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[コラム]尹錫悦の「弱者福祉」1年の実状と虚像

登録:2023-05-15 02:10 修正:2023-05-15 08:18
イ・チャンゴン|先任記者兼論説委員
尹錫悦大統領が3月23日、青瓦台迎賓館で開かれた福祉・労働現場従事者を招いての昼食行事で冒頭に発言している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足1周年(5月10日)を迎え、先週はメディアと各界が評価を相次いで発表した。それは政治外交や経済など全般にわたったが、とりわけ庶民の暮らしに直結する福祉部門の評価は貧弱なものだった。なぜだろうか。一次的な理由は、政権発足から1年が過ぎても主な福祉政策の方向性を詳述する「公式化された文書や定型化された発表がないから」だ。

 尹錫悦政権の福祉ブランドは「弱者福祉」だ。尹政権と大統領が掲げ続けている福祉政策の方向性だ。この突発的な造語は政府の公式文書に数え切れないほど登場するが、依然として概念定義からして曖昧だ。12日に保健福祉部に質問したところ、返ってきた答えは「自らの困難について声をあげるのが難しい社会的最弱者層を、まず政府が死角地帯なく捜し出し、より厚く支援する福祉」という短い概念定義だった。推進政策としては「脆弱階層の所得セーフティーネットの強化、死角地帯の発掘、そして障害者・児童・青年などに対する状況に応じた所得・ケア支援の強化」があるとのことだった。残念ながら弱者福祉について私たちが知っているのは、まだこのように断片的な概念解釈と、言及されたいくつかの政策だけだ。

 重要なのは実状だ。この1年間で、尹政権は弱者のための福祉をどれほど、そしてどのように展開してきたのか。尹政権1年を自評した政府の公式文書は、弱者福祉の「代表商品」として基準中位所得の引き上げ(2023年、5.47%)を掲げている。間違いなく、逆説的に「弱者福祉の貧困」を示すものだ。

 もちろん、この引き上げで基礎生活保障(日本の生活保護に相当)の対象者世帯が増え、支援金(生計給与など)も上がったのだから、それなりに評価に値する。だが、これは「2021年に出された調整算式に則って政権発足以前にすでに設定されていた引き上げ率」であるうえに、歴史的な高物価という状況を考慮すれば誇れるほどのことではない。少なくとも大統領選挙の公約である「生計給与選定基準の中位所得35%(現30%)への引き上げ」も推進すべきだった。

 政府が打ち出した数少ない政策のひとつが、昨年11月の福祉死角地帯の発掘システムの強化だ。死角地帯発掘システムの入手すべき危機情報を34種から39種に増やしたものだが、脆弱階層の相次ぐ死亡事件を考えれば、これもまた問題解決の方向性をきちんと定められずにいるという批判に直面した。

 複合的な危険が存在する現代社会においては、福祉を弱者だけのものとすることはできないが、それでも弱者にさらに配慮する福祉の方が良い。だが、弱者を苦しめる政策はどう説明するのか。住居脆弱者の安住の地となるべき公共賃貸住宅の予算を大幅に縮小したり、障害者権利予算の拡充を要求した障害者の叫びを最後まで無視したり、最も弱い立場の一つである高齢者のための地域社会統合ケア政策を後退させたりしたことがそれだ。

 尹政権が前政権と差別化しつつ、特に強調するもう一つの核心政策は「社会サービスの高度化」だ。これも多くの政府資料に登場するが、肝心なその概念を詳述する文書は一つもない。

 尹錫悦の福祉に責任を負っている高官たちに相次いで会って直に尋ねたものの、誰も明快に答えられなかった。筆者の質問に対して3月に福祉部が文書で返した公式の回答は「社会サービスの高度化とは、社会サービスの量的な拡大と質的な改善を意味する」というものだった。飯を食えば腹がいっぱいになるという話と変わらない説明だ。

 福祉部はこの回答で「社会サービスの需要を創出するとともに供給を革新し、基盤を強化する具体的な高度化方策を策定中」だとし「さらに資料ができれば共有」するので待ってほしいと付け加えた。しかし発足1周年が過ぎた5月14日現在、さらなる資料は送られてきていない。「社会サービス基本計画」さえ発表されていない。それだけではない。3大改革の一つである年金改革を叫んだのは良かったが、意味ある進展はほとんどない。

 尹錫悦政権の福祉政策について注意深く見なければならない点は、このような評価というより、実は「方向性」だ。弱者福祉というスローガンの裏には福祉を「健全財政」の下位カテゴリーへと周辺化する政策の方向性が内包されているということがその一つであり、もう一つは「社会サービスの市場化」だ。社会サービス投資ファンドを作ってケア関連企業を選別し、そこに投資を集中したり、民間保険会社に対して高齢者療養施設を運用する道を開いたりする動きには、すでに多くの懸念が示されている。

 今の「弱者福祉」と「社会サービスの市場化」、何よりも「健全財政」の枠組みに閉じ込められた政策の方向性では、介護、住居、教育、健康などから「排除」された韓国社会の多くの弱者の人間らしい暮らしは決して保障できない。尹錫悦政権が目標とする「持続可能な福祉国家」はなおさら不可能だ。

//ハンギョレ新聞社

イ・チャンゴン|先任記者兼論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1091661.html韓国語原文入力:2023-05-14 13:19
訳D.K

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