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[ニュース分析] 活況を呈す北朝鮮不動産市場、平壌に20万ドルのアパートが登場

登録:2015-04-07 01:02 修正:2015-04-11 22:12
中国・丹東から北朝鮮の住宅市場動向を探るチョン・ウニ慶尚大研究教授
チョン・ウニ慶尚大研究教授は、中国・丹東での調査結果を基に「平壌で住宅需要層が増え、20万ドルの住宅も登場した」と伝えた。 写真は2月15日の平壌市内の大規模住宅団地「未来科学者通り」建設現場の様子 平壌/朝鮮中央通信、連合ニュース

 「平壌に20万ドルのアパートが登場したそうです」。1~2月の2カ月間、中国・丹東(タンドン)に滞在し北朝鮮の住宅市場動向を把握して帰ってきたチョン・ウニ慶尚(キョンサン)大研究教授は、北朝鮮の住宅価格が急速に値上がりしていると伝えた。 2014年7月、チョン教授が丹東で把握した平壌のアパートの最高相場は10万ドルだった。 もちろん20万ドルのアパートは、その10万ドルのアパートが6カ月間に二倍に値上がりしたわけではない。 しかし、20万ドルのアパートの登場は、平壌のアパートの高級化、大型化、高価格化が急速に進行していることを意味する。

 北朝鮮の住宅市場に関しチョン・ウニ教授は韓国内の最高権威者の一人。 チョン教授は2014年10月末に開かれた世界北朝鮮学大会で「平壌に10万ドルのアパートができた」という論文でマスコミから大きな関心を集めた。また、2013年には北朝鮮の咸鏡北道茂山(ムサン)の住宅価格を洞別に具体的に把握した論文を発表し学界の注目を浴びた。

 チョン教授は今回の丹東滞留期間に収集した資料を基に、北朝鮮の住宅市場が韓国のように不動産市場化する兆候も現れていると主張する。 住宅市場が単純に居住を目的に住宅を購入する市場であるとすれば、不動産市場とは居住目的と同時に投資目的を持つ住宅購入勢力が登場する時に形成されると言える。

 チョン教授がこのように北朝鮮の住宅市場に対して先行した内容の論文を発表できるのは、毎年夏休みと冬休みの4カ月を丹東に居住して、北朝鮮の住宅市場動向などを研究しているためだ。 チョン教授は北朝鮮の住宅市場に関心を持つ理由について、北朝鮮の住宅市場が、北朝鮮の市場経済の展開方向、金正恩政権の経済政策の方向性、北朝鮮の資産階級の登場と貧富格差の拡大など、多くの情報を与えてくれるためだと説明する。 以下はチョン教授と先月30日に行ったインタビューを主題別に整理したものだ。

■最高の収益率を誇る北朝鮮の住宅市場

 チョン教授は、最近北朝鮮の住宅市場で起きた大きな変化の中の一つとして、北朝鮮の貿易会社の住宅市場への参入を挙げた。 これは何よりも住宅の建築と販売が、貿易業より収益性が高い事業に浮上したためだという。 なぜそうなのか。 チョン教授は、現在の北朝鮮の住宅市場が「潜在的需要は多いが、供給者が限定されている供給独占市場」であるためと説明する。 すなわち、家を作りさえすれば売ることには問題がない状況だということだ。

 ただしそれには条件がある。貿易会社が住宅市場に参加する時、必ず北朝鮮の官僚組織をよく知っている人を間に入れて行わなければならないということだ。 現在、北朝鮮での住宅取引は原則的には不法だ。 このような状況で住宅入居者に合法的な“入舎証”を渡すためには、官僚組織に顔が利く人が必要だ。 チョン教授はいくら資金力がある人物でも「すべての制度をクリアできる人を間に入れて行わなければ事業が死ぬ」と話す。

■住宅購入勢力の成長

 チョン教授は、北朝鮮の住宅価格はコメとドル(為替レート)に連動していると説明する。 この時、コメの計算単位にはトンを使う。 このように巨大な量のコメと大きな金額のドルを動員しなければならない住宅市場が活性化しているということは、それに見合う支払能力のある人々が北朝鮮で続々と生まれていることを意味する。

 そうした人々の支払能力、換言すれば可処分所得が増加しているのは、北朝鮮の住宅が日増しに高級化していることからも確認できる。 北朝鮮の一部の高級住宅には、1990年代にすでに“前室”概念が導入された。 ここで前室とは、石炭を焚く在来式台所ではなく“シンク台のある台所”と居間を合体させたリビング ルームの概念だ。その後も北朝鮮の住宅は最高級の中国産資材を使う住宅が登場するなど日増しに高級化している。

 だが、新しい住宅の需要者である資産家が増加しているということは、貧富格差の拡大を意味してもいる。 その裏側には自身が住んでいた家を売らざるをえない没落した住民たちがいるためだ。 北朝鮮の住宅市場活性化は、北朝鮮版貧富格差拡大の別の姿でもある。

■北朝鮮の住宅市場展望

 チョン教授は、北朝鮮の不動産市場が今後も相当期間上昇勢を示すと展望する。 1957年前後に生まれたベビーブーム世代によって、北朝鮮も韓国のように1980年代初期から住宅需要が急増した。 ところが「苦難の行軍」などにより抑圧されたとチョン教授は診断する。 1990年代中盤、食糧難で餓死者が発生した苦難の行軍時期には、大量の北朝鮮脱出事態が発生し、国境一帯ではむしろ空き家が増えもしたという。

