コラムには妥当な話だけを書こうと努めているが、「もしかすると自分が間違っているかもしれない」という前提で考えるようにしている。だから、コメントなど読者の意見も、参考にできる部分がないか、熱心に読み込む。先月、コラム「原発汚染水が福島から放出される時」に反論した11月17日付の読者投稿「福島原発汚染水の危険、正確な情報で判断すべき」も、うれしい気持ちで読ませていただいた。ただ、「事実と科学ネットワーク」の活動家が書いたその文は、同団体を構成する原子力関係者の従来の主張をほとんど繰り返す内容だった。
福島原発事故に関する国内の原発賛成派の関係者の意見は「日本政府および東京電力と同一」のように思える。汚染水は多核種除去設備(ALPS)で放射性物質を濾過して安全な「処理水」になっており、この設備で濾過できないトリチウムは海に放出しても害がないという主張だ。 また、福島で小児甲状腺がん患者が多く出たのは過剰診断の結果であり、被曝水準が低いため、健康被害は全くないと主張している。放射性物質が大量に検出された福島産の魚を思う存分食べても大丈夫だと言っている。彼らは国際放射線防護委員会(ICRP)など原子力支持派団体の基準を論拠に挙げ、欧州放射線リスク委員会(ECR)など代案組織の異見は排斥する。
一方、国内外の反核環境団体と医学者などはこれに反論する。要旨はこうだ。第一に、汚染水の処理と廃炉過程を信頼できない。ALPSで濾過したという汚染水の70%から基準値以上の放射性物質が検出された。再び濾過して放出すると言うが、それでもトリチウムと炭素14など一部の核種は残る。きちんと濾過されるかどうかも確認できず、濾過しても様々な放射性物質が残る汚染水が、いつ終わるか分からない廃炉まで数十年間海に流れ続ける。汚染水が太平洋に放出されると(放射能汚染物質の濃度が)薄くなるというが、日本から船舶がバラスト水(船底に積む重しとして用いられる水)を積んできて韓国の海に流す時や、日本近海と太平洋で獲れた水産物が輸入される時は直ちに脅威になりうる。
第二に、トリチウムは食物連鎖を通じて濃縮されるため危険だ。韓国の代表的な疫学者である国立がんセンターのペク・トミョン招聘医(前ソウル大学保健大学長)は「トリチウムが生物の体に吸収され有機結合型トリチウム(OBT)になると、遺伝体を直接損傷させる可能性が高くなるが、一つの生命体で作られた有機結合方トリチウムは他の生命体によって食べられたり、食べたりする過程で濃縮される」とし、「トリチウムの持続的な流入は生態系全体の変化を招きかねない」と指摘した。
第三に、福島で事故当時18歳以下だった38万人余りのうち、300人近い小児甲状腺がん患者やその疑いがある人が発生したのは過剰診断ではなく、放射線被曝によるものだ。原子力安全委員を務めた東国大学医学部のキム・イクジュン前教授は、原発関係者たちが国内の大学病院の診断事例を挙げ、「福島の小児甲状腺がんの発生は正常範囲」だとしたことに対し、「特定の国の特定の病院の事例は比較の対象になりえない」と述べた。さらに「小児甲状腺がんの世界的統計値は医学教科書に載っている通り、100万人当たり1~2人」だとしたうえで、「福島は世界的統計値に比べて100倍程度増加したと言える」と付け加えた。岡山大学環境生命科学大学院の津田敏秀教授らは8月、国際学術誌「環境と健康」に掲載された論文で、「チェルノブイリ研究と病理的症候などを総合すると、福島の小児甲状腺がんの増加は過剰診断ではなく、放射線被曝によるものであることは明らかだ」と指摘した。同論文は「100ミリシーベルト(m㏜)以下の低線量被曝もがんを誘発するという研究が多い」と明らかにした。
第四に、放射能汚染食品は「勧告線量以下」でも食べた分だけがんの発病リスクが高くなる。キム・イクジュン教授は「放射線の基準値は管理用に過ぎず、医学的に安全基準はない」とし、「被曝量とがんの発生は正比例関係にある」と述べた。
第五に、日本政府を擁護する国際機関は研究倫理を疑われている。津田教授らは同論文で、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)など原子力関連機関は日本政府と東京電力などの資金を受けて活動していたと指摘した。ペク・トミョン教授も「国際放射線防護委員会は原発業界で経済的恩恵を受けながらサービスを提供する集団」だと語った。
このような状況でも、東京電力と日本政府を信じて汚染水の海洋放出を見守るべきだろうか。職業的な利害とは別に、国民の潜在的被害を共に心配すべきではないか。「お金がかかっても日本の領土で汚染水を処理せよ」と要求すべきではなかろうか。