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「海上の要衝」握り「エネルギー覇権」狙うトランプ、その行き着く先は?

(11)「チョークポイント」を掌握せよ
ホルムズ海峡の地図と、3Dプリントで出来た米国のトランプ大統領のミニチュアモデル/ロイター・聯合ニュース

 米国のトランプ大統領の就任からの1年3カ月間、世界は政治、外交、軍事的に危機が絶えなかった。米国はパナマ運河とグリーンランドの併合を試みたかと思えば、今年初めにはベネズエラとイランに実際に侵攻までした。一見すると、いずれもトランプ特有の突発的な行動のようにみえる。しかしパナマ運河、グリーンランド、ベネズエラ、イランを地図上に置いて眺めると、共通点がはっきりする。海上交通の要衝であり、石油やガスが埋まっているエネルギー戦略拠点であるということだ。このような地域は、英米圏では「チョークポイント(chokepoint)」と呼ばれる。文字通り「首を絞めることができる」ボトルネックとなっている地域だ。

 パナマ運河は、世界の海上貿易に占める割合はわずか3%に過ぎないが、戦略的価値は小さくない。米海軍の艦隊が大西洋と太平洋を行き来しつつ機動しうるルートであると同時に、米国のコンテナ貨物量の40%が通過する要衝でもある。トランプの圧力に驚いたパナマ政府は、運河の運営権を香港所在の中国系企業から欧州系企業へと移した。デンマーク領グリーンランドは、気候変動時代に戦略的に重要性が高まっている北極の玄関口だ。領土併合の試みはNATOの同盟国の激しい反発に阻まれて水面下に沈んだが、いつでも浮上してきうる問題だ。ベネズエラは世界最大の原油埋蔵地だ。トランプはこの地に親米政権を樹立して石油の支配権を掌握したのに続き、それを武器に主にベネズエラから石油を輸入しているキューバを締め付けている。イランは米国の制裁のせいで世界の原油輸出市場での存在感は薄いが、ホルムズ海峡の支配権を握っている。この狭い海峡は、世界の原油・ガス輸出の5分の1が通過している。

海上の要衝の掌握、米国の覇権維持のカギ

 トランプはなぜ、今年初めにベネズエラとイランに慌てて侵攻したのだろうか。海をまたいで別の大陸に空母や軍艦などを移動させるだけでも膨大な時間とコストがかかるにもかかわらず、無理に近い作戦を強行したのには理由がある。中国けん制と連動している可能性が高い。2度の軍事作戦は、当初4月に予定されていた米中首脳会談を意識した布石だった可能性が高い。トランプは昨年10月の釜山(プサン)での米中首脳会談で、貿易戦争を1年間「休戦」することで合意しており、今年は4回の首脳会談を行うことになっていた。自らを「交渉の達人」と称するトランプにとって、交渉力とはすなわち、どれだけのレバレッジを握っているかの問題だ。

 トランプは『トランプ自伝』で、自身の交渉術を「目標を非常に高く設定し、欲しいものを手に入れるために押して、押して、押しまくる」と要約している。脅迫的な発言、最後通告、撤退示唆による脅しはその一環だ。交渉論の専門家で米ペンシルベニア大学ウォートンスクールの教授を務めるリチャード・シェルは、「トランプは攻撃的で執ような、勝敗をはっきりつける交渉家」だとして、「高い目標を設定し、相手の動機を把握してレバレッジをかけ、認識を操作する」と分析する。

 ベネズエラとイランに親米政権を樹立すれば、トランプにとって強力なレバレッジとなる。両国はいずれも中国の主要なエネルギー供給源だ。特にホルムズ海峡は、中国の海外からの原油輸入の50%以上が絶対に通らなければならないチョークポイントだ。『秩序崩壊』の著者で英国ケンブリッジ大学教授のヘレン・トンプソンはブルームバーグのインタビューで、米国のイラン侵攻について「トランプは世界のエネルギー秩序を地政学的に再構築しようとしている可能性がある」と述べつつ、ベネズエラへの介入やグリーンランド編入の試みも同様の文脈でとらえうると分析している。そして「トランプは世界を『資源競争』のレンズで見ている」として、「昨年、米国は中国のレアアース輸出規制に衝撃を受け、その後、一種の報復心理で中国のエネルギー安全保障を乱そうとした面がある」と語っている。

「マラッカのジレンマ」、中国のヘッジ戦略

 中国は海上の要衝が封鎖される可能性に備えて、かなり前から準備を進めていた。胡錦涛前国家主席が2003年11月にいわゆる「マラッカのジレンマ」に言及したことが出発点だった。同氏は当時「一部の勢力がマラッカ海峡の航行を侵食、支配しようとしている」と警告し、同海峡が封鎖されれば中国のアキレス腱になる恐れがあると指摘。この「一部の勢力」とは米国を指すものと解釈された。当時、米国は同年3月にイラクに侵攻し、大規模な海軍力をペルシャ湾とインド洋に投入。このとき中国は、有事に米国にマラッカ海峡を含む海上輸送路が封鎖される可能性を現実的な脅威として認識しはじめたのだ。

 マラッカ海峡は、中国が海上輸送で輸入する原油の約80%が通過する。中国にとってエネルギー安全保障の生命線であり、致命的な弱点でもある。その後、中国は2010年に南シナ海を中国の核心的利益と規定し、2014年には人工島の建設に着手。2013年に開始された一帯一路プロジェクトも、海上のチョークポイントの遮断に備えるという側面が強い。一帯一路には中国-パキスタン、バングラデシュ-中国-インド-ミャンマー、中国-モンゴル-ロシア、ユーラシア、中国-中央アジア-西アジア、中国-インドシナ半島の6つの経済回廊の構築が含まれている。米国が海洋勢力として海軍力を前面に立てて中国に圧力をかければ、中国はユーラシア大陸の奥深くへ勢力を拡大する、という構図だ。同時に中国は、2012年の党大会で「海洋強国」建設を国家発展戦略として採用しつつ、海軍力の増強を開始。2016年には、紅海とアデン湾に隣接するジブチに海軍基地を建設した。中国は2022年ごろに軍艦の数で米国を抜き、太平洋において米国を脅かすに至る。

ホルムズ海峡は「地理の復讐」か

 海上のチョークポイントを掌握しようというトランプの野望は、ホルムズ海峡でひとまずブレーキがかかった。同海峡は、その地理的条件のみによっても古くから大国の欲望を刺激してきた。古代ペルシア時代からギリシャ、オスマン帝国、ポルトガルなどの諸帝国が次々にこの海峡の支配権を狙った。インドを出発した香辛料と絹は、この海域を経てメソポタミアや欧州の交易の中心地へと向かった。ポルトガルは16世紀から17世紀にかけての100年あまりの間この海峡を支配し、通行料を徴収した。この海峡の戦略的価値が改めて注目されるようになったのは20世紀初頭だ。1908年にイランで中東初の油田が発見され、その後、イラクやサウジアラビアなどでも大規模な油田が開発された。当初、この油田地域を支配していたのは覇権国の英国だったが、1956年のスエズ危機を契機として支配権は米国へと移った。しかし、1979年のイラン革命で状況は一変した。ホメイニ政権の登場後、海峡の支配力のかなりの部分がイランの手に渡ったのだ。しかしこの海峡は、現在のようにほぼ完全に封鎖されたことはなかった。1980年代のイラン・イラク戦争でも、イラクがカーグ島を攻撃したことで「タンカー戦争」が繰り広げられたが、米軍主導の艦隊の護衛の下でタンカーの航行は維持された。

 ホルムズ海峡はトランプにとって馴染みのない場所ではない。不動産開発業者だった1988年、彼は英国ガーディアン紙のインタビューで、もしも大統領になったらイラン問題をどうするかと問われ、「米軍が攻撃されたら、カーグ島を攻撃して占領する」と答えた。30年以上前の発言だからといって軽く受け流すべきではない。ホワイトハウスのレビット報道官は3月14日にソーシャルメディアでこのインタビューを引用した文章を共有しつつ、「トランプ大統領はこれまでの人生において、イラン問題で驚くほど一貫した立場を保ってきた」と強調した。

 しかしトランプはイランを甘くみすぎていた。わずか数時間でベネズエラのマドゥロ大統領を拉致することに成功した今年1月の経験に気をよくするあまり、無謀にもイラン侵攻を強行した。制空権をほぼ掌握したため、イラン指導部の除去と主要施設への攻撃には成功したものの、ホルムズ海峡で壁にぶつかった。イランは海峡の封鎖で世界経済と金融市場を人質に取り、トランプに圧力をかけた。ホルムズ海峡の最も狭い場所の幅は34キロほどにすぎない。国際海事機関の定める通航分離制度に則り、ペルシャ湾に入る航路とオマーン湾へ出る航路は分かれているが、それぞれ3.2キロにすぎない。高速艇、ドローン、ミサイル、機雷などによるイランの攻撃に非常にぜい弱な地形だ。米軍が先端技術を用いた衛星や戦闘機、精密ミサイルで武装していても、このような地理的条件は乗り越えがたい壁だ。超大国の野蛮と欲望に対する「地理の復讐」だと言える。戦争は常に計画通りにいくわけではないというのは、古代から伝わる真理だ。

 1956年のスエズ危機から70年を迎え、それを今日の米国に例える専門家は少なくない。スエズ危機が当時の英国の衰退の象徴であったとすれば、ホルムズ危機は米国の衰退の前兆なのではないかというのだ。ただし、第2次世界大戦を前後してすでに覇権国の地位をかなり失っていた英国とは異なり、米国は依然として世界最強の軍事力と経済力を有し、基軸通貨さえも保有している。カギとなるのは、米国の大きな資産である同盟のネットワークに亀裂が生じていることだ。この同盟構造が崩壊した瞬間、超大国米国の衰退を早める引き金が引かれるかもしれない。

パク・ヒョン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1254250.html韓国語原文入力:2026-04-15 06:00
訳D.K