 しかし、その後は市場化が進展し購買力のある人々が登場し、2000年代に入ると先ずこの空き家が安値で買い取られるようになった。住宅市場活性化の第一歩が踏み出されたわけだ。 以後、北朝鮮の住宅価格は急速に上昇したが、金正日政権が市場を牽制するために施行した2009年の貨幣改革でしばらく停滞した。 しかし、再び北朝鮮政府が市場容認側に方向を転換すると、2011~2014年に住宅価格は急騰した。

 チョン教授は当分は北朝鮮の住宅価格上昇が維持されると展望する。 ベビーブーム世代はもちろん、新しい資産家たちによる住宅需要が続くと見るためだ。

■北朝鮮の住宅市場と金正恩の経済改革

 チョン教授は、北朝鮮の金正恩政権が住宅市場制度化の動きを見せていると説明する。 これは、住宅市場が制度の外側にあることによって国家の公式経済部門が多くの損失を被っているという判断に従ったものと推定される。

 チョン教授は、一例として1990年代の住民間住宅取引を説明した。 当時、取引量は大幅に増加したが法的担保問題を解決できず、住宅取引を巡る紛争が絶えなかったという。 これと関連して腐敗も蔓延した。 入舎証の発行を担当する人民委員会都市経営局住宅配分課の場合、末端職員までが一般人の不法取引住宅を没収した後に自分たちが商売をしたりもしたということだ。住宅市場がこのように個人間のマネーゲームに終わることによって国家財政の拡大に寄与できなかったということだ。

 チョン教授は、金正恩政権が2013年に「住宅委託事業所」を設置したことによって、このような弊害を減らそうとしていると評価した。 住宅委託事業所は、住民から金を受け取り住宅を新たに建てる機能を果す公組織だ。 この機構の存在は、現在北朝鮮には計画経済と市場経済が共存している状態であることを示すもう一つの事例だ。 チョン教授はこれを市場メカニズムを制度化しようとする試みの一つだと見る。 彼女はこれを「金正恩体制が“先軍経済”という遺言統治を越えて、社会主義式資本主義の道へ向かっている証拠」と評価した。

■住宅市場は市場経済の学習場

 チョン教授は、住宅市場は金正恩政権だけでなく北朝鮮の住民たちにとっても巨大な市場経済学習場となっていると説明する。 何よりも北朝鮮の住宅価格がすでに交通、市場、周辺施設、さらには建物内の階数など多様な要因を考慮して決定されているためだ。 チョン教授は一例として咸鏡北道茂山のアパート価格を挙げる。 茂山で現在最も高価で取引されているアパートは「7階建て功労者アパート」だ。 ところで、その中でも7階ではなく5階が最も高いという。 エレベーターがないので燃料などを運びやすい5階が7階より価格が高いということだ。1、2階など低層階の人気がない理由は韓国と同じだという。 このように北朝鮮でも多様な要素が住宅の市場価格形成に影響を与えているということだ。

■中国人の北朝鮮不動産市場進出

 チョン教授は一部の中国人が既に北朝鮮の不動産市場に足を踏み入れたと主張する。 彼女が丹東でインタビューした北朝鮮居住華僑によれば、すでに中国人の中には不動産を見て北朝鮮に投資しようとしている人々が出てきたという。 北朝鮮は今までは住宅を外国人に全面開放していなかった。 ただし外国人が北朝鮮に投資すれば、臨時居住の目的で住宅を買えるようにすると言う。 外国人に対する規制が緩和されているわけだ。 これに伴い、平壌などでは賃加工や太陽熱発電など北朝鮮が必要とする分野に投資すると同時に、住宅と土地を取得する中国人が出てきているということだ。 一方では現在進行形で利潤を得て、他方では土地を通じて未来の利潤を得ようとする戦略だ。

■北朝鮮版「福夫人」登場するか

 「まだその段階までにはなっていない。しかし兆候は既に現れている」。チョン教授は北朝鮮の場合、1世帯1住宅原則が比較的厳守されているので、投機目的で家を売買する福夫人はまだそれほど目につかないと言う。しかし、母親名義で家を買ったり、家が完工する前に安い価格で先行投資しておき、家が完工すれば高価で売る行為は登場していると説明する。 これは韓国の福夫人(不動産投棄に熱中する夫人)が見せた行為と同様の手法だ。 チョン教授はこれらの行動が拡散して、北朝鮮でも居住を目的とした住宅概念が、投資を目的とした不動産概念に変わりつつあると説明する。

 チョン教授はこのように北朝鮮の住宅市場が不動産市場化していることや、金正恩政権がこれを制度内に取り込もうとしている姿を見る時、北朝鮮経済の市場化は今後も持続的に拡大強化されると見通した。 これに伴い、北朝鮮も経済成長と共に「1970年代に韓国の江南(カンナム)」が見せた種々の弊害を繰り返すのか、あるいはそれとは異なる姿を見せるのかが注目される。

キム・ポグン ハンギョレ平和研究所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/685702.html 韓国語原文入力:2015-04-06 20:16
訳J.S(4338字)

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