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スカイキャッスルとパラサイトの国、韓国【寄稿】

登録:2024-06-27 00:25 修正:2024-06-29 09:22
「総合不動産税は中産層の問題となった」という言葉がある。欺まんだ。文在寅政権が総不税を強化し、住宅価格が暴騰した時も、納付世帯は総世帯数の2.67%に過ぎなかったし、尹錫悦政権が課税基準を緩和したたため、現在の総不税の納付世帯の割合は1.75%に過ぎない。総不税を廃止したい人々は納付者の割合を膨らませる。 
 
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授
住居権ネットワークのメンバーが3日午前、ソウル汝矣島の国会前で記者会見を行い、共に民主党と尹錫悦政権による総合不動産税廃止、緩和主張を糾弾している=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 共に民主党指導部の放った総合不動産税見直しの号砲が、真っ暗だった総選挙後の龍山(ヨンサン)の空を明るく照らし、大統領室と保守メディアはそれを機に上流層の宿願をすべて果たそうと、総不税の全廃、複数住宅保有者に対する重課税の廃止、高額相続者の税率の大幅な引き下げ、労働者に対する所得税の減免の縮小など、露骨な「金持ち減税、庶民増税」構想を打ち出している。

 このような風景は特定税制をめぐる議論にとどまらず、韓国社会においていかに少数の上流層の関心事が政界の最優先の関心事となり、いかに誠実に働く人々が物乞い、犯罪者扱いを受けるようになるのか、いかに資産や家を持たない広範な階層が政治と公論の場から消し去られるのかが見られる絶好の現場体験の機会を提供してくれる。

 「総合不動産税は中産層の問題となった」という言葉がある。欺まんだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権が総不税を強化し、住宅価格が暴騰した時も、納付世帯は総世帯数の2.67%に過ぎなかったし、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が課税基準を緩和したたため、現在の総不税の納付世帯の割合は1.75%(租税財政研究院財政パネル)に過ぎない。それが17%、27%であるかのように見せるものこそ、まさに支配階級の言説権力、意識操作権力だ。総不税を廃止したい人々は納付者の割合を膨らませる。分母を世帯総数ではなく「住宅所有者」、「マンション所有者」、「ソウルのマンション所有者」と絞れば絞るほど、総不税納付者の割合は高まる。このような水増しの末に「4世帯中1世帯が総不税課税世帯」というとんでもない計算が出てくる。

 現実を直視しよう。今、韓国では資産上位5%が全国民の保有資産の約30%を、上位20%が65%を保有している。資産蓄積が始まる30代では、すでに上位30%が全体の83%を所有している。すなわち「資産を基盤とする福祉」を実現できる階層は非常に限定的だ。「韓国では資産がすなわち福祉であるため、減税しなければならない」という論理は、一部の階層の利害関心を虚偽で一般化したものだ。むしろ多くの人は課税すべき資産を持たない。青年層の資産上位20%は資産の77%が不動産だが、下位20%はわずか11%だ(保健社会研究院の2022年報告書)。ソウルの独居青年世帯の62.7%が資産貧困(ソウル研究院の2023年報告書)であり、高齢者は資産をすべて年金化すると仮定しても貧困率が26.7%(韓国開発研究院の2023年報告書)に達する。

 韓国社会の指導層は、このような国民の暮らしの実態に、「金持ちの税金」のせめて100分の1ほどでも関心を払っているのか。所有住宅3軒、30億ウォン相続、家業継承のような話に長官や次官や国会議員たちが熱を上げる様子は、まるで外では人々が叫び声をあげながら倒れていっているのに、居間では着飾った人々がカード遊びなんぞに興じているホラー映画のワンシーンのように奇異だ。さらに衝撃的なのは、公的責任のある地位にある人々が、韓国社会の構造的不平等に関心を払うどころか、あたかも経済的に苦しい人々が金持ちから税金を奪い、寄生している存在であるかのように扱う差別的、反人権的言説を公然と吐き出していることだ。

