ウラジーミル・プーチン大統領と金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の首脳会談は、彼らの同盟関係だけでなく、イデオロギー的類似性においても新たな段階を示している。これは単なる政略結婚ではない。プーチンは西側に背を向け、東側で政治・経済的利益を追求している。金正恩は統一を放棄し、ロシアをより有力な経済・軍事的協力相手とみなしている。冷戦時代に北朝鮮とソ連は親密な同盟だったが、1990年代以降、両国が過去のようなロマンスを復活させると予想した人は誰もいなかった。
ソ連崩壊後、ロシアは民主主義と市場経済への移行を試みた。北朝鮮は経済崩壊と飢餓に陥った。北朝鮮は人道支援を受けざるを得なかったが、西側の意図に非常に懐疑的な態度を保った。朝ロは困難な時期を経て、西側は信頼できないという結論に至った。西側はロシア経済の崩壊に一助する助言を提供しただけではなく、北大西洋条約機構(NATO)の東進を進める中で、ロシアを(自分たちの)下位の安全保障パートナーとして扱った。西側は、北朝鮮が核兵器を放棄するように「アメ」を差し出したが、約束は実現しなかった。また、西側は北朝鮮のエリートたちに政権交代を意味するものとして受け止められる人権アジェンダを進めた。厳しい制裁に直面した朝ロは経済構造においても共通点が多くなってきていた。
不安定な民主主義を維持していたロシアは、事実上の終身大統領になった一人を中心とする独裁国家になった。北朝鮮は王朝的体制をほぼ80年間維持している。イデオロギー的類似性とは別に、朝ロは急成長する関係で具体的な利益を得ている。北朝鮮はロシアに砲弾数百万発を供与した。砲弾の半分は古すぎて使えないという話もあるが、ウクライナに劣勢を感じさせるのに一役買っている。北朝鮮はその見返りに、食糧、エネルギー、衛星、そしておそらく核兵器と関連した技術も手に入れるとみられている。
新たな二国間関係は軍事同盟のレベルへと発展した。また両国は「正義に基づき、多極化した新しい世界秩序」に向けた協力を約束した。「多極」とは冷戦時代の両極体制や脱冷戦時代の米国一極体制の代案を意味する。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)の浮上に代表される多極体制は、国連安全保障理事会の構成の変化を求める流れなどを意味したりもした。ところが、特にロシアの影響によって、多極体制はもはや法治、国連憲章および後続の条約に明示された権利、一部の原則を特定の国の意向よりも優先するという概念などへの挑戦を意味するようになった。
朝ロはすでにイランやシリア、ニカラグアなどと連携し、他の国々とも協力を強化している。このような軸はまだ臨界水準に近づいたわけではない。ロシアは中国を引き入れることを目指しているだろうが、中国はこのようなルール違反者たちを全面的に支持するには、現在のグローバル秩序にあまりにも多くの投資をした状態だ。
朝ロは代案的な世界秩序の構築にとどまらず、現在の状況をさらにかく乱させることを考えているようだ。金正恩は最近、韓国を脅かすような発言を繰り返し、統一に向けた努力の象徴である祖国統一3大憲章記念塔を撤去した。再び南侵すれば、自分の首を絞めることになるだろうが、2022年にロシアがウクライナに侵攻したように、国家というものはしばしば予測不可能な行動をする。
おそらく朝ロは時間をかけてより多くの同盟、特に中国のような国を同盟に引き入れることを目指すだろう。ハンガリーやオランダなどで極右政治家が浮上し、米国でもそのような人物が政権を握る可能性がある。西側は朝ロのような新しい軸に挑戦するにはあまりにも分裂しており、孤立主義に陥っている。中国はすでに自国との関係を断ち切っている西欧と決別するかどうかを決断をすることになるだろう。だから、この新たな同盟は単にアウトサイダーたちの同盟ではない。ロシアと北朝鮮の観点から見ると、これは全く新しい世界秩序の始まりだ。