朝鮮の青年ヤン・ギョンジョンは1943年、ウクライナ東部戦線でソ連の軍服姿でドイツ軍の捕虜となった。彼は以前、日本軍に徴集されソ連の捕虜になり、ソ連軍からドイツ軍の捕虜に、そしてドイツ軍服を着てノルマンディーで連合軍の捕虜になった。その後、彼は英国の捕虜収容所を経て米国に移住して暮らした。アントニー・ビーヴァ―の著書『第二次世界大戦1939-45』の冒頭に出てくる話だ。歴史学者は植民地の青年が巻き込まれたこの信じがたい話で、この戦争の世界性を浮き彫りにした。
それから80年が経った現在、今回は朝鮮半島の砲弾が遠く離れたウクライナ戦場に登場した。韓国政府は「殺傷兵器支援不可」の原則を掲げているが、海外メディアは砲弾供与の可能性について取り上げている。すでに米国の盗聴資料で明らかになったように、韓国政府は砲弾の供与案を論議しており、ポーランド首相が「韓国の砲弾を伝達する問題を韓国と協議した」と述べたうえ、政府と与党も砲弾支援の可能性を残しているからだ。ロシアは迂回輸出を含むウクライナへの兵器供与を敵対的な反ロシア行為とみなすと宣言した。
なぜウクライナに韓国の砲弾が必要なのだろうか。戦争が起きて1年が経ち、この戦争は「砲撃消耗戦」に切り替わった。今や双方とも砲弾不足に苦しんでいる。ウクライナは3月まで月11万発の砲弾を使用しており、米国と欧州に月25万発の供与を求めている。米国と欧州は砲弾の生産を増やしているが、生産量を急激に増やすことには限界がある。そのため米国はイスラエルに保管中の砲弾を支援し、量産能力を備えた韓国の155ミリ砲弾に目を付けている。
北朝鮮もこの戦争に足を踏み入れている。北朝鮮はドネツクとルガンスク共和国の独立を承認した。そして、これらの地域に建設労働者を派遣したものとみられる。ロシアはこれら共和国が国連加盟国ではないため、北朝鮮の建設労働者輸出を禁止する国連制裁の対象ではないと主張する。ロシアが国際社会の制裁対象国であるため、今後、制裁の形骸化を狙った朝ロ両国の試みは増えていくだろう。ロシアも砲弾不足に苦しんでおり、北朝鮮の砲弾供与の可能性も取り上げられている。
昨年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争は長期戦に突入した。70年前の朝鮮戦争当時と同様のレベルで世界的な軍需補給戦争が繰り広げられている。結局、戦争遂行能力で優劣が決まるだろう。ロシアは武器原料から弾薬工場まで自給自足できるうえ、国際社会の制裁にもかかわらず、財政安定性を維持しており、一定期間以上の戦争遂行能力を備えている。ウラジーミル・プーチン大統領はこの戦争を長期戦に持ち込み、結局シリア内戦のように「忘れられた紛争」にしようとしている。
米国もすでにウクライナに1千億ドル以上を支出し、総力支援体制を構築した。しかし、権威主義政府とは違い、民主主義政府は時と共に迫ってくる選挙から逃げられない。米国内部で長期戦に対する疲労感が現れ、共和党はウクライナ支援に消極的であり、米国政府内でも長期戦は負担だという声があがっている。米国の財政赤字が増えるにつれ、同盟国に費用分担を要求する可能性も高くなった。
ロシアとウクライナ戦争が長期化することで、核戦争の恐怖も依然として存在し続ける。プーチン大統領は今年2月、米国との核兵器削減条約である「新戦略兵器削減条約(NEW START)」の中止を宣言し、ベラルーシへの戦術核兵器の配備を発表した。プーチン大統領の核戦略は西側の介入を警告し、ロシアの勝利を確信する心理戦に近い。しかし、歴史は物語っている。アルジェリアではフランスが、ベトナムでは米国が、アフガニスタンではソ連が、レバノンではイスラエルが、核兵器を保有していたにもかかわらず戦勝国にはなれなかった。もちろんロシアがこの戦争で戦術核であれ、あるいは「低出力核兵器」を使用すれば、世界レベルで不拡散体制は崩壊し、それだけ人類を絶滅させる核戦争の可能性も高くなるだろう。
ロシアとウクライナの戦争は70年前の朝鮮戦争のように「誰も勝利できなかった戦争」に変わりつつある。南北を分ける軍事境界線が、北東アジア地域を分け、ひいては世界の分断線として定着してはならない。長期戦に突入しているロシアとウクライナの戦争で朝鮮半島が砲弾の武器庫に転落してはならない。80年前、朝鮮の青年ヤン・ギョンジョンは自分の意志とは関係なく大国戦争の渦に巻き込まれたが、今の大韓民国は自ら運命を決められる主権国家という点を忘れてはならない。