現代自動車工場はあらゆる先端技術が集結する空間だ。 同時に柔軟な先端労働管理により労働と資本の格差、労働者内部の格差を拡大している。 <ハンギョレ>新年企画‘格差社会を越えて’が3番目に訪ねて行った空間は、蔚山現代車3工場アバンテ組立ラインだ。 10余年にわたり不法派遣のくびきの中に正規職労働者と社内下請け労働者が混ざって仕事をしているその空間で、私たちのそばに厳存する差別の素顔に会った。
蔚山現代車3工場に入る小さなドアを開ければサッカー場5面分の広大なアバンテMD組立現場が広がっている。 一列に400mに及ぶ巨大な薄緑色のコンベヤーベルト作業ラインが5列立ち並んでいる。 ‘トゥルルルク、セェェン、ガチャンと’不規則な機械音の中で白、黒、銀、赤など各種の色に塗装が終わったアバンテ車体が蛍光灯のあかりを受けてゆっくりと動いている。
現代車労働者800人余りがコンベヤーベルトのすぐ脇、または上に立って作業に熱中していた。 彼らは骨組みだけのアバンテ車体にエンジン、タイヤ、シート、ガラスなどを付けて生命力を吹き込んでいた。 昨年国内で最も多く売れた車‘アバンテ’はこのようにして肉が付けられた。 去る3日午後2時30分頃、世界5位の自動車会社である現代車蔚山工場の姿だ。
5本ラインの中で2本目のラインの最初の工程を受け持っている人がムン・某(37)氏だ。 右側前輪‘ショバ’(ストラット)を車体に固定するのが彼の仕事だ。 ショバは輪軸と車体の間で衝撃を吸収する部品だ。 本来はshock absorber,衝撃吸収装置という意味だ。 ショバは成人男性の前腕ほどの大きさで長い円筒形のピストンと表面を取り巻くスプリングから構成されている。 ピストン内の空気と外側のスプリングが路面から上がってくる衝撃を緩和する役割をする。
ムン氏周辺の労働者は全員藍色の作業服に空色のチョッキを着ていた。 それぞれが1台当り40秒ほどコンベヤーベルトに取り付いて部品の組立作業をする。 だが、彼らが着ているチョッキの背中部分に書かれた文字が違う。 ムン氏のような社内下請け労働者の背中には白文字で‘00企業’あるいは‘00産業’と書かれている。 ムン氏のすぐそばに立って自動車の後部番号版の上に後方カメラを取り付けている正規職労働者の背中には‘艤装3部’と記されている。
ムン氏は「私たちは正規職と公式作業時間、休み時間、作業ラインがすべて同じだが、より重くてずっと手間がかかる仕事をしている。 正規職二人分の仕事を私たちは普通1人でする」と話した。 6年にわたってアバンテのショバを付けているムン氏は現代車が新車を発売するときは不安感に襲われる。 現代車の新車発売は社内下請け労働者整理解雇の信号弾だ。 2006年6月、新車種であるアバンテHDが量産された時に蔚山3工場の社内下請け労働者106人が整理解雇された。 部品が‘モジュール化’(色々な小さな部品を一つのモジュールに装着した状態)がされて工程が減ったという理由だった。
"98年に正規職労働者が整理解雇されて増えた社内下請け労働者が今は解雇の緩衝作用をしている。"
現代車の‘人間ショバ(ショックアブソーバー)’、ムン氏が話した。
アバンテ組立ライン800人中、社内下請け労働者は200人余りで、重くて手間のかかる仕事を割当てられて1人が正規職2人分をしても給与は58%…学資金もない
■‘混在労働’の空間、組立ライン
ムン氏は現代車工場に通う前にはレストラン サービスの仕事をしていた。 2002年‘自動車業者生産職を募集する’という求人広告を見て訪ねて行った先が現代車社内下請け業者であった。 ムン氏は「入社前には組立のような生産職の仕事は下請けがして、直接雇用は別に事務室で仕事をしているものと思いました。 来てみたら皆が一緒に現場で仕事をしているではないですか」と話した。
社内下請け労働者として蔚山現代車3工場組立ラインに出勤してからすでに11年目だ。 その間、アバンテXD,アバンテHD,アバンテMD 数十万台が彼の手を経た。 11年間に所属社内下請け業者が二度変わって、現在の業者は三番目だ。 だが、朝彼が出勤する所とする仕事は変わらなかった。 出勤してから退勤するまで、ムン氏は毎日約400台のアバンテにショバを取り付ける。 l字形ロボットがショバをウィーンとタイヤ空間に持って来ると、ムン氏はガソリンスタンドの注油機のような工具でボンネットの内側に親指爪大のナット3個を嵌める。
