世間に出回っているうわさによると、「それでも」経済を回すのは保守の方がうまいという。だが今の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の経済政策をみると、「経済を回すのは保守の方がうまい」といううわさは事実ではないように思える。尹錫悦政権にまともな経済政策があるのかと思えるほどだ。社会政策を専攻した筆者がこのような文章を書くのだから、もどかしいといったらない。
国内外の機関が今年の韓国の経済成長率の見通しを1.4%に下方修正している。米国、日本、欧州などの主要先進国の成長率見通しが上方修正されているのとは対照的だ。韓国経済が本格的に成長を始めた1960年代以来、経済危機が発生した時を除けば、成長率見通しが1%台を記録したことはない。
韓国銀行によると、新型コロナウイルス危機前の韓国経済の潜在成長率推定値は2.5~2.6%であり、コロナ禍の時期(2020~2021)にも2%程度だった。今年の1.4%という成長率見通しは、政権が経済運営さえうまくやれば達成しうる潜在成長率にもはるかに及ばない値だ。
問題は、韓国社会において成長率の低さは単なる数字ではないというところにある。韓国社会では長きにわたり、平凡な人々が貧困から抜け出し、より良い暮らしを追求する契機となってきたのは「公的福祉」ではなく「成長が作り出した雇用」だったからだ。「経済を回すのは保守の方がうまい」という神話が生まれ得たのも、権威主義政権が成長を通じて雇用を創出し、絶対的貧困を減らすとともに不平等を緩和してきたからだ。87年の「民主化」後に成立した2つの保守政権の10年も、成長によって国民生活の問題に対応した。経済は成長したのにその成果が少数の企業と金持ちに独占されていたなら、「経済を回すのは保守の方がうまい」という神話は生まれなかっただろう。
公的福祉が脆弱階層はもちろん中産階級の安定的な生活も保障できない韓国社会において、成長率すら低下するということは、平凡な人々にとっては災いだ。韓国社会は中産階級ですら、市場で長時間働かなければ人間的で文化的な最低限の生活は享受できないからだ。
だから、経済が厳しくなれば政権が財政を動員して景気を守るというのが常識だ。しかし尹錫悦政権の経済政策は逆に進んでいるように思える。韓国銀行によると、第2四半期の政府消費の減少によって、成長率が0.4ポイントも下がったという。コロナ禍がパンデミックから風土病化を意味するエンデミックへと転換したことを考慮しなければならないだろうが、景気見通しが次第に悪化している現状にあって政府が役割をきちんと果たしているとは考え難い。政府がやるべきことをきちんとやっていたなら、経済状況は今よりはましだっただろうということだ。
もしかしたら政府はやらなかったのではなく、自らの掘った落とし穴にはまってできなかったのかもしれない。今年上半期だけで税収の減少が40兆ウォン(約4兆円)近くになっているからだ。現政権の無分別な減税政策が税収減少の重要な原因であることに疑いの余地はない。税収がこんなにも減少しているのだから、危機状況であろうと政府がなすべきことができないのは当然だ。
かといって、国債を発行して政府支出を増やすことも難しい。尹錫悦政権自らが文在寅(ムン・ジェイン)政権を批判し、政府負債を減らして「財政の健全性」を維持すると豪語したからだ。経済と国民生活の危機に対応しうる実効的な対策を打ち出さなければならないが、政府が「減税」と「健全財政」という矛盾した政策に固執する限り、答えはない。国民生活を支えるべき政府の蔵が空(から)だからだ。
それでも希望を見出すなら、ほとんどの主流経済学者が「愚かなこと」と批判した価格規制によって尹錫悦政権がインフレを抑えようとしたことだ。「自由市場」を信奉する政府が企業に迫り、ラーメンの価格を引き下げさせた。だが、現政権の経済チームは、コロナ禍以降のインフレは企業の過度な利潤追求による「強欲インフレ」のせいで起きたとは思っていないはずだ。
重要なのは、尹錫悦政権が必要ならば既存の教祖的立場を捨てて政策を実用的に実行したという点だ。自由市場を強調する政府が庶民の生活苦を軽くするために企業に「ラーメン価格の引き下げ」を迫ったのなら、国民生活のために経済運用基調を緊縮と減税から積極的財政政策に転換できない理由はない。
「それでも経済を回すのは保守の方がうまい」という世間の神話が尹錫悦大統領の任期中に崩壊してもよいのか。自尊心の問題ではない。国民の暮らしの問題だ。実用的に考えてほしい。
ユン・ホンシク|仁荷大学社会福祉学科教授・ソーシャルコリア運営委員長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )