囲碁棋士のイ・セドル九段が9日、10年前に人工知能(AI)のアルファ碁(AlphaGo)と対局した場に再び立つ。ただし、AIと再対決するのではなく、敗北を喫したAIを活用し「囲碁モデル」を設計するためだ。
イ・セドル九段は当日、ソウル鍾路区(チョンノグ)のフォーシーズンズホテルで、AIスタートアップの「インハンス」が主催するイベントに出席する。イ九段は2016年3月9日にここでAI囲碁モデルのアルファ碁と対局した。当時、多くの専門家がイ九段の勝利を予想していた。10の170乗に及ぶ囲碁の膨大な「場合の数」をコンピュータがすべて計算できないと考えたからだ。人間の直感と経験が勝利を収めると楽観したのだ。ところが、アルファ碁の開発者たちは別の道を見つけた。探索範囲を絞る「ポリシーネットワーク」と勝率を計算する「バリューネットワーク」を組み合わせる方式のAI囲碁アルゴリズムを作り上げた。アルファ碁はイ九段に対し、4対1の圧勝を収めた。いわゆる「アルファ碁ショック」だ。イ九段は2019年に引退を宣言した後、メディアのインタビューでアルファ碁に敗れたことが引退を決意した重大な理由だったと明かした。
「アルファ碁ショック」以降、AI技術に対する産業界と一般の関心が高まり、情報・技術(IT)サービス分野にAIを適用する事例も増えている。現在広く利用されているネイバーのAI翻訳サービス「パパゴ」が導入されたのもこの時期だ。ただし、その後個別の領域でAIが適用される事例が増えたが、特化した領域で使用される技術にとどまり、「ゲームチェンジャー」にはなれなかった。
ところが、2022年11月にオープンAIが生成AI「チャットGPT」を公開したことで転換点が訪れた。AIが学習データを使用する方法が改善され、AIがコンテクストを学習できるようになった。AIが自ら成果物を生み出すことができる生成AIの時代が本格化する中で、AIは急速な発展を遂げている。最近では1〜2カ月ごとに新しいモデルが登場し、生産性も飛躍的に向上している。
ビッグテック(巨大技術企業)は、先を争ってAIの開発に多大な費用を投じている。「アルファ碁の父」と呼ばれるグーグル・ディープマインドのデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)も、グーグルのAI部門を担当し、「ジェミニ(Gemini)」プロジェクトを率いている。ハサビス氏はAIによるタンパク質構造予測モデル「アルファフォールド(AlphaFold2)」を開発した功績を認められ、2024年にノーベル化学賞を受賞した。
現在、AIの主流はAIエージェントだ。単に人間の質問に答えるだけでなく、リクエストに応じAIがユーザーの権限を得て、作業を代行する方式だ。AIエージェントの圧倒的な生産性は、格差を加速させる。AIエージェントを活用する人とそうでない人の生産性の格差はますます広がらざるを得ないからだ。
イ九段は今回のイベントで、開発者の助けを借りずに一人で音声でAIエージェントを操作し、囲碁モデルを開発する様子をデモンストレーションする予定だ。イ九段は先日、5日にソウル大学自然科学大学で行われた「アルファ碁対局10周年記念特別対談」で、「過去10年を経て、囲碁界で起きたことが産業全体でも起きているのではないかと思う」と述べた。