ムン氏の手を経たアバンテ車体はコンベヤーベルトに乗ってすぐそばの正規職労働者に到着する。 この人がする仕事は自動車の後部番号版の上に後方カメラを付けることだ。 ムン氏のすぐ前工程も正規職労働者の持分だ。 自動車ボンネット(前覆い蓋)の内側に‘フードインシュレーター’と呼ばれる断熱パッドを装着するのが彼の仕事だ。 断熱パッドはプラスチック ピンで固定する。 アバンテ組立ラインで仕事をする800人余りの労働者の中で、200人余りに及ぶ社内下請け労働者はこのようにラインのあちこちに入り込んで正規職労働者と一緒に仕事をする。 ムン氏は「車種が変われば業者の組長・班長と共に生産技術、生産管理担当の正規職から直接作業方法を習う。 組立に微細なミスが起きたりラインが停止すれば正規職管理者が飛んできて直接状況を統制する」と話した。
コンベヤーベルトでの混在労働と元請けの直接管理は2010年7月最高裁が社内下請け労働者チェ・ビョンスン氏のケースを不法派遣と判定した核心判断根拠だ。 しかし現代車は最高裁の判決趣旨を認めようとしない。
正規職の作業服には‘艤装3部’下請け労働者らのそれには‘○○企業’
休憩室は別々…通勤バスも乗れない
新車を買う時はたった3%の割引
正規職は親戚でも5%割引
■‘人間ショバ’、社内下請け労働者
新車が発売されたり下請け業者に問題が生ずれば、非正規職はいつでも整理解雇の対象になる。 幸い解雇を免れても正規職が忌避する作業に投入される。 2004年12月労働部が蔚山工場101社の業者所属8300人余りの社内下請け労働者が全て不法に派遣されたと判定した後、ムン氏は労組に加入した。 当時の所属業者の社長がムン氏を訪ねてきて「整理解雇する時、労組員は不利益を受ける第1順位」と脅かした。 ムン氏は「解雇という言葉を聞くと突然危険を感じたが、そういう話ができないよう(労組活動を)より熱心にしなければならないと考えた」と語った。
ムン氏は整理解雇の話が出るたびに不安感と心配に包まれて 「仕事を辞めさせられるだろうか」と考えた。 しかし離職も大変で家族のことを考えてじっと我慢した。 今、彼は4人家族の生計の責任を負っている。 2008年、同じ工場の品質管理部で社内下請け労働者として働いていた妻と結婚して生まれた5才の娘の顔がちらつく。 3月には二番目が生まれる予定だ。
午後3時になるとすぐに巨大な工場内のコンベヤーベルト上方に点いていた蛍光灯が一つ二つと消え始めた。 休憩時間だ。 アバンテ車体が長さ400mの1ラインをすぎてU字に曲がった後、2ラインの最初の作業を務めているムン氏の場所にくる直前にコンベヤーベルトが停まった。 1ラインの終わりの部分で作業をしていた経歴11年の現代車社内下請け労働者パク・某(37)氏も手にはめていた手袋を脱いだ。 パク氏は作業位置のすぐそばに置かれた長い簡易テーブルに一人で座ってタバコに火をつけた。 その間に正規職労働者たちは1ラインと2ラインの間の廊下の2階にある休憩空間、‘サークルルーム’に一人二人と上がって行った。 パク氏は 「サークルルームは嫌がられるので(非正規職労働者は)上がれない。 正規職と非正規職が一緒に使う休憩室は工場の両端にあって10分しかない休み時間では行き来できない」として、白いタバコの煙を吐き出した。
10分は即座に過ぎ去った。 蛍光灯が一つ二つと点き始めてチャイムが鳴った。 作業開始だ。 車内部の後席とトランクの間の棚(バックケージ)を装着する作業をしているパク氏がコンベヤーベルトのそばに肩の高さほどに積みあげられた黒色棚を一枚持って車内に入った。 「ちょっと見ただけでは分からないが、車体の中に入って作業するのは下請け労働者が多い。 姿勢が辛く私も肩の調子が良くありません。」 パク氏が押し寄せてくるアバンテを眺めながら話した。
この工場で正規職がする仕事と非正規職がする仕事がどのように分かれるのか、概念的に説明できる人はいない。 社内下請け労働者にまかせた仕事が正規職の仕事よりやや力が要って骨を折るということだけだ。 この工場で社内下請け労働者に1作業当たり与えられる時間は40秒程度だ。 その時間しっかりこまめに動いてようやく終わらせられる。
仕事はきつい反面、給与ははるかに少ない。 社内下請け労働者の給与は自身と勤続年数が同じで作業ラインも同じ正規職労働者の賃金の58%に過ぎない。 社内下請け労働者には子供の学資金支援は全くなく、休暇費用も少なく与える。 「(正規職より)仕事は多くて金は少なく稼ぐことが一番辛い。」パク氏が何気なく鉄板を一枚手に取った。
98年経済危機を体験した後
増えた非正規職が緩衝作用
新車発売するときは不安感…
工程減っていつ切られるやもしれない
2006年にも106人が解雇された
