政府が偽ニュースを「事実ではない虚偽操作情報」と規定したが、偽ニュースをどのように規制し管理するかについてはこれといった手段を見つけられていない。技術の進化によるメディア環境の急激な変化で、偽ニュースが広がる速度と範囲が日増しに拡張し、民主主義を脅かす新たな敵として浮上しているが、表現の自由をはじめとする既存の価値との衝突が避けられない論点として台頭している。偽ニュースをめぐる混乱は、米国や欧州の多くの国をはじめ世界各国が経験している問題であるため、議論を急ぐことなく長期的な観点から抜本的な対策づくりができるように、社会的議論を始めなければならないと指摘されている。
欧州連合(EU)執行委員会は4月、メディア専門家による研究結果をもとに、フェイスブック、グーグル、ツイッターなど主なソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)企業に勧告する「嘘の情報に対する実践綱領」を作成した。欧州連合は偽ニュースの退治に向け、「プラットフォーム事業者の実効性があり実践可能な自主規制案づくり、メディアリテラシー(情報解読力)教育の強化、本物のニュースに対する公的支援、ファクトチェックの活性化」などを勧告した。欧州連合は、フェイスブックやグーグルなどの業者が実践綱領に基づいて自主規制案を自ら提出するようにし、ずさんであったりきちんと履行しなかった場合、規制に入る方針だ。特に、欧州連合はこの過程で官民合同で共同研究センターを設立し、6カ月間アンケート調査とアルゴリズム分析、オンラインニュース消費方式の分析など、広範囲な研究を経た。
フランスの場合、既存の法案を改正して偽ニュースの根絶を試みたが難航している。既存の言論の自由法に「選挙期間の虚偽情報の遮断および削除条項」を追加した同法案は、昨年9月に下院を通過したが、上院で成立せず係争中だ。フランス上院では、同法案が表現の自由を侵害すると見る意見が多数を占めている。これに対し、下院は表現の自由を直接侵害しないよう、プラットフォーム(情報流通媒体)を規制する方式で改正案を議論している。欧州連合とフランスの事例で注目すべきは、表現の自由を韓国よりはるかに幅広く認めている国でさえ、偽ニュースを規制する方向に進んでいるという点だ。
今年1月から偽ニュースに対する社会的議論を始めたシンガポールの事例も参考に値する。シンガポールは政治的に強力な政府統制が特徴である国だが、偽ニュース対策議論では勧めるべき参加民主的なプロセスを作ったという評価を受けている。シンガポールは偽ニュースの議論を始めるため、国会内に与野党10人で構成された「偽ニュース対策委員会」を設置した。この「対策委」はまず国民から偽ニュースの被害に関する具体的な情報提供を受け、議論すべき意見を受け付けた。このような国民請願をもとに、対策委が取り扱うべき7つの主要テーマを確定した。その後、分野別の公聴会を8日間開いたが、全ての過程を生中継して注目を集めた。最終的に偽ニュース専門家や関連会社、学界、法律専門家、一般市民で構成された164人の意見収集の過程を経て、計22項目の偽ニュース関連勧告案を作成した。これに対し、韓国言論振興財団のファン・チソン専門委員は、「論議の手続き的透明性を確保し、偽ニュースを表現の自由の問題ではなく、民主主義の敵と認識させたという点で、非常に新鮮なアプローチだった」と評価した。
世界が苦境に立たされている偽ニュース問題は、簡単に対策が出すのが難しい事案だという点を受け入れ、今からでも冷静に社会的議論を始めなければならないと専門家たちは口をそろえる。政府が一方通行式に偽ニュースの概念を規定し、取り締まりに出ようとすれば、かつて李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政府時代に起きた表現の自由の弾圧が再現される可能性があるということだ。建国大学メディアコミュニケーション学科のソ・ミョンジュン教授は、「現在の状況では、偽ニュースに対する正確な診断が最も重要だ。規制から語るのは無理だ。少し遅くなっても、これから本格的な議論を始めなければならない」と慎重なアプロ―チを勧告した。
偽ニュースがはびこる原因を調べ、これを減らす方向で政府が努力すべきだという指摘もある。中央大学新聞放送大学院のチョン・ジュンヒ兼任教授は「国家の役割は目に見える蝿から取るのではなく、蝿が作られる環境を改善すること」だとし、「偽ニュースは本物のニュースに対する不信であり、社会の信頼を蝕むという認識が必要だ。そして本物のニュースが尊重されるようにしなければならない」と述べた。建国大学法学専門大学院のハン・サンヒ教授は「政治的に疎外された階層が偽ニュースを消費する。政界はどのような市民が、なぜ剥奪感にとらわれた疎外階層になったのか注視しなければならない。社会的弱者に対する差別と排除が蔓延した状況を考えてこそ偽ニュース問題を解決できる」と忠告した。
しかし、少数者や難民に対するヘイト表現は、別途の立法を通じて規制すべきだという声が高い。外国のように差別禁止法を制定するとしても、この過程も社会的な議論を経なければならないということだ。淑明女子大学法学部のホン・ソンス教授は、「偽ニュースの概念に関する合意は最大限狭く持たなければならない」とし、「すべてを混ぜて偽物はすべて悪いと言うのではなく、我々の社会で最も危険な表現とは何かに対する社会的合意を通じて、ヘイト表現が刑事的に違法になりうる立法が必要だ」と指摘した。