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[寄稿]「核の共有」に執着する尹大統領の軍事的妄想

登録:2023-01-06 03:06 修正:2023-01-06 07:30
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授
昨年11月13日にカンボジアのプノンペンで行われた韓米首脳会談で、尹錫悦大統領が米国のバイデン大統領の話を聞いている=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 一昨年9月、大統領選挙戦に飛び込んだ国民の力の尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補は、「米国に戦術核の配備と核の共有を要求する」という安保公約を発表した。発表翌日、米国務省のマーク・ランバート副次官補は尹候補を念頭に「その公約は支持しない」と述べつつ、「そのような主張をする人々の米国の政策に対する無知には、ただ驚くばかり」だと一蹴した。

 このような屈辱を受けた記憶が薄れたのか、尹錫悦大統領は「朝鮮日報」との新年インタビューで、「韓米が米国の核戦力を『共同企画-共同演習』という概念で運用する方策を論議している」と述べた。韓米が共同で米国の核兵器情報を共有するとともに、核使用計画を作成し、核使用訓練まで行うという説明を付け加えつつ、尹大統領は「米国もかなり前向きな立場だ」と述べた。米国が自国の核兵器の所有権、使用権、統制権の一部を韓国と共有するだろうという大統領の認識は、候補時代とあまり変わっていないようにみえる。

 まず、米国と核の使用を共同で企画するためには、韓米核共同企画グループ(NPG)が組織されなければならない。米国が北大西洋条約機構(NATO)諸国との戦術核の共有で運用しているこのモデルを、アジアの同盟国にも適用しようという主張は、以前にも一部の米国の学者の間でなされた。中国とロシアをけん制するために核企画グループに韓国、日本、オーストラリア、インドを参加させ、アジア版NATOのような集団安保体制を構築しようという少数の学者たちの主張はあったが、核不拡散を金科玉条のように信奉する米政府が実際にそのような案を検討するというニュースをこれまでに聞いたことのある者は、ひとりもいない。むしろそのような主張をすれば「無知だ」という嫌味が返ってくるだけだ。

 加えて、米国が他の同盟国との関係を犠牲にしてでも韓国にのみ核の共有という特恵を提供するだろうという期待は、常識的ではない。「核のない世の中」を主張してきたジョー・バイデン大統領なら、なおさら拒否するだろう。実際にバイデンはホワイトハウスで記者に「韓国との核の共同演習を検討するのか」と問われ、断固たる態度で「ノー」と答えた。続いてなされたホワイトハウスの釈明にも、韓国と核を共有したり、共同の核政策を企画したりするという話はない。

 尹大統領の主張どおりに韓米が核情報を共有し、共同で核兵器発射の模擬演習を行うには、韓米核連合部隊が創設されなければならない。核へのアクセスと使用は一般戦闘部隊ではなく、核へのアクセス権が認められた特別な専門要員のみが可能だ。さらに、韓国軍が米国の戦略資産の運用に関与するか、あるいは韓国軍の戦闘機、潜水艦、ミサイルに核使用コードを付与し、米国の核弾頭を搭載できるようにしなければならない。有事の際に朝鮮半島に核弾頭を投入しうる特殊貯蔵施設と、認可を受けた要員が、韓国または日本やグアムに配置されていなければならない。

 しかし、アジアにはそのような米国の核貯蔵施設が1つもない。韓国軍は米国の核戦争遂行部隊に対して作戦統制権を行使したり、核使用の決定に参加したりしなければならないが、韓国には米国からそのような許可を受けた専門要員はいないし、米国は世界のどの同盟国にもそのような特恵を与えたことはない。さらに、韓国軍の主な攻撃兵器は核弾頭の装着が不可能になるよう、米国からきめ細かな技術統制を受けている。米国が核の共有を行っているNATOの欧州諸国も、事後評価に参画するに過ぎず、実際は米国の核兵器に作戦統制権を発揮することはできない。韓国が米国と核の使用を前提とした模擬演習を実施したとしても、それは米国の作戦に関する事後評価や通報の水準に過ぎず、核使用の企画と決定に参画する共同の核政策遂行体系ではない。

 米国が保有している200発あまりの戦術核弾頭は、欧州防衛のためにかなり前に構築した航空機投下用の核重力爆弾だ。防空網が密な朝鮮半島で戦術核を使用するならば、爆撃機で核を投下するのは非合理的であるため、艦艇から発射する核巡航ミサイルや潜水艦発射用戦術核ミサイルを動員しなければならない。だがバイデン政権は「実戦に使われる可能性が高い」との理由で戦術核の現代化予算を全額削減した。実戦に使われる可能性の高い戦術核はまったく「存在しない」というのがバイデン政権の立場だ。存在しもしない戦術核をまるで韓国のものであるかのように主張するその無知と妄想には、驚くばかりだ。大統領であるなら、正確な現実認識と合理的な安保政策の品格を示すべきなのではないか。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1074605.html韓国語原文入力:2023-01-05 18:29
訳D.K

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