金剛山施設の撤去問題、南北当局が直接会って解決すべき
金正恩委員長「合意処理」公言、対面以外に方法なし
韓国政府、南北関係改善の準備できている…北朝鮮が積極的に応じること願う
朝鮮半島情勢厳しく、北朝鮮は「南北関係の空間」うまく活用すべき
2020年の不確実性最小化に向け可能なことはすべてやる
朝米、「時間は味方」という考え方捨て機会をつかむべき
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の「金剛山(クムガンサン)の韓国側施設撤去」指示により南北関係が剣先に立ったようなこの時期に、統一部のキム・ヨンチョル長官に会った。朝米関係と南北関係が薄氷を踏むような危険な局面だったためか、キム長官は口が重く、答弁一つひとつに慎重を話した。キム長官は、金剛山施設問題を解決するには、南北当局者の直接対面交渉が必要だとし、北朝鮮を説得し続けると述べた。金正恩委員長は「合意処理」を公言しているだけに、会談によって解決せざるを得ないだろうとの見方も示した。キム長官はこの交渉の機会を活用して、元山(ウォンサン)~金剛山~雪岳山(ソラクサン)をまとめて東海岸一帯に南北共同の観光地帯を作っていくという構想も明らかにした。
キム長官は、朝鮮半島情勢の厳しさも強調した。北朝鮮に対して、「南北関係が固定化していたら朝米関係を一定水準以上に進めるのは難しい」とし、「南北関係の空間をうまく活用すべき」と注文した。また、「政府は南北関係を改善するための準備はできており、北朝鮮が積極的に応じることを期待する」と述べた。朝米非核化協議と関連し、キム長官は北朝鮮と米国のいずれも『時間は味方』という考え方を捨てるべきであると力説した。インタビューは1日、ソウル鍾路区(チョンノグ)の政府ソウル庁舎統一部長官執務室で行われた。
-南北関係の最大の懸案事項として浮上したのが「金剛山韓国側施設撤去」問題です。どう見るべきでしょうか。
「金正恩委員長の指示の要点は3つです。第一に、「金剛山を国際観光地帯にする、だから老朽化した施設を撤去してほしい」ということです。第二に、ただしこの撤去は合意して処理するということです。第三に、南側の住民が来るなら歓迎するということです。このような点をよく把握して対応しなければなりません。2008年の観光中断以降に様々な処置がありました。現代峨山の独占権取り消しもありましたし。ところが、昨年9月の平壌南北首脳会談で状況が反転しました。それで北朝鮮が今年の新年の挨拶で、無条件で再開しようと言ったのです。2月のハノイ朝米首脳会談で成果があったなら観光の再開のあり方が模索されていたはずですが、(決裂後)南北が協議する機会がありませんでした。しかし、現在の条件と環境の中でもできることはたくさんあると思います」
-金剛山施設撤去問題について、北朝鮮は「文書交換」方式の協議に固執しています。
「とりあえず今は『合意処理』が大事だと思います。合意処理の肝は、結局は南側の企業の財産権保護です。観光が中断されてから12年目であり、その前から活用されていなかった施設も少なくありません。財産権保護を前提として、金剛山観光の事業者も新しい条件が整えば再整備ができるという意志があります。南北が会えば、そのようなことはいくらでも論議できると思います。北朝鮮が文書交換方式にしようというのは『撤去の日程と計画』です。ですが一部の施設を再整備するだけでも現場実体調査が必要です。正確に現在の状態を見なければ、どうするか計画を立てることはできません」
-北朝鮮を説得して実務協議に出席させることはできると思いますか。
「とにかく努力しています。また、金正恩委員長が提起した3つの基本的な立場をめぐっても、北朝鮮と議論しなければならないことがあると思います」
-北朝鮮の現在の構想は独自開発なのでしょうか。それとも韓国側と過去に行っていた通りに共同開発・運営ということでしょうか。
