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[コラム]在韓米軍撤退と第2の「アチソン・ライン」

登録:2024-05-15 07:24 修正:2024-05-15 12:30
尹錫悦大統領が昨年4月の米国国賓訪問の際、ホワイトハウスのイーストルームで「アメリカン・パイ」を歌っている/聯合ニュース

 今でも「あの日」のことを思うと、寝ていても跳ね起きてしまいそうになる。

 2006年5月4日、米軍基地の拡張事業が予定されていた平沢(ピョンテク)の大楸里(テチュリ)と道頭里(トドゥリ)の原野で、「夜明けのファンセウル(コウノトリ村)」作戦が始まった。この作戦の遂行のために、警察は110個中隊1万1500人、首都軍団第700特攻連隊は2個連隊2800人あまりが動員された。軍・警察と農民・反対派の初の衝突は、廃校していたテチュ小学校の正門の横に作られた米軍部隊用の小さな入口の前で始まった。戦闘警察の猛烈な攻撃によって犬の群れのように押し出された農民や労働者、学生らは、テチュ小学校の校舎で何時間もの間座り込み、ふたたび犬の群れのように血を流しながら引きずり出された。このようにして確保された土地に、今では米国本土外の米軍基地としては世界最大の「キャンプ・ハンフリーズ」が作られた。

 ファンセウルの悲劇のショックのせいか、しばらくは平沢には目も向けなかった。しかし時間が経過し、朝鮮半島と東アジアをめぐる過酷な安全保障の現実を理解するようになると、考えが少しずつ変わっていった。韓国の安全保障において在韓米軍が占めてきた割合とその「抑止力」を考えると、米軍の駐屯過程で発生する「コスト」をある程度は受け入れなければならないと考えるようになったのだ。この「変節」によって、平沢時代の友人を少なからず失った。

 在韓米軍の抑止力とは何だろうか。ハーバード大学のジョセフ・ナイ客員教授らが日本のジャーナリストの春原剛氏と行った対談集『日米同盟vs.中国・北朝鮮』(2010)という新書本に、非常に興味深い問答が登場する。ビル・クリントン政権で国防次官補を務めた著名な学者であるナイ教授はこの本で、米国の拡大抑止が作動するための条件を問われ、「核有事事態が発生した場合に米国が日本を守ることを保障するのは、核兵器それ自体ではなく、日本に駐屯する米軍の存在」だと述べた。

 実際、自国が核攻撃を受けることを甘受してある一国が他国を守るという拡大抑止の公約とは、「この嘘は本当だ」と宣言するようなものだ。これに関して興味深い逸話がある。1961年6月2日のパリ首脳会談で、フランスのシャルル・ドゴール大統領は米国のジョン・F・ケネディ大統領に「ソ連が核兵器を使った場合、我々を守るか」と尋ねた。若いケネディが「そうだ」という模範解答を示すと、海千山千のドゴールは、ソ連の侵略がどこまで進めばいつどの目標を攻撃するのかを再度尋ねた。米国がパリのためにワシントンやニューヨークを犠牲にできるのかと追及したのだ。ケネディは答えられず、すでに独自の核武装の道に進んでいたフランスを止めることもできなかった。

 ならば、米国はソウルのためにワシントンやニューヨークを犠牲にできるのか。これに対する模範解答も同じく決まっている。ジョー・バイデン大統領は昨年4月26日の「ワシントン宣言」で、「韓国に対する米国の拡大抑止は、核を含む米国の能力を総動員して支援される」と大言壮語した。

 この「嘘」をありのままに信じるのは馬鹿なことだが、韓国は長らくドゴールのように深堀りする質問はしてこなかった。約束の履行を強制する「最小限の担保」のためだった。米国が本当に「切迫した状況」で「極限の判断」をする際に考慮することになる「唯一の」(!)変数は、おそらく韓国の運命ではなく、平沢のキャンプ・ハンフリーズや神奈川の横須賀、沖縄の嘉手納にいる米軍とその家族の運命だろう。これらの基地が北朝鮮や中国の核攻撃で徹底的に破壊され、数万人の米国人が全員悲惨な最期をむかえることになれば、米軍は本当にバイデン大統領の約束どおり「即刻、圧倒的、決定的な対応」に出るかもしれない。そのような意味で、2万8500人にのぼる在韓米軍とその家族の存在は、米国が韓国のために提供した「血の担保」にほかならない。

 11月の大統領選を控えるドナルド・トランプ陣営からは、在韓米軍撤退に関する言及が相次いで出てきている。単に費用をもっと出せというのではなく、「マラソン・イニシアティブ」のエルブリッジ・コルビー代表のように、韓米同盟の存在意義自体の否定を主張する人物さえいる。この極端な意見が米国の官民で広範囲な支持を得ているとは思えないが、世の中に絶対はない。在韓米軍撤退は韓国に対する拡大抑止の公約を撤回することであり、米国の防衛ラインから朝鮮半島を除くという第2の「アチソン・ライン」を宣言することにほかならない。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、心配のあまり眠っていてもガバッと跳ね起きるべきではないのか。

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1140559.html韓国語原文入力:2024-05-14 18:37
訳M.S

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