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「尹錫悦治下」の言論界は常に戒厳だった【コラム】

登録:2025-04-16 02:45 修正:2025-04-16 10:18
イ・ジョンギュ|ジャーナリズム責務室長
2023年5月30日、文化放送(MBC)のニュースルームへの家宅捜索をおこなった警察(右)が、抗議する職員たちに身分証を突きつけ、立ち入りを試みている/聯合ニュース

 昨年12月の非常戒厳宣布に際して戒厳司令部が発表した布告令には、「フェイクニュース、世論操作、虚偽扇動を禁ずる」との内容があった。なぜか聞き覚えがないだろうか。そうだ。「内乱首魁(しゅかい)」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領がしょっちゅう口にしていた言葉だ。

 「フェイクニュースと虚偽操作扇動がこの国の民主主義を脅かしている」(2023年10月の在郷軍人会創設71周年記念式での祝辞)

 「フェイクニュースにもとづく虚偽扇動といんちき論理は、自由社会をかく乱する恐ろしい凶器だ」(2024年8月の光復節での祝辞)

 尹前大統領が口癖のように繰り返していたフェイクニュースと扇動が、何を意味するのかは自明だ。自身と妻に対する批判だ。彼が旗を振った「フェイクニュースとの戦争」は、徹底した「批判メディアたたき」へと帰結した。そもそも目的がそのように設定されていたのだから、当然の結果だ。尹前大統領が戒厳宣布当日に文化放送(MBC)、JTBC、京郷新聞、ハンギョレを標的として封鎖、電力と水の供給遮断を指示したことも、それほど驚くほどのことではない。

 それでは物足りなかったのだろうか。布告令には、権力の恥部を絶えず暴くメディアへの敵意が深く染みついている。すべてのメディアは戒厳司令部の統制を受けなければならず、布告令違反者は「処断」するというのだ。ペットの犬のように振る舞わなければひどい目にあうと思え、という脅しだと感じた。

 振り返ってみれば言論界、特に権力が不快に感じうる報道をしてきた報道機関にとって、「尹錫悦治下の1000日」は常に非常戒厳状態だった。検察、放送通信委員会、放送通信審議委員会などが戒厳軍役を果たしていたに過ぎない。国会と中央選挙管理委員会に投入された軍人たちは「消極的な任務遂行」(憲法裁判所の決定文)で不当な指示に抵抗したが、検察や放通委などの「文民戒厳軍」は首魁の指示を忠実に実行した。

 メディアを標的とした「非常措置」は2つあった。権力批判報道に対する直接的な処罰と、公共放送の掌握だ。検察と警察による捜査、放送審議を口実とした事実上の報道に対する検閲、人事権などが、批判メディアの手首をひねる武器として大いに利用された。

 検察は、2022年の大統領選挙時に行われた尹錫悦候補に対する検証報道を「大統領選挙介入世論操作事件」と決めつけ、5つの報道機関を1年近く捜索し続けた。「大統領のご機嫌うかがいの警護捜査」だとの批判があふれたが、まったく意に介さなかった。この他にも、キム・ゴンヒ女史による大統領官邸移転への介入疑惑など、尹前大統領夫妻が機嫌を損ねる報道がなされる度に、「メディアの口封じ」捜査が行われた。記者の事務所や住居地の家宅捜索も日常茶飯事だった。大統領選挙前の2021年11月に、キム女史が批判的なメディアの名をあげて言ったという「私が政権を握れば、あそこは無事ではいられないだろう」という発言は、冗談に聞こえない。

 放審委は、戒厳司令部の布告令でも言及された「言論統制」の先兵役を十分に果たした。尹前大統領の「バイデン-飛ばせば」卑語発言などの政権批判報道に、前例のない最高レベルの法定制裁を相次いで下した。放審委が設置した選挙放送審議委員会も、過去最大級の法定制裁を連発した。保守メディアすら懸念の声をあげるほどだった。放審委と選放委が下した根拠のない法定制裁は、裁判所で連戦連敗を記録している。

 公共放送を掌握する過程では検察、監査院、放通委、国民権益委員会などの国家機関が総動員された。受信料の統合徴収の廃止、民営化、補助金の中止など、財源と所有構造を揺さぶる稚拙で極悪な手段も用いられた。「大統領の飲み仲間」であるパク・ミン氏と、大統領におもねるインタビューをしたアンカーのパク・チャンボム氏が相次いで社長の座につく間に、韓国放送(KBS)は「政権の太鼓持ち」へと転落した。裁判所がブレーキをかけたおかげでMBCが政権の手に落ちなかったのは幸いだ。それが悔しかったからだろうか、尹前大統領は戒厳当日、チョ・ジホ警察庁長にMBCを「接収」しろと指示した。

 「内乱首魁」が罷免されたのだから、もう安心なのか。そうではない。この3年間の積弊はあまりにも根深い。イ・ジンスク氏が委員長を務める放通委とリュ・ヒリム氏が委員長を務める放審委は、「合議制機関」の本分を失い、内乱首魁に任命された委員だけででたらめな運営を続けている。これからもどのような権利独占をしだすか分からない。パク・チャンボム社長のKBSは内乱勢力の顔色をうかがうのに忙しい。彼らがいる限り、言論の自由は依然として危機にある。

 内乱首魁が追い出されてから、言論弾圧の真相を糾明し、責任を問うべきだという声は強い。当然だ。しかし、それより重要なのは、反民主勢力が二度と言論の自由を踏みにじれないよう、制度を整備することだ。この3年間、ずさんな制度の弊害を十分に見てきたではないか。もうすぐ大統領選挙だ。公共放送の支配構造や放送通信審議制度など、メディアのガバナンス改革に取り組むよう、市民社会は政界に圧力をかけなければならない。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジョンギュ|ジャーナリズム責務室長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1192334.html韓国語原文入力:2025-04-14 17:25
訳D.K

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