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尹錫悦内乱の世界史的脈絡【朴露子の韓国、内と外】

登録:2025-01-08 20:02 修正:2025-01-09 08:47
尹錫悦大統領とキム・ゴンヒ女史が2024年3月1日、ソウル市中区の柳寛順記念館で開かれた三一節記念式で太極旗を振っている/聯合ニュース

 学校で韓国史と世界史を別々に学んだからかもしれないが、私たちは韓国史と世界史をしばしば別の領域のように扱っている。しかし、実は一国の歴史として韓国の現代史ほど世界史的脈絡と直結しているものはない。例えば、軍事独裁は韓国のみならず、韓国のように米国中心の世界秩序の外郭に位置した1960~1980年代の南米国家の現実でもあった。1980年代末の民主化を、韓国と台湾、東欧と南米、南アフリカなどが共有した。1990年代末以降の新自由主義の導入と非正規職の量産などにおいては、韓国と日本は概ね似た軌道を踏んできた。すなわち、韓国の現代史は基本的に「特殊」であるよりは「普遍」にはるかに近い。

イラストレーション:キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 韓国国内はもちろん世界に大きな衝撃を与えた今回の「尹錫悦(ユン・ソクヨル)」内乱事態もそうだ。この事態では、韓国特有の状況、例えば検察出身の大統領の傍若無人な権威主義的思考・行動、そして軍事組織に対する市民社会の監視・統制の不足も反映されたが、同時にこの内乱は世界的トレンドの一部でもある。実際、2010年代後半から右傾化と極右の躍進、極右派の権力掌握と新権威主義政権の成立は世界の一つの支配的傾向になった。就任後、尹氏の極右政策と窮極的な内乱の試みはまさにこの傾向に属する。

 2010年代後半以前は、新権威主義は概ね地政学的比重のある準周辺国の役割だった。2000年代初めから権力基盤を固めたプーチン政権は最も典型的だったが、2014年からスタートしたトルコのエルドアン政権とインドのモディ政権も似たような部類に属した。ところが、2016年の米国大統領選でのトランプの勝利、第1次トランプ政権(2017~2021年)以降は状況が本質的に変わった。そのときからは韓国が属する国家のグループ、すなわち議会制民主主義が定着した高所得国家でも、新権威主義政権の樹立を期待する極右政治が流行のように広がったのだ。このような国際的背景がなかったら、今回の尹錫悦の妄動が起きる確率ももっと低かっただろう。

 私が住むスカンジナビアが「社会民主主義の本山」と呼ばれた時代はもう昔になった。こんにち、スウェーデンの右派内閣は2022年の総選挙で20%の得票力を見せた極右政党「スウェーデン民主党」の支持に依存しており、2023年の総選挙でやはり20%程の票を得たフィンランドの極右政党「フィン人党」は現在フィンランドの連立右派内閣で中核の地位を占めている。一時は欧州左派の「心の故郷」だったスカンジナビアだけではない。欧州連合の主要国であるイタリアでは極右派がすでに権力を掌握し、ドイツとフランスではそれぞれ20%台と30%の支持を得ている。トランプ2期目を準備する米国をはじめ、世界体制の準周辺部に続き、中心部も今や右傾化を繰り返している。

 なぜ極右派は欧米圏で相当部分の民意を得ることができるのか? 一言で要約すれば、これは新自由主義的なグローバル化が生んだ矛盾がもたらした結果だ。1980年代以降のグローバル化は欧米圏で始まったが、その最高の受恵者は今や、世界の製造業生産の3分の1を担う中国など新興国になった。1973年から1990年代初めまで下がり続けた利潤率は、新自由主義の導入で1991~2007年の間に反騰したが、2008年の世界金融危機以後は下がり続けていた。欧米圏では量的緩和、すなわち追加通貨の発行と公的資金の投入で世界金融危機をいち早く収拾したが、インフレにより生活水準が著しく低下し、大衆の貧困化問題に直面した。自らを新自由主義的グローバル化の結果として貧しくなったと考える有権者は、保護主義政策を執行できる「強い国家」を熱望するようになった。このような要求には、今までグローバル化に効果的に反対できなかった制度圏左派よりは極右政党のほうが適していたのだ。

 しかし、新自由主義以上にグローバル化に懐疑的な欧米圏の大衆とは違い、貿易で暮らす以上はグローバル化に反対するはずがない韓国では、グローバル化ではなく福祉国家の未発達と国家民生政策の不在こそが核心の問題だ。この部分においては、ひたすら福祉支出の削減だけで一貫していた尹錫悦に代表される韓国型の極右たちは、有権者に提示できる魅力的な議題がほとんどない。フェミニズムを攻撃して男女を分裂させ若い男性の投票掌握を試みることから、北朝鮮に対し戦争挑発のために平壌(ピョンヤン)に無人機を送る暴挙まで、彼らが駆使できる戦略とはひたすら嫌悪と恐怖、軍事的暴力しかないのだ。しかしそうしたところで、内乱を成功させるほどの大衆的支持を韓国の極右は全く確保できなかった。各種世論調査の結果を総合してみると、今の韓国人10人のうち7人が尹錫悦の弾劾(罷免)を支持している。このまま行けば、近い将来には穏健自由主義者が政権に就くことがほぼ確実だ。

 実際、そうなれば韓国は全世界的な右傾化に「逆流」することになるだろう。しかし、そうなっても安心は禁物だ。同様にグローバル右傾化に逆らった前回の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、非正規職や住居価格高騰など新自由主義が生んだ問題の解決に失敗し、結局極右にポストを譲ることになった。次に発足する穏健自由主義政権が文政権の二の舞にならないようにするためには、穏健自由主義の政治家に対して、街頭からの、左からの強力な圧迫が欠かせない。検察改革とともに、非正規職の雇用事由の制限など雇用の全般的な正規職化と、富裕層への課税の大々的強化、そして老後年金の充実など、普遍的な福祉制度の完成を強く要求してこそ、議会と官僚機構での保守の抵抗を突破することができるだろう。そして、そのような圧力が実効を上げるには、民主党より左傾向にある進歩政党が今よりはるかに力をつけなければならない。福祉や南北対話、朝鮮半島の平和体制の定着など、互いに合意できる議題に対しては、互いの理念的な違いを超えて協力して共に闘わなければならない。強力な急進進歩政治がなければ、我々は世界的な極右化の波を長く食い止めることはできないだろう。

/ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1176845.html韓国語原文入力:2025-01-08 08:39
訳J.S

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