本文に移動

[コラム]合計特殊出生率0.75の秘密と10年後の韓国社会

登録:2022-10-06 04:05 修正:2022-10-06 09:10
チョン・ジョンユン|社会政策部長
イ・ジュホ社会副首相兼教育部長官候補が先月30日午前、ソウル汝矣島の韓国教育施設安全院に設置された人事聴聞会準備事務室に初出勤し、候補への指名の感想を語っている/聯合ニュース

 大統領の人事は、それ自体が一つのメッセージだ。大統領は政府のビジョンと政策を執行する適任者を国民に知らせ、国民はその人物の経歴と資質を通じて大統領が作ろうとしている国のかたちを思い描くことができる。2022年に韓国大統領が投げかけるべきたった一つのメッセージがあるとすれば、それは人口減少対策だろう。韓国は今年第2四半期の合計特殊出生率が0.75だった。1人の女性が一生の間に産むと予想される子どもの数が1人にも満たないという意味だ。世界が「集団自殺社会」として注目する人口消滅の危機だ。

 社会・経済・文化的要因が複合的に作用する人口減少の原因を一つや二つで説明することはできない。ただし、韓国社会では希望より絶望が先行し、その最も重要な要因の一つが教育だということには意見の相違はあまりない。公教育とは名ばかりで、英才教育という名目で各種の特別目的高校や自律型私立高校(自私高)が存在し、大学入試に及ぼす影響力は絶大だ。だから、高校入試のためにおむつが取れない頃から複数の塾に通わせるほどだ。各種調査によると、私教育(塾や習い事)を開始する平均年齢は4歳前後だ。統計によると、昨年の1人当たりの月平均私教育費は36万7000ウォン(約3万7300円)だが、月に100万~200万ウォン(約10万2000~20万3000円)以上使っている家庭もありふれている。そのように勉強させた結果、2021年現在で25~34歳の69.3%が大学教育を受けているが、それでも2021年の20~29歳の雇用率は57.4%にとどまっており、しかも3分の1は非正規労働者だ。運良く中位所得世帯になれても、ソウルで中間価格帯のマンションを買うためには、月給(6月現在)を一銭も使わず17.6年間(PIR)貯め続けなければならない。

 教育部や裁判所が代弁する「大きな声」を聞くと、韓国は国民の大多数がこのような無限競争を自律と自由として支持しているようにみえる。保育と教育は親の役割であり、親と子の両方が高価な機会コストを支払った末に高学歴の無職になっても、「自分のせい」として順応しているようにみえる。しかし、職をくれと拡声器で叫ぶよりも、静かなあきらめによって食を断つ怒りの方が怖い。合計特殊出生率0.75というのは「無限競争の結果に対する責任が個人に押し付けられる国では子は産めない」というあきらめの表現だ。

 パク・スネ前教育部長官はこの渦中で、満5歳早期就学を発表した末に辞任した。ただでさえ未来がなくて子も産めないというのに、生まれて5年の子どもたちに勉強を強要し、競争で生き残った子どもたちを1年でも早く産業人材として使おうとした末の辞任だ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「何があっても子を産み育てるに値する社会にする」という決然とした意志を示すべき時だが、長考の末に先月29日に投じた「イ・ジュホ社会副首相兼教育部長官候補」というメッセージは、不安を増大させる。尹大統領は、李明博(イ・ミョンバク)政権で教育科学技術部次官と長官を務めたイ・ジュホ韓国開発研究院(KDI)教授を、韓国教育の中心へと呼び戻した。大統領選挙での公約も「李明博政権時の教育政策の再活用」だったので、「李明博政権の教育政策の設計者」の再起用はアイデンティティに合致する人事だろう。ただし、合計特殊出生率が0.7人台にまで下がり、パク前長官があのようなかたちで退いた時点においては、今回の「回転ドア人事」が呼び起こすであろう声なき波紋は非常に憂慮される。

 「イ・ジュホ」とはいかなる人物か。教育は公共の場ではなく市場だと宣言した長官だった。学校運営の自律を強調して自私高を作ったが多くの一般高校を壊滅させ、一斉試験とその結果の公開によって学校と生徒を一列に並べた。2018年のソウル市教育庁の資料によると、中学校の席次百分率(成績が上位何%に当たるかを計算した割合)10%以内の生徒の割合は、一般高校(204校)では全生徒の8.5%だったが、自私高(当時23校)では18.5%にのぼった。市民団体「私教育の心配のない世の中」が2020年に行った高校2年生およそ5000人に対するアンケート調査の結果によれば、月平均100万ウォン以上の私教育費を支出している人の割合は一般高で13.3%、自私高では43.9%であった。イ・ジュホ氏の教育市場主義に同意するにせよしないにせよ、生徒と保護者はそれぞれ弱肉強食の教育市場に組み込まれた。

 イ候補は先月30日、「教育主体に自律と自由をできる限り認める」と述べ、今回は大学の自律を掲げた。李明博政権での教育の影がまだ濃いのに「またしてもイ・ジュホ」だ。彼が今回誤った道を示せば、次に誰が政権を執ろうとも、10年後の韓国は「集団自殺社会」に向かってもはや取り返しのつかないアクセルを踏むことになるだろう。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ジョンユン|社会政策部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1061512.html韓国語原文入力:2022-10-05 18:39
訳D.K

関連記事