グローバル超一流企業として君臨するサムスン電子は、今や韓国だけの企業ではない。超国籍企業サムスン電子は、世界の人々にどんな姿に映っているのだろうか。サムスン電子で働く労働者は、サムスンに対してどう思っているのだろうか。特にサムスン電子の主要生産基地に浮上したアジア地域の労働者の暮らしと労働の現実はどうなっているのだろうか。この質問の答えを得るために、ハンギョレはベトナム、インド、インドネシアのアジア3カ国9都市を訪ねた。2万キロ余り、地球半周分を巡って136人のサムスン電子労働者に直接会って質問調査した。国際労働団体がサムスン電子の労働条件に関する報告書を発刊したことはあるが、報道機関としては韓国内外をあわせて最初の試みだ。10人の労働者に深層インタビューし、20人余りの国際経営・労働専門家にも会った。70日にわたるグローバル・サムスン追跡記は、私たちが漠然とは察しながらも、しっかり見ようとしなかった不都合な真実を暴く。真実に向き合うことは、そのときは苦痛かもしれないが、グローバル企業としてサムスンがブランド価値を高めるためには避けられない過程だと判断する。5回に分けてグローバル超一流企業サムスン電子の持続可能性を尋ねる。
「失神する事例はよくあります。昼夜が頻繁に変わり眠れないためのようです」
「先日、病院に行ってきた同僚は腫瘍が見つかったと言いました。私もそうなるかと思うと怖くて病院に行けずにいます」
ベトナムの市民団体CGFEDが、2017年3月4日にサムスン電子の工場労働者と進めたインタビューの中の一部だ。CGFEDと国際環境団体のIPENは、2016年11月から2017年7月までサムスン電子バクニン工場の21人とタイグエン工場の24人の労働者計45人を対象にインタビューを実施し、報告書を発表した。ルー・チ・タイン・タムさん(死亡当時22歳)がタイグエン工場で亡くなったのは、インタビューが始まる3カ月前の2016年8月だ。タムさんと同じ時期に、同じ工場で仕事をした労働者の健康は無事だったのだろうか。ハンギョレがインタビューの録音収録の一部を入手し分析した。
「工場で失神はよくあること」
労働者たちは、失神や生理不順のような症状について「通常的なもの」「避けられないもの」と話した。「失神する場合があるか」という問いに、ある労働者は「私たちのラインではないけれど、別のラインではたくさんある」と答えた。彼女は「(夜間勤務のために)しばしば夜を明かすと、不眠症になり、また朝に出勤する時にとても辛い。そのうえ、工場では立って仕事をするので、脚はしびれて目がくらんで倒れる」として「ここでは、そのように失神するケースは珍しくない」と話した。他の労働者は「めまいは通常的なもの」と話した。彼女は「交代勤務のために、生活周期が大きく変わり眠れなくなる。シフトが変わった直後には、からだが弱まり(正常体力の)60~70%になってしまう」と話した。
CGFEDのファム・チ・ミン・ハン副団長は「インタビューでバクニンとタイグエンの労働者は、口をそろえて失神はよくあることだと話した」として「また、インタビューに参加した労働者のうち3人が流産を経験したと話した」と説明した。
ほとんどすべての女性労働者が生理不順を体験していた。ある労働者は「生理不順は避けられないこと」としながら「サムスンで仕事をする前は、そういうことは一度もなかったが、最近は血の色が黒くなり量も減った」と話した。別の労働者も「(サムスンで)仕事を始めた後、突然このようになった。ずっとこのままなら病院に行かなければならないが怖い。勇気が出ない」として語尾を濁した。
労働者たちは、問題の原因と深刻性を知ることができずもどかしいと話した。彼女たちは「サムスンの労働者に不妊が多いと言うが、確認する方法がない」と打ち明けた。生理不順については「原因が分からない」と話した。化学物質に関して尋ねると、ある労働者は「化学物質を使う部署で働く労働者を数人知っている」として「彼女たちも、自分がどんな物質を使っているのか知らなかった」と話した。
労働者たちは「サムスンで長く仕事をしてはいけない」と話した。ある労働者は「生理に問題が多いから、不妊になるかと思って両親が心配している。それで女性労働者たちは2~3年仕事をして辞めるケースが多い」と話した。
「一日でも休めば給与カット」
労働者たちは具合が悪くても休めなかった。病休届を出すのは不可能に近いと彼女たちは話した。年次休暇をはじめ法的に保障された休暇さえ、彼女たちには与えられなかった。生産ラインの班長を担当しているというある労働者は「休みたければ5日前には言わなければならない。そうでなければ具合が悪いと言ってもすべて無断欠勤として処理する」として「すべての職員が同じ」と話した。彼女は「一度は下痢のためにトイレから出られずに上司に話したが、会社に来て直接話せと言われた。電話で言っても許可なく欠勤したと見なすと言われた」と打ち明けた。この労働者は、月に24~25日仕事して、日曜日にも出勤したことがあると話した。彼女は「2週間、休日なしで働いたこともあるけど、代休は使えなかった」と付け加えた。
「無断欠勤」は月給に反映された。労働者は、一日欠勤すれば月給が100万ドン(約5千円)以上削られると話した。当時、彼女たちの月給(超過勤務手当てを除く)は、600~700万ドン(約3~3.5万円)だったという。一日欠勤すれば、月給の約15%が消えるわけだ。ある労働者は「一度は月給があまりに少ないので、慌てて確認してみると、一度欠勤したことが問題だった」として「労務チームで“理由なき欠勤”として処理してしまい、月の皆勤手当と一日分の給与がそっくり削られた」と話した。別の労働者は「知らない人は、サムスンはお金をたくさんくれると思っているが、残業手当を除けばそんなことはない。だから具合が悪くてもじっと我慢して会社に出ることになる」と話した。
一日たりとも思いのままに休むことができない工場で、労働者は深刻なストレスを受けた。労働者たちは「メインのラインで働く労働者は、ほとんど泣くほど苦しがっている」と吐露した。ある労働者は「最初はサムスンに就職すれば残業をたくさんしてお金をたくさん稼げるから良いと思った。今は犬以下の人生だと思う」と話した。
IPENのジョー・ティガンギ科学専門常任顧問は「サムスンが労働者をどう思っているのか分かるような内容」とし、「サムスンのみならず、サムスン製品の消費者たちもこれら45人の声に耳を傾けなければならない」と話した。
国連「サムスン労働者の人権侵害を憂慮」
IPENの報告書は、サムスン電子労働者の人権に対する国連の論評を引き出す契機になった。国連は昨年3月「国連人権専門家たちがベトナムのバクニンとタイグエン工場の労働者が、毒性物質に露出した可能性に対して憂慮を表明した」と明らかにした。また「報告書の発表以後、サムスンが『外部の人にサムスン内の労働環境について話せば訴訟を起こす』として、労働者を脅迫した疑いがある」とし、「これについてもサムスンに説明を要請した」と話した。