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[寄稿]ウクライナの乱交パーティーは本当に病的なのだろうか

登録:2022-11-21 04:34 修正:2022-11-21 05:22
[世界の窓]スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
17日(現地時間)、ウクライナ南部のヘルソンで消防隊員がロシアの宣伝広報物を除去している。9月にドネツク人民共和国(DPR)などとともにロシアに併合されたヘルソンは、11日にロシア軍の撤収によりウクライナ軍によって奪還された=ヘルソン/AP・聯合ニュース

 ウクライナで、プーチンが核攻撃を開始する場合に開かれる乱交パーティーが企画されたという。キーウ郊外で開催が予定されたこのパーティに、1万5000人のウクライナ人が参加申し込みをしたことがわかった。ある参加申込者の言葉は、注意深く聞くに値する。「このイベントは絶望の反対です。最悪のケースでも私たちは良いものを探しだすでしょう。これこそウクライナの巨大な楽観主義です」。このパーティーに続きオデーサでも似たようなパーティーが企画されたという。

 私たちは、この乱交パーティーを深刻な絶望の時期に生きることを肯定する企画を作っていく試みだとみなさなければならない。これに類似フロイト的な分析を適用し、トラウマ的な時期に文明化された社会が崩壊していく現象とはみなさないほうがいい。文明的ではないものは別にある。バイアグラを持ち歩き民間人に性的暴行を犯すロシア軍と、それを助長したロシアだ。ロシアは民間人を対象とする性的暴行を「軍事戦略」として用いている。

 にもかかわらず、ロシアの代わりにウクライナを批判する人々がいる。恥ずべきことだが、私の祖国スロベニアのある学者は、ウクライナの乱交パーティーについて、衰退期に入った文明に登場した奇妙で病的な考えだと批判した。しかし、本当に奇妙かつ病的なのはどちらなのか。病的な次元に達したロシアの無差別的な民間人攻撃か、ロシアの暴力に対する反応として登場した自発的で同意に基づく乱交パーティーか。

 先月18日、ロシアのクレムリン(大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官は、ロシアが不法合併したウクライナ占領地を、ロシア領土と同じ水準で防衛すると明らかにした。この主張は、ウクライナがロシアの核の傘の下にある領土を統制しているため、すでに核攻撃の対象になっていることを暗示している。この脅迫に信憑性を追加で付与するのは、ロシアが(ウクライナ軍にほとんど包囲された)ヘルソンの住民に撤収を命令し、ウクライナがヘルソンを占領することになれば、そこへの核攻撃を可能にしたことだ。プーチンは、自分が起こした戦争を「サタン崇拝に立ち向かい戦う戦争」と呼び、いかなる手段でも動員する勢いだ。

 ロシアの残酷さも病的だが、ロシアに欧州代表団を送り、平和条件について交渉しなければならないという西欧の「平和主義者」たちの主張も同じだ。世界大戦が起きることを防ぐため、可能なすべてのことを試みるのは当然のことだが、戦争を止めようとするためには、ロシアを冷静に把握しなければならない。欧州は、中国との衝突において米国の小さなパートナーに転落することを避けようと、ロシアと協定を結び、新たなパワーブロックを作りたいのかもしれないが、そのような愚かなことは捨てなければならない。今のロシアは中国よりはるかに危険だ。ウクライナにロシアと妥協するよう圧力をかけることこそ、ロシアが望むことではないのか。ロシアとの交渉という考えは、完全に廃棄しなければならない。

 ならば、ウクライナは何をしなければならないのか。ウクライナは、ロシアとベラルーシで戦争に反対し戦争を止めようと努力する市民団体と活動家を無視してはならない。これらの人々は、ウクライナの良き同盟者だ。しかし、ウクライナは大きな間違いを犯している。ウクライナの指導者たちは、これらの人々と手を結ぶどころか、逆にこれらの人々をロシア人やベラルーシ人という理由で非難する。ノーベル平和賞の受賞者として、ウクライナの市民団体とロシアの市民団体、ベラルーシの活動家がともに選定されると、ウクライナの大統領補佐官は、ロシアとベラルーシの市民団体と活動家は戦争を防ぐことができなかったと批判した。このような態度は、道徳的に正しくないだけでなく、政治的にも愚かだ。また、今回の戦争の意味も曇らせる。この戦争は、プーチンのイデオローグであるアレクサンドル・ドゥーギンや一部のウクライナ人が主張するような「欧州的真実」と「ロシア的真実」の間の闘争ではない。ウクライナ戦争は、ロシア、米国、インド、中国など各地で力を得ている国家主義的な原理主義に対抗する全世界的な闘争の前線だ。ウクライナが道徳的優位を逃したものがあるとすれば、まさにその点だろう。キーウ郊外で企画されたディオニュソス的な遊蕩は問題ではない。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1068066.html韓国語原文入力:2022-11-20 23:31
訳M.S

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