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[寄稿]左派も「法と秩序」をスローガンにする必要がある

登録:2023-07-22 08:11 修正:2023-07-22 10:19
[世界の窓]スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
米国のドナルド・トランプ大統領を支持するデモ隊が2021年1月6日午後(現地時間)、ワシントンの議会議事堂の内部に乱入している。この日、米議会は上下両院合同会議が開かれ、ジョー・バイデン次期大統領の勝利を認証する予定だったが、デモ隊が議事堂に乱入したため、6時間中断された=ワシントン/ロイター・聯合ニュース

 6月27日、フランスで17歳の少年が警察の銃によって死亡した。抗議デモは全国的な略奪と放火に拡大し、警察による鎮圧が続いた。その過程で、警察を代表する2つの労働組合が声明を発表し、もし政府が「野蛮人の群れ」の鎮圧に必要な支援を十分に提供しない場合、警察が独自に行動することもありうると警告した。警察強硬派が政府に逆らって行動することが起こりうると脅迫したのだ。これは、フランスの国家権力の構造に生じた亀裂を示している。

 左派であれば、暴力デモは問題そのものではなく問題に対する反応であるため、危機を解決する方法は警察による弾圧ではなく、社会自体を根本的に変革することだと言うだろう。その解決策は抽象的な水準ではきわめて適切な言葉だが、今回の事態の解決策としては問題だ。フランスのデモ隊は、低所得の労働者たちが利用する市内バスを攻撃したが、これは普通の人々の日常を支える施設を破壊する行為であり、貧しい人々に対する攻撃に過ぎない。

 大衆デモは、ウクライナのユーロマイダン革命やイランのデモのように解放的なビジョンを持つ場合、肯定的な役割を果たす。南アフリカ共和国のアパルトヘイト終結や米国の反人種主義運動のように、暴力的行動の脅威を政治的解決にうまく活用したケースもある。今回のフランスのデモの場合は違う。法と秩序を早期に回復しなければ、進歩的結果をもたらす代わりに、極右指導者のマリーヌ・ルペンを次の大統領に当選させることになりうる。

 ロシアでは「ルペン」がすでに政権を握っている。エフゲニー・プリゴジンのモスクワ進撃は滑稽に進められた。ある種の取り引きが成立し、反乱はわずか36時間で終わった。プリゴジンが本当にロシアの権力を転覆しようとしたのか、あるいは、プリゴジン自身の主張のように、単に不当に対する抗議を表現しようとしたのかについては、誰も分からない。ウラジーミル・プーチンはロシア内部のエリートの様々な派閥の間でバランスを取らなければならないが、その過程は外部からはまったく分からない不透明な形式で進められている。正確な事情が何であるにせよ、ロシアという国家が民間軍事会社を汚い取引のパートナーにしなければならないという事実は、この国が「失敗国家」(failed state)だという兆候を明確に示している。

 いまや失敗国家は、ソマリアやパキスタンのような国々だけでない。国家権力の亀裂、イデオロギー的内戦、公共の場所での安全の悪化で失敗国家を決めるのであれば、そのリストには、フランス、ロシア、英国、米国も追加されなければならない。そうした傾向のもと、左派は勇気を出して、法と秩序というスローガンを自身のものにしなければならない。

 陰鬱なことだが、暴力的な革命群衆が権力の座を掌握した最近の唯一の事例は、2021年1月のドナルド・トランプ支持者による米国議会議事堂の襲撃事件だ。当時、自由主義左派は、いわゆる「普通の」人々が国家主権の頂点に侵入し、公的生活の規則を一時的に中断させたことを見て、魅惑と恐怖を同時に感じた。左派ができずにいる既存体制に対する抵抗を、ポピュリズム右派が権力の座に対する大衆攻撃を通じてやり遂げたのだろうか。いまや私たちの前に置かれた選択肢は、腐敗したエリートが支配する議会選挙か、強硬右派が支配する蜂起か、二つのうち一つだけなのだろうか。

 私たちが入り込んだこの奇妙な局面の時代に、左派は普通の人々の安全を保障することを自らの任務に追加することを恐れてはならない。公共の場所の安全が弱まる兆候が明確な状況においても、左派はそうした現象に言及するだけで反動的だと責め、失業や人種主義のような「より深い社会の根」について考えるべきだという立場ばかりを繰り返す。

 だが、「公共の安全」という問題を冷遇し続けることは、不満という重要な領域を敵に譲り渡すことによって、人々を右へ向かわせるものだ。安全ではない日常のためにより大きな被害を受ける人々は、自分たちの安楽な社会のなかで平穏に生きる裕福な人々ではなく、貧しい人々であるということに目を背けてはならない。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1100363.html韓国語原文入力:2023-07-17 02:37
訳M.S

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