金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は「米国が3回目の朝米首脳会談をしようというならば、もう一度は臨む用意がある」と明らかにした。金委員長は、最高人民会議14期1次会議の2日目である12日、施政演説で「米国が正しい姿勢を持って私たちと共有できる方法論を見つけることを条件に」と但し書を付け、交渉の意志を明らかにした。ただし、金委員長は「今年末までは米国の勇断を待ってみる」と“期限”を設定した。年末までに意味ある進展がなされなければ“別の道”に進むこともありうるというポーズだ。
金委員長が、北側の要求を明確かつ具体的に公開する代わりに「共有できる方法論」を見つけようと主張し、朝米間に折衝の余地を開いておいたことは、特に注目に値する。北朝鮮の事情に明るい韓国の元高位関係者は14日、「金委員長の施政演説に含まれた対米メッセージのキーワードは、結局『3回目の首脳会談に応じる用意』があるとし、『共有できる方法論』と『今年末まで』に要約される」と指摘した。「現段階での社会主義建設と共和国政府の対内外政策に対し」というタイトルの施政演説(原稿用紙115枚、1万4801字、47分分量)は、朝米関係に関連した言及が15%前後に達するほど、対米メッセージの比重が高い。
金委員長の施政演説の内容が公開された直後、ドナルド・トランプ米大統領は13日(現地時間)、ツイッターに「3回目の首脳会談(開催)が良いということに同意する」と肯定的な返事をした。ハノイでの2回目の朝米首脳会談(2月27~28日)以後、神経戦を繰り広げた双方の水面下での対話が始まる日は遠くないだろうと見られる。
まず、金委員長は「3回目の会談の用意」を明らかにしながらも、「ハノイ方式は不可」と明確に線引きした。労働新聞が13日付1~3面で報道した施政演説で、金委員長はハノイ会談の時の米国の交渉態度と方案について「先に武装解除、後で制度転覆の野望」であり「私たちの国家の根本利益に背馳する要求」だと批判した。さらに「ハノイのような首脳会談が再現されることに対しては、歓迎しないし、臨む意欲もない」と述べた。そして、ハノイの時の米国の接近法は「全く実現不能な方法」とし、そうするならば「私たちは微動だにできず、彼らの実利もまったくないだろう」と強調した。
一方で金委員長は「米国が今の計算法をやめて、新しい計算法を持って私たちに近寄ることが必要だ」とし、「3回目の首脳会談」を可能にする代案的経路として、シンガポールでの1回目の朝米首脳会談(2018年6月12日)の結果である「6・12共同声明」の履行を提示した。金委員長は、6・12共同声明を「敵対関係にあった朝米両国が、新しい関係の歴史を書いていくことを世の中に知らせた歴史的宣言」であり「新しい朝米関係樹立の道しるべ」と規定した。さらに「信頼構築」が「朝米の敵対関係解消の基本的なカギ」と強調した。「双方が一方的要求条件を下ろし、各自の利害関係に符合する建設的解決方法を見つけなければならない」ということだ。
金委員長は、ハノイ会談で「6・12共同声明履行のために必ず経なければならない必須段階と経路」を「双方の利害関係に符合するように設定」し、「慎重で信頼できる措置を取る決心を披瀝」したと明らかにした。ただし金委員長は、その具体的な内容については言及しなかった。これは「こうでなければ絶対にならない」という要求条件を前面に出さない方式であり「折衝することができる」という意思を表わしたものと解説される。
金委員長は「敵対視政策の撤回を依然として無視」している米国を猛非難しながらも、ただトランプ大統領に対しては「すばらしい関係を維持していて、互いに安否を尋ねる手紙も交換できる」と強調した。朝米首脳の「個人的信頼関係」を動力にした「トップダウン方式」を今後も持続したいというメッセージだ。
ただし、金委員長は今後の対米交渉の過程では、急ぎもしないし、先に譲歩することもないとして“長期戦”の意志を繰り返し強調した。金委員長は「いわゆる制裁解除問題のために、米国との首脳会談を渇望したり執着する必要があるとは考えない」と述べた。早期の「制裁解除」を望むあまりにハノイ会談を急いだという間接告白だ。そして「私たちと米国の対立は、どのみち長期性を帯びることになっていて、敵対勢力の制裁もまた続くことになるだろう」としながら「敵対勢力の制裁解除問題などには、これ以上執着しないだろうし、私は私たちの力で復興の前途を切り拓くだろう」と宣言した。内に対しては、早期制裁解除は期待できないから「自力更正」を強化しなければならないという督励のメッセージだ。外に対しては、米国との交渉過程で「制裁解除を直接連動させない」とのメッセージが隠されている。ただし、これは北側が「制裁解除」を要求しないとか、核心議題を「安保問題」に変えるという意味ではないだろうとの分析がある。
「今年末まで」という期限の設定は、「制裁に執着しない」という宣言と共に、対米交渉力を高めようとする金委員長の「安全装置」だ。年末が過ぎれば「別の道」を模索するという警告であり、「時間は米国の味方ではない」として米国に迅速な交渉態度の転換を求めたものだ。