本文に移動

[寄稿]韓国の歴史戦争、真実和解委の狂風を止めよう

登録:2024-03-21 07:27 修正:2024-03-22 08:30
イム・ジェソン|弁護士・社会学者
国家暴力被害汎国民連帯の会員らが12日午後、真実和解のための過去事整理委員会の事務所でキム・グァンドン委員長の民間人虐殺正当化や民主化運動への蔑視発言を糾弾し、委員長との面談を要求している=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の洪範図(ホン・ボムド)将軍の胸像移転の論議については、唐突だと感じた人が多かった。朴正煕(パク・チョンヒ)政権では建国勲章が授与され、朴槿恵(パク・クネ)政権では海軍の潜水艦に「洪範図号」という名称が付けられた。このように公認された独立運動家に対して尹錫悦政権は、ソ連共産党の経歴を持ちだし、国を守る陸軍士官学校には適切な胸像ではないと蔑視した。60%を越える反対世論にも関わらず、胸像の移転を決めた。いったいなぜなのか。朝鮮日報でさえ嘆いた。「今は、洪範図の胸像をめぐる論議を行うときではないのではないか」

 論議は唐突ではない。ニューライトに掌握された尹錫悦政権の緻密な歴史戦争の過程だったからだ。国家報勲部のパク・ミンシク初代長官は同時期の昨年7月、日帝強占期(日本による植民地時代)の朝鮮人独立軍を討伐した間島特設隊で将校として服務したペク・ソンヨプについて、「ペク将軍は親日派ではない。自分の職を賭けて言える自信がある」と強く語った。長官就任から2カ月の時点で最も熱を入れたことがペク・ソンヨプの復活だった。同月、ペク・ソンヨプの顕忠院の埋葬記録から「親日行為者」の文言が削除された。

 尹錫悦政権の歴史戦争を一言で定義すると、次のようになる。共産全体主義との神聖な戦争。辞書にもない「共産全体主義」という表現を、大統領が自ら前面に押し出す。共産主義や北朝鮮と少しでも関係したと疑われれば、100年前でも50年前でも、歴史からほじくり出す。その反面、彼らに対抗したのであれば、親日でも独裁でもかまわない。ソウルの真ん中に李承晩(イ・スンマン)記念館を建てるという動きも、この時代錯誤的な反共戦士たちの聖戦の一つだ。

 この歴史戦争の最もおぞましい事件が近づいている。過去に繰り広げられた国家暴力の真実を糾明し、被害者の名誉を回復することを使命とする「真実和解のための過去事整理委員会」(真実和解委員会)が戦場だ。早ければ5月には、「共産主義者を助けたのであれば、裁判なしで殺すこともありうる」という趣旨の決定が真実和解委員会で下されると予想される。決定されるとすれば、民主化後の大韓民国の公式機関としては前代未聞の判断だ。共産主義者を抑え込むという歴史戦争が、大韓民国が勝ち取った人権と民主主義の凄惨な没落へと広がっている。

 具体的な状況は次のとおりだ。現政権のニューライト戦士の1人である真実和解委員会のキム・グァンドン委員長は、2022年に就任した直後から、「朝鮮戦争中の民間人虐殺の犠牲者から、反逆者を選り分ける」とする意向を示していた。昨年末には「朝鮮戦争のような戦時下では、裁判などできないので、赤色分子と共産主義者を(裁判なしで)軍人と警察が殺すこともありうる」という明白な嘘まで公式に表明した。

 反逆者追求の結果が、12日の委員会全体委員会に上程された。1950年10月に珍道郡義新面(チンドグン・ウィシンミョン)の住民40人あまりが、反逆の疑いをかけられて裁判もせず韓国軍警によって殺された事件(珍道事件)をめぐり、調査対象のうち4人については、「反逆者であるため、人権侵害ではない」とする「真実糾明不能」案件が上程されたのだ。幸い、委員会はこの案件に対する議決を2カ月間保留した。ここで、この寄稿の目的は、来る5月にこの案件が通過することだけは、韓国社会はなんとしても防がなければならないということだ。

 珍道事件の犠牲者4人が反逆行為をしたという証拠はきわめて脆弱だ。虐殺の19年後の1969年、加害主体である珍島警察署が作成した文書に記載された「暗殺隊員」の4文字がすべてだ。しかし、証拠の信憑性の論争は別にしておこう。犯罪者であっても、捜査過程で拷問をしたとすれば人権侵害であり、再審の理由となる。反逆行為者であっても、法が定めた手順を踏まなければならない。韓国は、善良な市民を意味する「良民」の虐殺だけでなく、「民間人」の虐殺を国家犯罪と規定している。これが文明であり法治主義だ。過去30年あまりの間、韓国社会における過去事の清算の原則だった。しかし、歴史戦争の狂風のなかでふたたび「裁判なしで殺してもかまわない」とする国家の宣言が出てくる状況になった。いまは2024年だと思っていたが、1950年と同じだ。

 「たとえ戦争中だったとしても、国家機関である警察が、非武装・非抵抗の民間人を法的根拠や司法手順を踏まずに殺害した行為は、憲法に保障された国民の基本権である生命権と適法な手続きの原則、裁判を受ける権利を侵害したものだ」。真実和解委員会の民間人虐殺決定文で繰り返された文言だ。この文言を守るべきではないのか。「国家権力は、いかなる場合であっても、合法的に行使されなければならず、逸脱に対する責任は特に重く扱われなければなりません」。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領による2006年の済州(チェジュ)4・3国家追悼式での追悼の辞だ。この原則が崩れることを見過ごすわけにはいかない。

//ハンギョレ新聞社

イム・ジェソン|弁護士・社会学者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1133006.html韓国語原文入力:2024-03-20 19:21
訳M.S

関連記事