元憲法裁判官のアン・チャンホ国家人権委員長が、国際人権機関に韓国の憲法裁判所に対する非難を内容とする書簡を送っていたことが明らかになった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が弾劾審判手続きに言いがかりをつけて憲法裁を攻撃したのと同じ趣旨の書簡だ。さらに、極右系の人権委員たちの主導による尹大統領の防御権を保障するよう勧告した人権委の決定文を、反対意見を削除したうえで添付したという。内乱を起こした権力者の擁護が人権委の役割なのか。国際人権機関にこのような情けない書簡まで送るとは、このうえない国家の恥だ。
アン委員長は、韓国の市民団体によって提起された「人権委の12・3非常戒厳正当化」問題について国内人権機関世界連盟(GANHRI)に釈明を要求されたことに対し、「国民の(憲法裁を)50%が信じておらず、不公正な裁判をおこなっている」として、憲法裁を非難する回答書を先月27日に送った。憲法裁のムン・ヒョンベ所長権限代行を標的として、「一部の憲法裁判官の過去の行いと所属団体が物議を醸している」とも主張したという。アン委員長の述べた憲法裁による「不公正な裁判」とは、刑事訴訟法を準用する弾劾審判において被請求人(尹大統領)が同意していない検察の調書を証拠として採用したことを指す。2020年2月に刑訴法が改正され、刑事裁判では被告人の同意のない検察調書は証拠として使えなくなったのに、なぜ尹大統領の弾劾審判ではそれを守らないのか、ということだ。
だが、それを規定した憲法裁判所法の条項は、「憲法裁判の性格に反しない限り準用すること」となっている。懲戒手続きの性格を持つ弾劾審判は、有罪か無罪かを決める刑事裁判とまったく同様に行わなければならないというわけではない、との趣旨だ。実際に憲法裁は弾劾審判で、刑訴法の専門法則を緩和して適用してきた。アン委員長が憲法裁判官として罷免に賛成した朴槿恵(パク・クネ)弾劾審判で確立された原則だ。にもかかわらず、尹大統領の弾劾審判に同じ原則を適用することを不公正だと堂々と主張するというのは、自分を人権委員長に任命してくれたことに対する「恩返し」以外には説明がつかない。
アン委員長は4日の全員委員会で人権委員たちから抗議され、「疑問を提起したに過ぎず、憲法裁を非難したわけではない」と言い逃れをした。アン委員長は朴槿恵大統領の罷免を決定した際、出所不明な中国の故事成語を引用した補足意見を付け、恥をかいている。そもそも憲法裁判官の資質を疑われていた人物だ。任命過程でも、それまでの行いや認識はとうてい人権委員長を任せられる水準ではないとの批判を浴びた。アン委員長はこれ以上人権委、さらには国に恥をかかせてはならないし、自重すべきである。