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[コラム]前政権の国家安保室長拘束、「30年間の実りなき外交」の現状

登録:2022-12-15 06:40 修正:2022-12-15 07:12
政権が変わると、手のひらを返すように前政権の大統領府安保室長、国家情報院長、国防部長官などをむやみに捕まえようとする国の姿こそ、この30年余りの韓国外交の失敗の現住所だ。南北対話に関する限り最高の専門家であり、米国や日本からも信頼されるという北朝鮮通の人物を政権が変わったからといって踏みにじる国が他にあるだろうか。
ソ・フン前国家安保室長が2日午前、西海公務員殺害事件と関連し、拘束前被疑者尋問(令状実質審査)を受けるため、ソウル瑞草区のソウル中央地方裁判所に向かっている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 先週行われたソ・フン前大統領府国家安保室長の拘束起訴は衝撃的だった。2人の前政権関係者が西海(ソヘ)公務員殺害事件で拘束された後、適否審で釈放されたにもかかわらず、ソ前室長の令状が発給され、適否を問う暇もなく検察が起訴に踏み切った。高度な外交安全保障行為が数人の検事と令状専担判事の手で裁断されるという恥ずかしいことが繰り返されている。

 断定するのは難しいが、令状などを通じて明らかになったソ前室長の容疑を見る限り、これが法の基準を突きつけるべきことなのか、疑念を抱かざるを得ない。犠牲になったイ氏が越北(北朝鮮に渡ること)したかどうか、政府が殺害事実を組織的に隠蔽したかどうかは、当時の対北朝鮮情報、南北間チャンネルなどを総合的に考慮すべき外交安全保障的政務判断に属する。法の裁きで一刀両断できる事柄ではない。

 ソ前室長の拘束は単なるソ・フン個人に対する断罪なのだろうか。検察は、ソ前室長が隠蔽を主導したとして、個人の不正のように主張しているが、北朝鮮関連のことはそうはいかないものだ。判断を主導することはできるかもしれないが、一人ですべてを決めることはできない。結局、ソ・フンの拘束は文在寅(ムン・ジェイン)政権の北朝鮮政策に対する断罪であるわけだ。

 ソ・フンの拘束は、韓国外交を自ら踏みにじる行為だ。南北対話に関する限り、最高の専門家であり、米国や日本からも信頼されるという北朝鮮通の人物を、政権が変わったからといって踏みにじる国が他にあるだろうか。

 文在寅政権もキム・グァンジン元国防部長官を拘束したため、ソ前室長の拘束に不満を示すのは一種の「ダブルスタンダード」という声もあがっている。一部は正しく、一部は間違っている。キム元長官は、北朝鮮問題ではなく「コメント部隊」と関連し、国内政治への関与の疑いで有罪判決を受けた。ただし、キム氏が朴槿恵(パク・クネ)政権で北朝鮮が最も警戒する軍事専門家と言われていただけに、氏の拘束も外交安全保障資産の損失と言えるかもしれない。

 政権が変われば、手のひらを返すように大統領府安保室長、国家情報院長、国防部長官などを次々と捕まえようとする国の姿こそ、この30年余りにわたる韓国外交の失敗の現住所だ。 ソ・フンの拘束は「30年間の実りなき外交」の象徴的事件だ。

 この30年のあいだに、ほかの国々は統一を果たし、平和を取り戻したが、私たちは依然として分断の苦しみと戦争の脅威の中で時間を無駄にしてきた。私たちが自分の首を絞め、互いの足を引っ張ってきたからだ。北朝鮮の核をめぐる狂的な瀬戸際戦術、米国の気まぐれと頑固さも一因となったが、韓国内部の力が大きく及ばなかったためでもある。

 ドイツは我々とは異なる道を歩み、統一という大業を成し遂げた。ドイツ統一の教訓は、1989年のベルリンの壁崩壊そして90年の東西ドイツの統一の時ではなく、冷戦直後から着実にその運命的な時間を準備したことにある。

 ドイツ再統一の基盤は強いて言えば「正反合外交」だ。コンラート・アデナウアーのいわゆる「力の政策」、すなわち西側中心で、東ドイツを認めず、経済再建を目指す路線は国の基本的な力をしっかり築いた。ビリー・ブラントの東方政策は、親西側基調を崩さず、平和体制をもとにソ連、東ドイツ、東欧との和解と交流を進めた。ブラント以後、キリスト教民主同盟も名ばかりの「即時統一路線」を事実上放棄し、平和共存を図った。社民党とキリスト教民主同盟が早期統一をあきらめて共存を模索したことが、逆説的にも統一の基盤となった。

 今、世界の風向きは大きく変わっている。米中対決とウクライナ戦争、北朝鮮の核の完成などで北東アジアと世界秩序が揺れている。世界情勢の大転換期なのに、私たちは何をしているのか。

 これからは過去30年間失敗してきた外交をリセットしなければならない。保守政権は外交政策の転換においてもう少し自由だと言われており、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権にも一抹の期待を抱いていた。米国もニクソン時代に大きな変化があり、韓国も盧泰愚(ノ・テウ)大統領時代に外交の大きな流れが変わった。また、この30年間、保守政権と革新政権が積み重ねてきた過ちを乗り越える時を迎えた。

 しかし、西海公務員事件をめぐり、統一部長官が先頭に立って真相を明らかにし処罰すべきだと主張する時から首をかしげざるを得なかった。尹錫悦大統領の米国・日本一辺倒の外交が可視化され、まるで北朝鮮との平和共存政策が北朝鮮寄りであるかのように魔女狩りに近い攻撃が続いた。実に嘆かわしく、懸念を抱かせる状況だ。

 共に民主党などの野党も、北朝鮮、中国、日本との外交で古いレパートリーにこだわっているのではないか。中国は大きく変わり、北朝鮮は露骨に核で私たちを狙っている。日本をいつまでも敬遠するわけにはいかない。外交環境が根本的に変わっているだけに、捨てるべきものは捨てて、取り入れるべきものは新たに取り入れなければならない。

 ドイツがそうだったように、韓国も李承晩(イ・スンマン)と朴正煕(パク・チョンヒ)、金大中(キム・デジュン)と盧武鉉(ノ・ムヒョン)の外交を正反合につなげて継承しなければならない。そうしてこそ、韓国外交も新しい道を切り開くことができる。少なくとも政権が変わったからといって、前政権の外交安全保障関係者をむやみに断罪しようとするアマチュアな発想と行動からは抜け出さなければならない。

//ハンギョレ新聞社
ペク・キチョルㅣ編集人(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1071570.html韓国語原文入: 2022-12-14 18:01
訳H.J

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