慶尚南道晋州市(チンジュシ)に住むソ・ヘソクさん(71)は、自分を「病気のデパート」と紹介した。肝硬変、高血圧、糖尿、関節炎、白内障などで、飲む薬だけで10種類だ。ソさんは2013年4月に廃業した晋州医療院の最後の患者の1人だ。基礎生活(生活保護)受給者であり独居老人である彼は、10年余り公共病院の晋州医療院に出入りした。1年に2回ほど肝硬変で倒れ、1カ月ほど入院した。大学病院では1日7~8万ウォン(7~8千円)を出して看病人を雇わなければならないが、“保護者なし病棟”事業を実施した晋州医療院では看病費の心配がなかった。
「故郷のような病院を離れる時は名残惜しくて、何度も何度も振り返ったよ」。当時、洪準杓(ホン・ジュンピョ)慶尚南道知事が晋州医療院を閉鎖し、その建物に慶尚南道庁西部庁舎を移したためだ。最近ソさんは、晋州にある他の民間病院に通っている。「晋州医療院と違って2週間ほど入院すると無条件で退院しろと言われる」。晋州医療院の廃業以降、障害者歯科など公共医療事業は近くの民間病院に移された。カン・スドン西部慶尚南道公共病院設立道民運動本部共同代表は「晋州医療院がなくなった後、医療弱者層が不便を強いられている」と話した。
晋州だけでなく、韓国の地域間の医療格差は深刻だ。首都圏に良質な医療資源が集中しているためだ。ソウル江南区の「治療可能死亡率」(良質な保健医療サービスを受ければ死亡を避けることができた人の割合)は、人口10万人当たり29.6人である反面、慶尚北道英陽郡(ヨンヤングン)は107.8人にのぼる(2015年基準)。産婦が分娩医療機関に到着する平均時間も、全羅南道(42.4分)がソウル(3.1分)の13倍以上となる。このような地域間の医療格差を減らすせめてもの支えとなるのが公共病院だ。しかし、韓国の公共保健医療機関の割合(5.4%)は、経済協力開発機構(OECD)のうち最下位圏だ。
1日、保健福祉部は公共医療を強化し、必須医療サービスの地域格差をなくすという内容を盛り込んだ「公共保健医療発展総合対策」を発表した。最も大きな柱は、人口、医療利用率、病院との距離などを考慮し、全国を70あまりの診療圏に分けた後、責任医療機関を指定するものである。広域市・道では国立大病院が公共保健医療の伝達体系の“中枢”となり、医療人材派遣・教育、患者の連携などを務める。70余りの地域責任医療機関としては、地方医療院・赤十字病院などの公共病院や民間病院が指定される。責任医療機関に指定された民間病院が「公益特殊医療法人」に転換すれば、公共病院と同等の政府支援を受けることができる。
公共医療サービスが脆弱な地域には、地方医療院など公共病院の機能を補強し、公共病院の役割をする医療機関が全くないところには公共病院を新たに建てる。晋州医療院があった慶尚南道西部圏が代表的だ。具体的な診療圏の地域分類は来年上半期に出る。政府は地方医療院機能補強予算を84%増やし、来年は977億ウォン(約100億円)を編成した状態であり、公共病院の新築予算は2020年に反映する計画だ。
地域責任医療機関は、退院患者が町内で利用可能な病院・医院や保健所と連携することも担う。政府は来年予算30億ウォン(約3.1億円)を新規に編成し、国立大学病院に「公共医療協力センター」を設置した後、地域医療機関との協力強化を支援することにした。
ただ、今回の政府対策で出された公共病院の拡充目標がはっきりしておらず、責任医療機関に対する政策的支援も十分でないという点で、医療界で提起されている批判の声も少なくない。人道主義を実践する医師協議会のチョン・ヒョンジュン政策局長は「民間病院に公共医療を任せるのは、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政府の時に始まったこと」だとし、「民間病院はいくら報酬を上げても、結核やMERSなどお金にならない診療をきちんと行うことはできない」と指摘した。また、彼は「盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府時代の『公共病院30%拡充』という目標にも及ばない不十分なレベルの計画」と付け加えた。ある国立大学病院の医師は「韓国のように患者の特定病院への集中が激しい国で、政府が観念的に責任医療機関を指定して、垂直的な体系を設けても、システムがちゃんと回りはしないだろう」とし、「医療システムの公共性を高める方向ではなく、継ぎはぎの政策」だと批判した。