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[寄稿]尹大統領が危ない

登録:2024-03-29 00:52 修正:2024-04-01 11:56
パク・ポギョン|慶熙大学教授・元大統領府経済補佐官
18日、尹錫悦大統領が物価現場点検に訪れたソウルのあるスーパーの野菜コーナーで、長ネギを見ている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 大統領が最も危険にさらされるのは、おそらく大統領の考えが国民の考えから遠ざかった時だろう。大統領は常に国民と息を合わせた時にのみ、その言葉が国民の考えと自然に交差し、共感を生み出すことができる。だが呼吸が合わないと大統領は突拍子もないことを言うようになり、それが予期せぬ大きな政治的リスクを生む。国民は「あの人は私たちとは違う世界に生きているんだな」と考え、すぐに距離を置く。医学部増員問題と「長ネギ」発言をみると、今の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領はこのようなリスクを抱えていると思われる。

 国民と息を合わせて生きるというのは、言うほど簡単ではない。大統領は国民と日常を共にすることが難しい環境にいるからだ。私は大統領が大統領府を離れ、毎日通勤すると言った時、賛成した。出勤はそれなりに国民の日常が垣間見えるささやかな方法だと考えたからだ。だが、大統領室への移転を突撃作戦のように実行したことで物議ばかりを醸した。いま振り返ると共感効果もあまり得られなかったようだ。大統領の考えが国民から遠ざかってしまったのはなぜだろうか。

 まず、大統領の自己主張が強すぎるのが問題だ。医学部増員問題をみてみよう。医師の不足問題は明らかに深刻なのに、医師たちの反発に阻まれ、過去の政権は供給拡大にいつも失敗してきた。この問題を解決するとして政府が立ち上がったことは評価されて当然だ。政策発表直後、国民の支持は圧倒的だった。だが今、国民の評価は変わりつつある。患者のもとを去った医師も問題だが、政府が2千人増員に固執し、国民の不安を高めていることに対する不満も強まっている。医学部の教授たちが辞表の提出を予告しつつ対話の意志を表明した時、政府は定員調整を含めた対話による解決に乗り出すべきだった。医学部の教授たちは使命感で仕事にあたる人々だ。彼らの大多数が辞表まで出すと言ったら、状況はそれ以前とは違っているということだ。ところが政府は金科玉条でもない2千人増員に固執し続けた。国民は今、これを大統領の固執だと考えている。

 大統領の発言を聞くと、「妥協」を非常に嫌っているようにみえる。おそらく長年の検察生活のせいだろう。私たちが解決すべきほぼすべての問題は、妥協なしにはそれが不可能だ。年金、労働、教育の改革という三大課題すべてが同様だ。数学の問題のように解決法が分からないからではなく、妥協の能力と意志が不足しているから解決できずにいるのだ。妥協を嫌っていて、どうして成果が出せるのか。大統領は議題を投げかける立場ではなく、成果を出さなければならない立場だ。

 国民から遠ざかった2つ目の理由は、メディアの機能の歪曲だ。大統領だといっても、複雑な民意を読み取る特別な方法を持っているわけではない。新聞や放送のようなメディアに依存するしかない。だから報道は民意の鏡だ。この鏡が歪んでいたり、あるいは歪んだ鏡ばかりを見たりしていると、民意がきちんと読み取れない。政府に有利な報道、権力の顔色をうかがう報道は、今は耳に心地よいかも知れないが、歪んだ鏡となって結局は大統領を国民から遠ざける。問題がきちんと把握できないまま蓄積していくと、ある時点で爆発する恐れがある。今、多くの国民は、公共放送はすでに歪むだけ歪んだ鏡となっていると考えている。歪んだ鏡を平らにすることこそ、大統領自らがリスクから脱する第一歩だ。

 最後に、官僚が大統領を危険にさらす恐れがある。韓国の官僚は仕事熱心だが、すべての関心が大統領に向けられている。大統領の指示や望みを達成するためにあらゆる手段を動員するが、大統領の意に逆らったり、問題を指摘したりする誘引力はほとんどない。怒鳴りつける大統領の前でならなおさらだろう。大統領が市中の長ネギの価格を知らなかったということが問題なのではない。持続可能でもない物価対策を立てておいて、まるで問題が解決したかのように行事会場に大統領を連れて行ったことの方が深刻な問題なのだ。4000ウォンする長ネギにあらゆる補助と一時的な割引を重ね、価格が下がったように見せかけたのだ。その店を離れてしまえば意味がなくなる価格だ。短期的な成果を督励する大統領と、何とか成果を示そうとする官僚が、大統領を危険に陥れているのだ。

 危険から抜け出すためには、鏡に民意をきちんと映し出させること、大きな勇気を出さなくとも異なる意見が言えるようにすること、官僚が小細工で現実を隠ぺいすることができないようにすることが必要だ。大統領は固執ではなく妥協によって成果を出すべきだ。大変だが、すべて大統領の役割だ。

//ハンギョレ新聞社

パク・ポギョン|慶熙大学教授・元大統領府経済補佐官 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1134168.html韓国語原文入力:2024-03-28 07:00
訳D.K

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