■ 初対面でぞんざいな言葉を使う正規職労働者
ムン氏が作業をしたアバンテ車体がコンベヤーベルトに乗って正規職労働者を経た後、再び社内下請け労働者ナム・某(41)氏の前に来た。 ナム氏はフロントガラスの下側にワイパーモーターを固定する鉄板をボルト2個で固定する仕事をしている。 ナム氏は現代車に消音器(マフラー)本体を納品する2次部品協力会社を辞めて2002年に社内下請け業者に入社した。 2006年に整理解雇の苦痛を体験した後、現在所属しているD業者に入社した。 ナム氏は他の社内下請け労働者とは少し違って、支援班所属だ。 支援班は正規職労働者が労災、休暇、代議員選出などで席を外す時にその現場に投入される。
正規職たちと混ざって仕事をするナム氏の最も大きな不満は‘非人格的な待遇’だ。 「正規職労働者たちは私たちを透明人間を見るように扱う」ということだ。 筋骨格系疾患で両肩を手術した後、9ヶ月の空白期を経て昨年8月に工場に復帰したナム氏は、自分より年若く見える正規職労働者が初対面でぞんざいな言葉で話しかけて来て慌てた経験がある。 月給を受け取ったある日などには、ある正規職労働者がナム氏に「君の月給たくさん受け取っただろう?」と当てこすられて気に障ったこともある。 ナム氏は「(正規職には)‘私たちは主人で、お前らはいつでも首切られれば家に帰らなければならない人’という優越意識があるようだ」と話した。
この工場で正規職が非正規職より優れた存在という事実を想起させる制度的差別は散在している。「正規職労働者の親戚は現代車を買う時 5%の割引を受けるが、私たちは3%しか割引を受けられません。工場で直接車を作っている私たちが正規職の親戚より下だと言うことじゃないですか。」 ムン氏がトーンを高めて言った。 社内下請け労働者はすべての正規職労働者が1ヶ月に2万5000ウォンさえ出せば乗れる通勤バスにも乗れなくて、正規職が名札を堂々とつけて正門を通過する時、彼らは業者の名前が書かれている小さな出入証を財布から取り出して見せて、また財布にしまう。
下請けよりひどい‘短期契約職’
派遣法改正後、1千人余り増えて
2年が近づけば辞職を強要
"特別勤務は黙って頷き…月次休暇は夢のまた夢
契約職はもう一つの人間ショバ"
■ 第2の人間ショバ、短期契約職
アバンテが2ラインを回って3ラインに渡ってきた。 3ラインは車が空中につるされコンベヤーと連結されて動く。 ファン・某(39)氏はその中間地点でアバンテ車体のホイールに右側のタイヤ二つを装着する。 彼は外国為替危機の後、2年間正規職として通った大宇自動車を名誉退職させられ2000年から現代車社内下請け労働者として仕事をしてきた。 ファン氏は 「昨年7月から工場内に現代車が直接雇用する短期契約職が大きく増えた」と話した。
これら契約職はほとんどが以前まで社内下請け業者所属の短期契約職だった。 そうするうちに昨年8月、社内下請け業者所属の労働者をただの一日でも不法に派遣を受けた事実が確認されればすぐに正規職として雇用しなければならないという内容に‘派遣勤労者保護等に関する法律’(派遣法)が改正されて、現代車側がこれを避けるために下請け業者所属の短期契約職を直接雇用したのだ。
現代車は昨年12月現在1000人余りに及ぶ蔚山工場短期契約職労働者の中で、本社と下請け業者の所属で働いた期間が2年に近くなった労働者たちに今月に入って辞職願いの提出を強要していると短期契約職労働者は証言した。 短期契約職労働者K氏は「私も業者契約職と直接雇用契約職として計2年近く仕事をしているので、対象者に含まれるかと思うと不安だ」として不安をのぞかせた。 来月に結婚を控えた彼は「働けさえすれば良いが、(現代車が)仕事をする機会自体をくれようとしない」と話した。
短期契約職労働者は再契約をしてくれないのではと思えば、休みたくても月次休暇を使うことができず、特別勤務も抜けられない状況だと口をそろえる。 現代車蔚山工場の労働階級構造で最底辺に置かれた短期契約職には今や社内下請け労働者でさえ忌避する仕事が少しずつ押し付けられている。 短期契約職労働者は現代車蔚山工場で高強度労働と雇用柔軟化による負担を全身で支えるもう一つの‘人間ショバ’だ。
部品組立が終わったアバンテMDのスラリとした横のラインは印象的だ。 現代車のデザイン哲学、‘フルーディック スカルプチャー’(柔軟な躍動性・Fluidic Sculpture)が反映された結果だ。 柔軟な姿を誇る現代車を二つのショバが支えている。
蔚山/キム・ソンシク記者 kss@hani.co.kr