イラン戦争によって、米国の覇権と世界的な影響力の2本の柱である軍事力とドルが失われつつある。
高価な高度精密誘導兵器や空母などの重厚長大型の装備に基づき、圧倒的な海・空軍力の優位で相手を制圧する米国の軍事戦略は、イラン戦争で破綻した。米国の軍事力はホルムズ海峡の近辺にも到達できず、アラビア海などの遠距離から高価な高度精密誘導兵器を用いてイランを攻撃したが、イランはミサイルやドローンによる反撃能力を維持した。イランは中東の米軍基地の早期警戒レーダーや早期警戒機などを破壊した。
高度精密誘導兵器に基づく戦略は、米国が1970年代のソ連とのデタントの際に本格的に推進した。米国は基本的に、戦略兵器の量的制限である戦略兵器制限条約(SALT)などの一連の軍縮条約で両国の兵器量を抑制しつつ、自分たちは兵器の質的改良を進めた。ステルス戦略爆撃機、戦略巡航ミサイル、高度な迎撃ミサイルなど、高価な高度精密誘導兵器の開発がこのころから本格化し、現在の米国の軍事力の主軸となった。
当時の米国の産業構造の転換と軍需企業の利害に沿ったものだ。1970年代のオイルショックをきっかけに、米国は競争力に劣る製造業を新興国に渡し、知識産業で再編した。このような産業の現実のもとで米国の軍需企業は、高価な高度精密誘導兵器を少量生産しながらも、より多くの利益を得ることができた。米国は産業再編に成功し、競争力を再び確保し、ソ連崩壊につながる体制上の優位を確保した。
50年が経過した現在、米国はこのような高価な高度精密誘導兵器に基づく圧倒的な海・空軍力の優位戦略がイラン戦争では通用しないという現実に直面した。ミサイルの能力が普遍化したことに加え、多品種で大量生産されるドローンなど、コストパフォーマンスに優れた兵器が米国の高価な兵器を消耗させ、その威力も低下させた。イラン戦争の前から、いわゆる「弾薬格差」、すなわち、精密誘導兵器の消耗と不足が懸念されていた。40日間におよぶイラン戦争の間に米国は、トマホークや統合空対地長距離巡航ミサイル(JASSM)、スタンダードミサイル、パトリオット、THAAD(高高度防衛ミサイル)などの攻撃用および迎撃用ミサイルの在庫の30~80%を消耗し、深刻な不足に直面している。何より、このような兵器の在庫を再補充するには6年が必要だとされる。現在の米国の製造業の現状では、安価な兵器の多品種大量生産は不可能だ。
「接近拒否・領域拒否」戦略は、大洋を越えて軍事力を投入する米国の攻撃を撃退しようとする中国の主要戦略だ。イランは米国に対抗し、「接近拒否・領域拒否」戦略に成功したことになる。強力な軍事力を持つ中国はどうだろうか。イラン戦争によって、インド太平洋における米国の戦力の劣勢は、懸念ではなく現実となった。
米国の覇権のもう一つの柱であるドルも危うい。ドルの覇権はウクライナ戦争後、ロシアと中国が米国の制裁を避け、現地通貨による決済体制を作ったことで、本格的に穴が生じた。ドルの覇権はペトロダラー体制に基づく。1970年代のオイルショック後、中東の産油国がドルだけで取引を行い、そのドルを米国債に投資するシステムだ。米ドルの地位が強化され、米国は低コストで資金を調達することができた。
世界的な危機が起きた場合はドルを求めることが基本原則だった。イラン戦争では通用しなかった。中東の産油国はホルムズ封鎖で石油を売ることができず、収益を得られなくなると、保有する米国債を売却した。イラン戦争で物価が上昇した石油輸入国も米国債を売り、自国通貨の切り下げを阻止しようとした。イラン戦争開始からの5週間で、ニューヨーク連邦準備銀行に保管されていた外国保有の米国債は820億ドル分が売却され、2兆7000億ドルにまで減少し、2012年以降で最低を記録した。米国債10年物の利回りは、戦争前の3.9%から現在は4%台半ばまで上昇した。外国の米国債の保有量は、2010年代初期の50%台から現在は32%前後にまで低下した。このため、米国の財政赤字は加速することになるだろう。
何よりも、イラン戦争は米国に対する信頼を打ち砕いてしまった。トランプ大統領は戦争を起こして、石油供給システムを破壊し、ホルムズ封鎖を招きながらも、米国産石油を売る好機だと言っている。米国は中東の石油の自由な流れを保証する存在でなく、むしろ阻害する存在だと認識されており、今後もそうなる可能性が高い。
米国は依然として大洋を越えて軍事力を投入できる唯一の国だ。ドルに匹敵する通貨は現時点では存在しない。しかし、米国の軍事力が混乱だけを招き、各国はドル依存を減らそうとしている。米国の覇権の2本の柱は消えつつある。
チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )