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[書評]北朝鮮の今は70年代の韓国そのもの

登録:2015-01-30 10:17 修正:2015-01-30 12:50
『道で出会った北朝鮮近現代史』テッサ・モリス・スズキ著、ソ・ミソク訳(現実文化)
テッサ・モリス・スズキとともに旅行し現地の絵を描いた妹のサンディ・モリス(左)と一部区間を同行したエマ・キャンベルが断絶した鴨緑江の橋の前に立つ。遠く見える対岸は北朝鮮。現実文化提供。 //ハンギョレ新聞社

英国出身のオーストラリア大学東アジア研究者
南北分断解決法を省察する金剛山旅行記
「韓国と北朝鮮は帝国主義侵略の犠牲者
その犠牲は今も現在進行形」

 「私の目標は中国東北部と朝鮮半島が世界近代史における要衝地だったことを強調するとともに、読者にその地域の人々、特に世界のメディアから非人間的でとても理解できない姿としてしばしば描かれる北朝鮮の人々の平凡な生き方を紹介することにある」

 『辺境から見た近代』、『日本のアイデンティティを問う』などの著書で知られる英国出身の日本及び東アジア研究者のオーストラリア国立大学テッサ・モリス・スズキ教授の『道で出会った北朝鮮近現代史』(2010年)の原題は「金剛山を行く旅程」(To the Diamond Mountains)だ。 副題は「中国と朝鮮半島をめぐる100年の旅行」(A Hundred Year Journey through China and Korea)。それをあえて北朝鮮近現代史というタイトルをつけて出版したのは、中国東北3省から金剛山まで続く旅行記の形式をとった本の内容が、主に北朝鮮の過去及び現在に関連したことにあるためだろう。そう考えると、北朝鮮住民の日常を紹介した(非難したり反対しなかった)という理由だけで“従北主義者”のレッテルを貼られ、当局の捜査まで受けたあげく国外追放された在米同胞のシン・ウンミ氏のことが著書に関連づけて思い起こされる。

 著者は本でこんな話もする。「私が1970年代に韓国を初めて訪問した時、韓国は独裁者朴正煕(パク・チョンヒ)の統治下にあり、多くの政治的反対者を監獄に惨めに閉じ込めていた。1970年代に韓国の政治犯が収容されていた監獄は今日の北朝鮮の監獄と似ていて、広くない。 ある意味で今日の北朝鮮に対する私の感情は、朴正煕時代の韓国を初めて訪問した時に感じたものと大差ない。 それは政権の本質からすぐに感じられる絶望感や、狭い空間に閉じ込められても人間性を失わずどうにか生き延びている平凡な人々に対する深い尊敬心だ」。

 自らがディアスポラである著者は脱近代主義者の視線を持ち、北朝鮮を奇怪な国にしている北朝鮮の抑圧体制に対しても当然冷笑して批判する。だが、だからといって北朝鮮を冷遇したりはしないと話す。「私たちが門を閉ざすのなら、疎通が不可能だと一部国家を相手にしなければ、開いた隙間からでも覗こうと試みなければ、最も抑圧的な社会を取り囲む複雑な問題と矛盾が分からなくなるだろう。そして私たちはあまりに簡単に心の中のイメージで“不良国家”を作り出し、その社会の非常に複雑な問題について安易で単純で、ほとんど例外なく誤った解決策を考え出すことになるだろう」。そんなことでは抑圧体制に亀裂を作り非人間化を改めさせることはできないと彼女は話す。

 北朝鮮、さらに朝鮮半島全体を近代帝国主義侵略勢力の犠牲者とみなす著者は、その犠牲は今も現在進行形だと考える。彼女は近代の100年を戦争に費やした日本が起こした1894年から1895年まで続いた日清戦争を「第1次朝鮮戦争」と捉える。その後の露日戦争と朝鮮戦争までを、朝鮮半島を掌握するため朝鮮半島を戦場にした帝国主義列強の角逐戦とする著者は、今後も朝鮮半島を分断する休戦ラインが東アジア全体の運命を左右すると指摘する。「1910年にエミリー・ケンプが北緯38度線を楽に越えた時のように、北東アジアはその未来が対立と和合のどちらかに傾く分岐点に立たされている。どちらか一方の勢力が負けることになるのか、様々な勢力が協力することになるのか岐路に立っている。どちらに傾くかは、この休戦ラインで決定されるだろう」。

 著者が指す金剛山(クムガンサン)は現実にある名山であり、「地球上で最も危険な国境となる休戦ラインにある政治的にも象徴的にも重要性を帯びた場所」であり、仏教で語られる菩薩が集まり矛盾が解消された世界という重層的意味を帯びている。「私の旅程が続いた間の数多くの旅の自跡を探り、その時空間を訪ねれば、金剛山へ向かう旅程は新たな視覚として北朝鮮と周辺地域を見つめる一つの方法になるだろう」。

『道で出会った北朝鮮近現代史』テッサ・モリス・スズキ著、ソ・ミソク訳(現実文化)//ハンギョレ新聞社

 著者は1910年に日帝が朝鮮併合する数日前に朝鮮半島に来た英国ランカシャー繊維財閥出身の粘り強き女性エミリー・ケンプが書き残した旅行記『満州、朝鮮、ロシア領トルキスタンの素顔』を道案内にして金剛山に向かう旅程を組み、実行に移す。これがこの本の重要な特徴だ。100年前のケンプはシベリア鉄道に乗ってハルピン、そして瀋陽、丹東、平壌、ソウル、釜山を訪ね、金剛山へも旅行した。著者は分断などで変わった今の状況とは必ずしも同じではないが、著者は彼女と似た旅程で100年前と今の状況の時空間を交差して歴史をひも解き、100年前のように大転換中で行き詰った東アジアの出口を想像する。 当時も今も渦巻く東アジアの情勢で異なる点は 当時は中国が負け日本が立ち上がった時期だったが、今はそれが逆転しているいうことだ。

 この本における独特な旅程は、全編を貫く眺望力と深さ、日常的対象を生き生きと描き出す優れた描写力と共感力を備えている。「韓国の読者に東アジアと世界で自らの国が置かれた位置に対し考え直す新しい視覚を与えたい」という著者の風は伝わるだろうか。

ハン・スンドン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015.01.29 21:02

https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/675994.html 訳Y.B

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