにするどころか無責任に報道し、国民の不安を増大させたという批判が起きた。

 すべての懸案を飲み込む過剰報道を憂慮する見解もある。新聞は毎日何面にもわたって新型コロナ事態を集中的に取り上げ、放送も10編ほどに分けて20分以上報道する。言論改革市民連帯のキム・ドンウォン政策委員は、「新型コロナの報道量があまりにも多い。災害報道は正確性が重要だが、速報性に偏っているためだ。中央日報が政府の公式発表前に武漢から帰国する韓国人の収容地域を天安(チョナン)と報道して議論を触発したのが端的な事例」だと批判した。

 分別のない外信の再引用や間接引用も問題だ。今月8日の聯合ニュースの「新型コロナ、飛沫・接触のほかエアゾールによる伝染の可能性も」という報道がそうだ。上海市民政局の曾群副局長が記者会見で衛生防疫専門家の意見を引用し、これを中国メディア「澎湃新聞」が報じたことを引用した記事だが、検証のないまま伝えたため波紋が大きかった

■人権・プライバシー侵害…報道準則の再確認を

 確定診断者の動線に対する身元を暴露するような報道やプライバシー侵害を日常的に行う報道も物議を醸している。一部のメディアは、忠清北道鎮川(ジンチョン)の国家公務員人材開発院で生活する武漢から帰国した韓国人が、洗濯物を干したり座って携帯電話を使う姿などをクローズアップして撮った写真を配信した。言論労組のユン・ソクピン民主言論実践委員長は「被害者が露出する写真は疾病予防のための正確な情報と管理などの本質から外れた人権侵害」だとし、「マスコミがまず内部準則を点検して利用者に知らせ、これを遵守する態度が必要だ」と強調した。

 新型コロナ事態を契機として、専門家とマスコミが共同で既存の人権・災難報道準則とは別途の感染症報道準則を作るべきだという主張も出ている。すでに2012年に保健福祉部出入り記者団が学会と協議して恐怖・大混乱などの表現を書かない、感染症の規模・症状に対する誇張された表現を自制するなどを盛り込んだ準則を制定しているが、記者社会全体に共有されていない。記者協会と韓国言論振興財団は13日に緊急討論会を開き、「感染疾病報道準則」制定に向けて言論界の意見を集める予定だ。

ムン・ヒョンスク先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/media/927870.html韓国語原文入力:2020-02-12 11:17
訳C.M

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