 近ごろの減税論争においてそのような差別言説の象徴となっているのは「課税未達者」だ。「所得税課税未達者は37%にものぼる」、「上位20%が90%の税金を支払っている」という言説が数多くのテキストに登場している。このような「貧困の犯罪化」と「金持ちが損をしている言説」は李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)両政権の時代から繰り返されているパターンであり、制度化された支配言説であって、支配階級の利益を制度化する言説だ。

 課税未達者は納税拒否者でも税金未納者でもない。所得申告者の中の、課税するほどの所得のない低所得層であり、多くが中小企業の労働者や非正規の青年労働者たちだ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)、李明博、朴槿恵政権の時代は、所得申告者の50%に達した年も多かった。このような租税減免制度は、韓国の福祉制度が脆弱であるため、一種の代替制度として利用されてきた。賃金の上昇や福祉の向上もなしに労働者の税の減免を縮小すると、この階層の経済状況は破綻する。

 低所得層を「無賃乗車者」と決めつけ、不道徳な存在として描写する言説も珍しくない。福祉は望みながら税金は納めないだとか、自分が税金を払うのは嫌だが他人の増税は賛成するというもので、これも階級的偏見だ。最近の研究によると、所得変数は税に対する態度との関連性は弱く、税を最も喜んで納めるのは理念的進歩主義者や賃金生活者だ。

 「金持ちは損をしている言説」は、実際に彼らがどれほど多くの税制上の恩恵を受けているかは隠ぺいする。企画財政部の資料によると、今年の年間所得が7800万ウォン以上ある人がこうむる非課税と税減額の恩恵は15兆4000億ウォン、大企業のための租税支出も6兆6000億ウォンにのぼる。この間、福祉目的の租税支出が増えていたが、尹政権発足後は高所得層と大企業に対する租税支出が急増している。このような資産、住宅、租税に関する諸政策は、今日の韓国政治の最も鋭い対立の対象だ。民主化直後の韓国には階級政治はなかった。だが金融危機以降、2000年代中盤から階級間の亀裂が次第に鮮明になっていった。特に資産と住宅の影響は一貫しており、かつ強力だ。様々な研究結果を総合すると、概して2006年からは、大統領選挙、総選挙、地方選挙いずれにおいても、資産家上位層と住宅所有者は保守党に投票し、資産が少ない人や借家人は民主党に投票する傾向がある。

 にもかかわらず、民主党が借家人や資産家中下層の利益をはっきりと代弁できず、高資産家層の顔色をうかがうのは、「総不税は政権交代促進税」だという呪いにかかっているからだ。しかし、資産上位層の多くはいずれにせよ保守に投票する。カギは、民主党に投票しようとしていた有権者のうち、総不税のせいで保守に寝返った有権者が、政権交代の主な原因になるほど多かったのかだ。実際に2022年の大統領選挙では、総不税が重過ぎると考えた有権者や、総不税の対象者が増えた地域では、文在寅から尹錫悦への乗り換えが多かった。しかし、より重要なのは、民主党に失望した資産家中下層のなかの下層と借家人の投票率の下落と離脱だ。支持層を裏切る政党が力を得られるだろうか。そのような意味で、最近の総不税騒動について民主党指導部は徹底的に反省し、立場をはっきりさせるべきだろう。

 私は、資本主義国家はブルジョアの執行委員会だという理論を受け入れたことはないし、今もそうだ。しかし、近ごろ目撃しているのは、一つの国家が支配階級によって捕らえられると、政治は富裕層の苦情の聴取と解決のための機関へと堕落するということだ。さすがはスカイキャッスルとパラサイトの国だ。共同体に対する責任を喪失した政府の官僚や政治家、報道機関は恥を知れ。

//ハンギョレ新聞社

シン・ジヌク|中央大学社会学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1146476.html韓国語原文入力:2024-06-26 07:00
訳D.K

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