最近カンボジアの現地組織暴力団が韓国人を対象に就職詐欺でカンボジアに誘引し、そこで監禁と暴行、拷問を加え各種サイバー犯罪に加担させた後、殺人まで犯し、韓国中を衝撃に陥れた。「カンボジア」という国名は今もほぼ毎日ニュースに登場している。このような手法で犯罪に動員された韓国人被害者だけでも少なくとも数千人に達し、企業型サイバー犯罪を働く組織暴力団の犯行の手口が極めて残忍であることから、韓国国民の「衝撃」はある意味当然のことだ。
だが、犯罪に対する「公憤」とは別に、カンボジアに対するあまりにも常軌を逸した言説が韓国で急速に広がっているのは、非常に懸念すべきことだ。かなりの犯罪者たちが中国系という事実が特筆大書され、カンボジアに対する攻撃が国内極右が日常的に煽っている嫌中感情としばしば重なって現れる。カンボジアを「中国の属国」と蔑み、カンボジアで活動する暴力団があたかも中国共産党の手下であるかのように描写したりもする。事実53つと知られているカンボジア内の犯罪団地に閉じ込められている約10万人の各国被害者のうち多数はほかでもなく中国人だが、国内極右にとって「中国」はひたすら「加害者」に見えるのだ。同時にカンボジアは「私たち(韓国)」に比べ、経済的にも道徳的にも劣る社会であるかのように見なされている。このような認識が広がった結果、最近韓国を訪れたカンボジア人が宿泊やタクシーの乗車を拒否される事例まで発生している。カンボジアに対する誤った認識が結局、街での差別へとつながっているのだ。
カンボジアが貧しいのは確かだ。1人当たりの国内総生産は韓国の10分の1にも満たない。だが、60年前の韓国の1人当たりの国内総生産はカンボジアよりわずか30%ほど高いだけだった。その後、カンボジアを荒廃させ、韓国を豊かな国にするのに大きく作用した世界史的事件が起きた。まさにベトナム戦争だ。ベトナムの遊撃隊がカンボジアの一部辺境地域の領土を補給路として利用したため、米国は1969年からカンボジアに対する大規模不法爆撃を始めた。23万回を越える空襲を通じて270万トン以上の爆弾が投下され、これにより数十万人の民間人が犠牲になるとともに、200万人以上が避難を余儀なくされた。社会が混乱に陥ると、反米感情の爆発を利用して過激な毛沢東主義組織であるクメール・ルージュが1975年に政権を握った。
よく知られているように超急進的毛主義者の執権が「キリング・フィールド」の悲劇とベトナムの武装干渉、内戦などにつながり、カンボジアは1970~80年代に荒廃と化したのだ。ところが、カンボジアの悲劇を生んだベトナム戦争は、韓国では「ベトナム特需」として記憶される。カンボジアが廃墟になる間に、侵略国米国の味方に加わった朴正煕(パク・ジョンヒ)の韓国は直間接的に少なくとも50億~60億ドルの外貨収入を上げ、工業化を加速化させることができた。歴史を巻き戻すことはできないが、少なくとも「彼ら」が貧しくなり、「私たち」が金持ちになった経路だけは正確に記憶する必要があるのではないか。
カンボジア当局が自国に滞在中の韓国人の安全をきちんと保障していないのは、確かに彼らに責任を問わなければならない重大な問題だ。しかし、カンボジア人との関係において、韓国の国家と資本は果たして胸を張れるだろうか。その苦しい現代史の旅路を経て低開発国となったカンボジアは、外国投資を切実に必要としており、これまでカンボジアに流入した海外直接投資のうち約11%(約80億ドル)は韓国企業によるものだった。一部の韓国人がカンボジアを「中国の属国」と蔑称するが、実際に韓国もカンボジアの主な投資国の一つだ。
2000年代以降、特に縫製工場をカンボジアに設立した韓国企業が多かった。低賃金国家であるカンボジアで彼らが労働力を搾取して稼いだ利潤は一時期莫大な水準に達した。カンボジア開発研究所(CIDS)が2009年に集計した統計によると、平均的に労働者1人が会社にもたらす月純利益は280ドル程度だった。ところが、その労働者が受け取れる賃金は約80ドルにすぎず、生命を維持できる最低ラインにも満たないものだった。飢餓を免れるために、労働者たちはやむを得ず長時間残業をしなければならず、持続的な過労に苦しめられた。YAKJIN通商など韓国会社は労組弾圧で物議を醸し、韓国大使館は2014年の大々的労働者ストライキの局面でカンボジア政権に「措置」(鎮圧)を求めたという疑惑を受けていた。この数十年間の韓国-カンボジア経済関係史はこのように搾取と不当労働行為の連続だった。
搾取と不当な待遇は国内でもカンボジア労働者を対象に続いた。現在、韓国には6万5339人のカンボジア人が滞在しており、彼らの多くは雇用許可制を通じて入国した労務者たちだ。彼らの多くに対する待遇は非常に劣悪だが、特に農業部門に従事するカンボジア労働者の処遇は言葉で言い表せないほど残酷な場合が多い。2020年12月、氷点下20度の寒波の中で、暖房ができないビニールハウスの寮で死亡したカンボジア労働者のヌオン・ソクヘンさんを覚えているか。ソクヘンさんの凍死は、カンボジア労働者と韓国資本の間の関係の在り方を象徴するものだ。カンボジア犯罪団地に閉じ込められた人々を韓国マスコミはしばしば「奴隷」と表現するが、雇用許可制を通じて入ってきたカンボジアなど出身の、特に農業部門労働者もアムネスティ・インターナショナルなどが「現代版奴隷」と規定した。カンボジアとの関係において、私たちが道徳的に優れていると考えるなら、それは非常に大きな勘違いだ。
拉致、監禁など凶悪な凶悪犯罪にはカンボジア当局と緊密に協力しながら、対応していかなければならない。その協力がより効率的に行われるためには、カンボジアに対する亜流帝国主義的な、優越感に満ちた誤った見方を捨て、カンボジアとより建設的で発展的な関係を目指すのが望ましい。そのような関係を築き上げるためには、カンボジア当局に韓国人の安全保障を正当に要求すると同時に、国内外の韓国系企業で働くカンボジア労働者たちの人権保障のためにも努力しなければならない。