最近、LINEヤフー問題が国民的な関心事として浮上したため、おりしも開催された5月26日の韓日首脳会談に韓国国民の関心が集まった。この席で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領はみずから、LINEヤフー問題が両国間での不必要な懸案にならないよう管理すべきであり、日本の総務省の行政指導がネイバーの保有株の売却を要求するものではないと理解していると述べたという。すると岸田文雄首相は、これはあくまでセキュリティー・ガバナンスの再検討を要求したものだと答えたそうだ。当惑させられる。日本の立場の肩を持つような尹大統領の発言は、主語も問題の責任の所在も曖昧だ。総務省の行政指導の公文書は厳然と存在しており、ネイバーとヤフー側も認めたにもかかわらず、取り繕うのに必死な様子にみえる。しかも、なぜ韓国の全国民の最大の関心事を、大統領ではなく関係者の口を借りて聞かねばならないのか。
両国がこの問題を収拾するには、順を追って問わなければならない重要な質問が3つある。まずは、LINEヤフーのセキュリティー事故の重大さの把握だ。ところが、総務省の無理のある持株売却要求は、韓国で問題解決の最初のボタンとなる実態把握の議論を追いやり、反日感情に火をつけた。しかし外国企業による自国内での個人情報流出事故は、韓国も経験があることだ。これと関連して、韓国の個人情報保護委員会は4月に日本の個人情報保護委からネイバーに対する共同調査の意向を問う実務者レベルのメールを受け取った際、公式文書ではないとして回答しなかった。韓国の個人情報保護委も外国の政府に外国企業の関連資料を要請したことがあり、今回の場合はその逆の事例だ。仮にその時に応じていたならば、韓国と日本の関係当局間で重要な3つの質問を実務的に把握し、双方の情報保護を協力する基盤も作れたはずだが、誤った判断で機を逸した。
次に、LINEヤフーが日本政府に提出したセキュリティー強化策の実効性の把握だ。それを踏まえたうえで、次の段階で総務省の異例の持株売却要求がLINEヤフーのセキュリティー体制強化にどう貢献するのかを検証できる。これと関連して、韓国内で見過ごされた日本政府内の行き違いに注目したい。LINEヤフーに対する総務省の2回の行政指導(3月5日、4月16日)は、いずれも資本関係の是正を要求したが、日本の個人情報保護委の2回の行政指導(3月28日、5月22日)にはそのような要求は一切ない。そこでLINEヤフーが同一事案について2つの機関にそれぞれ報告したのもおかしなことだが、総務省には資本関係の是正を関連会社に要請したと報告した一方、個人情報保護委にはこれに関する内容の報告は一切ない。このような状況で、韓国政府はこの件についての日本政府の説明を要求し、無理があることだと判明すれば、正式に是正と再発防止を求めるべきだ。大統領がしゃしゃり出て「持株売却を要求するものではないと理解している」などと言ってうやむやにすべきことではなかった。
今回の問題は、経済安全保障と結びつく21世紀の保護主義の特異点を示している。今回の問題は、データ主権、プラットフォーム主権、人工知能(AI)主権の時代に重要な話題を投げかけた。フリードリッヒ・リストが理論的土台を構築した伝統的な保護主義の中核は、商品に対する輸入関税だ。しかし、こんにちの保護主義ははるかに複雑かつあいまいだ。保護対象の範囲は、商品からサービスや投資はもちろん、先端技術、データ、サプライチェーンなどに至るまで大幅に拡大した。なおかつ、保護主義は陣営化された。陣営の間で安全保障を名目に半導体、AI、データのようなデュアルユース(軍民両用)技術の保護主義が進んでいる。米国のTikTok排除が例に挙げられる。ところが、陣営内の保護主義もまた蔓延している。日本のLINEヤフー制裁に隠されているのがこれだ。日本政府の持株売却要求には、情報漏洩事故を引き起こした韓国企業に自国のデータとプラットフォームを任せることに対する危機感と不快感が隠されている。
たとえ総務省の持株売却要求が撤回されたとしても、それで終わりではない。日本の参議院が5月10日、議論の余地がある「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」を可決したためだ。これによって日本政府は、経済安保上の重要情報にアクセスしうる民間企業を排除する法的根拠を持つことになった。行政指導ではなく、法に基づくネイバー排除が可能になったのだ。だからこそ、なおのこと大統領は今回の首脳会談で、今後日本が安全保障を理由に釈然としない外国企業差別を行うのであれば座視しないと釘を刺すべきだった。
これは始まりにすぎない。今回のことをきっかけに、韓国も日本のように包括的な経済安保法が必要なのか、韓国と日本の間でこれらの協力と共助が可能なのかを公論化しなければならない。経済安保時代には国家が前面に出ることになる。自国民と企業を保護する意志と力量を備えた国家を求める。だからこそ問いたい。彼はどの国の大統領なのか。
キム・ヤンヒ|大邱大学経済金融学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )