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[コラム]尹大統領の「原発崇敬」、もう一つの「理念」ではないのか

登録:2023-05-24 03:57 修正:2023-05-24 09:40
イ・ボンヒョン|経済社会研究院長兼論説委員
産業通商資源部は17日、原発も含めた「無炭素エネルギー(CF)100」を新たな国際規範にするとして、大韓商工会議所、諸企業と共に無炭素エネルギーフォーラム発足式を開催した=イ・ボンヒョン記者//ハンギョレ新聞社

 現政権は、脱原発政策の破棄を最高の成果として掲げている。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、脱原発は理念にとらわれた政策だとし、今もそのような考えを持つ公職者に対しては果敢に人事措置を取るよう指示している。原発を理念から救った尹大統領は、エネルギー転換の現実に合うよう事実にもとづいて真理を探求しているのだろうか。最近の例を見ると、原発を「崇め奉る」という新たな理念が頭をもたげているのではないかと懸念される。

 まず政府は、原発輸出への期待を過度に膨らませている。尹大統領は任期内に海外から10基の原発建設を受注することも可能だと語る。施工能力と価格競争力を備えた韓国の原発を多く輸出すれば、国内に雇用も創出されるし、良いことだ。いま話が出ているポーランド(2基)、チェコ(1基)、サウジ(2基)の発注分を着実に確保すれば、実現不可能な目標ではないだろう。しかし現実は逆方向へと向かっている。原発大国へと復帰しようとしている米国が、韓国をライバルとみなして締め付けているからだ。

 4月末の韓米首脳会談の共同声明には、異例にも原発協力の原則が盛り込まれた。「各国の輸出規制規定と知的財産権を相互に尊重する中、国際原子力機関(IAEA)の追加議定書に一致するやり方で」進めるとする内容だ。マスコミはどういう意味なのか分からず素通りしたが、これを見て驚く原子力専門家は多かった。韓国の原発輸出に暗雲が立ち込める合意だったからだ。その後、「韓国独自の原発受注は事実上難しくなった」という報道がなされた。

 「知識財産権の尊重」という文言は、ポーランド、チェコなどで韓国と受注競争を繰り広げる米国企業のウェスティングハウスの意向が反映されたものとみられる。韓国が原発を輸出するたびに、ウェスティングハウスと米国政府の承認を得るよう要求しているのだ。ウェスティングハウスは韓国型原発「APR1400」に自社のオリジナル技術が使われているとして、第3国への輸出を制限するよう求める訴訟を昨年10月に米国連邦裁判所に起こしている。韓米首脳の共同声明が発表された日、ウェスティングハウスのパトリック・フラグマン社長はワルシャワでポーランドのメディアに対し、韓国は「米国法と国際法に違反している」、「ポーランドに韓国の原発が建設されることは絶対にないだろうと我々は考えている」という挑発的な発言をしてもいる。

 韓国水力原子力と韓国電力は、「APR1400」は韓国の研究開発の成果が加わった独自モデルだと強調する。しかし米国の原子力界は概してこれを認めていない。1月に米国エネルギー省(DOE)がチェコへの原発輸出のために韓国が提出した申告書を差し戻したことも、ウェスティングハウスと協議せよというシグナルと読み取れた。さらに「追加議定書に一致するやり方」という文言は、核拡散防止に協力しないサウジやエジプトのような国には原発または資機材を輸出するなという警告だ。原子力安全委員長を務めたカン・ジョンミン氏は「文在寅(ムン・ジェイン)政権の大統領府でも、核不拡散問題が解決されなければサウジへの原発輸出は不可能だと考えていた」とハンギョレに語っている。

 独自受注の道が閉ざされたとしたら、ウェスティングハウスに技術料を支払うとか、施工、資機材の納品というやり方もある。いずれの場合も収益性は低下する。日本企業も同じことを考えるはずで、韓国が下請けパートナーに選ばれる保障もない。産業通商資源部と韓水原は米国と協議して解決していくという。しかし、米国がそう甘くはないのは、今回の首脳会談で両国の確執が解決するどころかさらに韓国に不利になったことからも分かる。原発輸出は国内に原発を建設すべき理由の一つだった。産業のエコシステムを殺してはならないという論理だ。「原発輸出大国」を自負しながら、政府が肝心の米国政府と原子力界の動向をきちんと把握していたのかは疑問だ。政府は昨年も、米国のインフレ抑制法(IRA)の電気自動車に対する補助金支給規定を見逃している。

 現政権は再生可能エネルギーの「課題」を原発で解決してもよいかのようにふるまっている。国際社会では通用しない計算だ。生産過程での再生可能エネルギーの使用を促す「RE100」規範によって国内の輸出企業が圧迫を受けはじめていることを受け、産資部はRE100の代わりに原発を含む「CF(無炭素エネルギー)100」を普及させようとしている。今月17日には企業を集めて「無炭素エネルギーフォーラム」の発足式も行った。韓国に不利にならない国際標準を広げようということだ。だが、グローバル企業があえて「CF100」に乗り換えようとするだろうか。RE100は米国と欧州の大企業が自発的に加入した民間キャンペーンなので、政府や国際機関がとやかく言うのは難しく、すでに太陽光や風力で目標を達成した企業も多いからだ。韓国は主要8カ国(G8)入りを狙っているといえど、その国際的地位が米国、中国、欧州に新たな標準を受け入れさせるほどのものなのかも疑問だ。

 小型モジュール原子炉(SMR)が安全性、立地、経済性の面で「ゲームチェンジャー」になりうるというバラ色の期待も検証が必要だ。尹大統領の訪米後、米国のSMRの先頭走者であるニュースケール・パワーと韓国の複数の企業が、慶尚北道に6基のSMR建設を推進すると報道された。だがSMRは、まだ1基の実験炉すら作られていない設計図上の原発だ。SMRは小さいからといってコストが安くなったり、立地上の拒否感がなくなったりするわけではないため、商用化には障害が多い。米国でも頻繁な設計変更と建設費の増加で根付いていない技術を韓国に導入して最初に商用化実験を行うというのは、妥当なのだろうか。

 炭素中立(カーボンニュートラル)の実現のためには原発がある程度必要だということに同意する国民も多く、ウクライナ戦争の余波で世界各国で原発に対する考えを改める雰囲気が生じているのも事実だ。しかし、脱原発の破棄が「原発への没入のしすぎ」にまでなってしまえば、別の副作用が生じる。政府予算や行政力を浪費することになる。世界的なすう勢に従って太陽光や風力などの再生可能エネルギーで規模の経済を達成すべき時に、誤った政策シグナルを発するのは、貴重な時間の浪費につながりうる。

//ハンギョレ新聞社

イ・ボンヒョン|経済社会研究院長兼論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1092930.html韓国語原文入力:2023-05-23 15:33
訳D.K

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