「とりあえず変化した状況を見てみると、北朝鮮は東海岸地域に一種の広域観光地帯を構想しています。元山(ウォンサン)の葛麻(カルマ)地区が来年上半期に完成予定であり、馬息嶺(マシンニョン)スキー場はすでに昨年から運営しています。最近は陽徳郡(ヤンドックン)に温泉団地も開発しています。これが金剛山まで全部つながっています。北朝鮮が大きな枠組みで観光戦略を立ててアプローチしていると見ることができます。しかし、金剛山に限って言えば、金剛山は南北の境界地域に位置しており、わが民族にとって大きな意味を持つ山です。現代グループのチョン・ジュヨン会長が初めて金剛山観光に合意した時も、金剛山観光のこのような特性を重視したのです。今もそのような合意の精神は有効です」
-北朝鮮の「金剛山施設撤去」通告に対して、韓国政府は「創意的解決策」を言っています。重要なことは解決策を貫徹する実行力ですが。
「そうです。まず最も重要なのは、南北関係の空間をどのように確保し、これを維持し発展させていくかですが、北朝鮮の核問題とか制裁といった諸事情のため、南北関係の空間が縮小しているのが実情です。しかし、現在の情勢や今後の情勢の変化を考慮すると、私は南北関係には(独自の)空間があると思います。南北は協議を通じて様々な方策を話し合うことができるし、今の状況で実現可能な解決策も少なくないと思います」
-実現可能な方策というと、どのようなものがあるでしょうか。
「金剛山に限れば、金剛山は三つの空間が一つの場所にあります。観光の空間、離散家族の再会の空間、社会文化交流の空間です。社会文化交流は南北関係の硬直した局面でも地道に続いてきました。離散家族の再会の空間も重要です。政府は面会所を全面改修して離散家族再会が常時できるように準備しています。観光に目を向けると、個別観光は制裁に抵触しません。個別観光は、南北が協議をすればいくらでも方法を見出せると思います」
-しかし、個別観光も実際にはできていません。
「先ほども話しましたが、昨年の9・19首脳会談の合意と今年の北朝鮮の新年の挨拶の発表後に南北協議が行われていたなら、今頃は実現していたでしょう。しかし、ハノイ会談後、南北当局間で協議する機会がありませんでした。今からでも南北が協議すれば可能です。重要なのは身辺の安全保障ですが、個別観光実現の意志さえあれば、いくらでも解決できると思います」。
-前にも出ましたが、金正恩委員長が南側の観光客は歓迎すると言いました。
「ええ、その問題は南北でいつでも議論できます。北朝鮮の立場からも、元山葛麻地区が完成すれば、安定的に観光客を集めることが重要になります。ですが東海岸はアクセスに問題があります。私は数日前に平壌の外交使節に会ったのですが、『先週平壌から金剛山に行ったが、バスで8時間かかった』と言います。ですから北朝鮮の東側観光地帯が成功するには、南北関係の活用が重要です。だから9・19共同宣言で東海観光特区を南北が共同で開発しようと言ったわけです。南側も高城(コソン)から雪岳山まで観光地域なので、南北がつながればお互いに利益を得ることができます。中国からの観光客が北朝鮮に入って雪岳山に来るとか、雪岳山を経て元山葛麻に行くという交差訪問・連携訪問も模索できます」
-根本に立ち返ってみれば、対北朝鮮制裁の枠組みが維持される限り、金剛山観光も開城(ケソン)工業団地も全面再開は容易ではなさそうです。現行の制裁の枠組みを迂回する方法はありますか。先日、民和協(民族和解協議会)のキム・ホンゴル代表常任議長がメディアとのインタビューで、『米国の顔色をうかがうのではなく、先ににらみつける度胸も必要だ』と言っていたのですが。
「制裁というのは一種の国際的な規範です。中国もロシアもすべて守ります。私たちも国際規範を守ることが必要です。ただ制裁というものは目的があり対象があります。そしてそこには例外条項もあります。制裁という状況下でも可能な領域は確かにあります。ただ、私たちが『創意的解決策』と言ったのは、それだけ状況が複雑だからです。複雑な状況の中で実現可能な方法を探ってみようということです。技術的に検討してみれば方法が見つかります」
-その一つが個別観光ということですね?
「はい、個別観光も含まれます」
-しかし、南北が金剛山施設問題に合意して改修・補修や建て替えをしようとしても、南から資材や資本を持ち込もうとすると国際制裁に違反するのではないでしょうか。
「政府が創意的な解決策を模索すると言った時、当然、実務的にそのような問題に関して適切な手続きに裏付けられなければなりません。私が4月に就任してから決定的に一つ替えたことがあります。それ以前は南北間でまず協議してから、合意事項を持っていって制裁免除を申請していましたが、どうしても時差が発生します。そのため非常に苦労して複雑な手続きを通過しても、南北間に不信が増幅し、実行できなかったケースもあります。ですから、いずれにしろ南北間で協力しなければならない分野があるので、優先順位に沿ってまず制裁免除の手続きを行って、それから南北間で協議しようと順番を変えました。このかん南北関係の硬直した局面が長引いていましたが、その間に制裁免除の手続きを踏んだものがかなり蓄積されています。南北関係が解決すれば、できることがたくさん待っています」
-朝米関係で最も大きな関心事は、やはり金正恩委員長が提示した通りに今年末までに妥協が成立し、朝米首脳会談が開かれるかどうかです。肯定的な展望もありますが、悲観的な展望も侮れません。
「北朝鮮の核協議は容易な交渉ではありません。シンガポールとハノイで首脳会談をした経験はありますが、依然として朝米間に差があるのは事実です。しかし、朝米ともに首脳間の信頼を維持しており、この機会を非常に大切に考えています。今の状況では『時間に対する正確な認識』が必要です。過去の北朝鮮核協議が失敗した最大の原因は、時間に対する自己中心的な理解にあったと思います。北朝鮮も米国も『結局、時間は自分たちの味方』だと考えていたため常に機会を逃してきましたが、そのような過去の失敗から教訓を見出すべきです。時間が経てば経つほど交渉の構造はさらに複雑になり、不透明性が大きくなります。交渉のチャンスが来た時、逃してはならないのです」
-もし、年末までに朝米が妥協の糸口をつかめず、来年北朝鮮が新しい道を選んで人工衛星打ち上げのようなやり方で対応したとすると、朝米関係は本当に破綻に近い状況に置かれるのではないでしょうか。南北関係もそれに連動して、今よりずっと良くない状況に進む恐れがあるという懸念も出てきます。南北米ともに特段の覚悟がなければならないという気がします。
「はい。同感です。2020年の朝鮮半島情勢を予測することは本当に容易ではありません。2カ月残っていますが、私たちがあらゆる努力をして2020年の不確実性を克服する方策を見出さなければならず、そのためには朝米協議の進展が必要です。そして、ここで重要なのは、朝米関係に南北関係が影響を受けることは事実ですが、南北関係そのものの重要性も非常に大きいということです。政府は南北関係というこの空間をさらに広げ、朝鮮半島の状況をうまく管理しなければなりません。北朝鮮も同じく南北関係の空間に対する認識が必要です。そのような認識が南北米関係の好循環につながらなければなりません。歴史的に見れば、南北関係と朝米関係が相互に補完関係にある時、朝鮮半島は前進することができました。南北関係が固定化していたら朝米2国間関係が一定の水準以上に進展することは難しい。この点については、北朝鮮も米国も過去の歴史から教訓を得るべきだと考えています」
統一問題・南北関係を研究してきた専門家
「就任後、分断克服に必要な多くの準備した」
キム・ヨンチョル長官は統一問題、南北関係の専門家だ。文在寅(ムン・ジェイン)政権に入って2018年に統一研究院の院長に任命され、昨年の4月には統一部長官に就任した。昨年出版した『70年の対話』の中でキム長官は、南北関係解決のためには南が先に動く「能動的アプローチ」、朝鮮半島を超えて広い視野で見る「包括的アプローチ」、北朝鮮の核問題の起源と構造を長期的視点から眺める「歴史的アプローチ」が必要だと力説した。南北関係における対話とコミュニケーションの重要性も強調している。それだけに統一部長官に任命された時は、統一部の役割に新風を吹き込むだろうと多くの期待が寄せられた。
しかし、現実は容易ではなく、キム長官の就任後、南北関係はむしろ後退するような姿を見せている。一部からは「長官は祝辞ばかり述べて歩いている」と言われたりもした。キム長官は悔しいと抗弁した。対北朝鮮関連団体や自治体といった「政策顧客」と活発に会うことは、基本的な任務に属すると述べた。就任後「官民協力を制度化し、離散家族再会、南北都市交流をはじめ、分断克服に必要な多くの準備を行ってきた」と強調した。ただ、南北関係の硬直が長引いているため、準備したものを示すのが難しい面があると悔しがった。