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「自分のことで精一杯」下落し続ける出生率は青年たちの悲鳴=韓国

登録:2022-03-21 02:41 修正:2022-03-21 08:00
[ハンギョレS]チョン・ナムグの経済トーク_逆走する合計特殊出生率 
 
人間開発指数上昇も出生率は下落 
OECDで唯一1未満 
雇用や住宅価格のせいで婚姻減少など原因 
若者の苦しみに耳を傾け、解決策を探るべき
合計特殊出生率の推移。グレーがOECD平均、オレンジが韓国//ハンギョレ新聞社

 米国のペンシルべニア大学人口研究センターの研究チームが、2008年8月6日付けの科学雑誌「ネイチャー」に、合計特殊出生率と人間開発指数(HDI)との関係を分析した論文を掲載している。合計特殊出生率とは、1人の女性が妊娠可能な時期(15~49歳)に産むことが見込まれる平均出生児数を指す。人間開発指数とは、国連開発計画(UNDP)が各国の教育水準、国民所得、平均寿命などを調査し、人間開発の成就度を0から1の間の数値で表したもの。同チームが第2次世界大戦後のベビーブームが終わった1975年から2005年までの37カ国の数値を調べたところ、HDIが上昇しても、合計特殊出生率はしばらく下がり続けていた。ところが0.85から0.9に達すると出生率が再び上がりはじめた。同論文は「社会の発展に伴って女性の働く環境や保育・教育施設が整備されることで、晩婚や高い育児・教育コストといったマイナスの側面が補われるため」とその理由を分析している。

生活がよくなっても出生率は逆走

 ところが、HDIが上がっても上昇反転が見られない例外的な国があった。日本、韓国、カナダだ。日本は2005年にHDIが0.94にまで上昇したが、合計特殊出生率は1.26と史上最低だった。韓国も2005年にHDIが0.91にまで上昇したものの、合計特殊出生率は経済協力開発機構(OECD)加盟国中最低の1.08だった。論文はカナダも例外と判断しているが、合計特殊出生率が1.5前後のカナダの同一視は困難だ。

 同論文は2005年までのデータを分析している。その後はどうなったのだろうか。主要国では2007~08年の世界金融危機以降、合計特殊出生率が再び下落している。

 例外国の中では、日本と韓国の流れは逆だ。日本の合計特殊出生率は2005年の1.26から2015年には1.45まで上昇し、その後に小幅に下落した。韓国は2005年の1.08から2019年の0.92まで下がり続けた。その後、コロナの影響までもが加わり、2021年には0.81にまで下がった。OECD加盟国中最下位で、唯一1を下回っている。

 韓国でも既婚女性の合計特殊出生率は2を超えている。問題は、結婚しない若者が増えていることだ。2011年に32万9000件だった年間婚姻件数は、2021年には19万2507件にまで減少している。何より労働市場が高学歴の若者たちの期待を満たしていない。韓国の大学進学率は1990年の27.1%から2000年には62.0%、2005年には73.4%へと急上昇し、今もその水準だ。世界最高水準だ。しかし、25~34歳の大卒者の2020年の就職率を見ると、オランダ、英国、リトアニア、スイスは90%を超えており、日本は87.8%、米国は84.2%である一方、韓国は75.2%にとどまっている。

 青年たちの好む大企業・公共機関の正規職などの良質な雇用先への就職は、夢のまた夢だ。統計庁による2021年8月の経済活動人口調査付加調査の結果を見ると、韓国の20代の就業者は377万9000人で、非正規労働者は141万4000人(37.4%)にもなる。そのうち90万6000人は一時労働者、69万人は時間制労働者だ。

 韓国では青年雇用率が外国に比べて相対的に低く、高齢者の雇用率は相対的に高い。生産可能人口の減少を懸念し、国会は2013年、定年を60歳にまで延長する法を制定した。当時、表面化したのは労使対立だけだったが、昨年、政府が高齢者雇用延長制の導入の必要性を提起すると、青年たちは非常に敏感に反応した。ただでさえ少ない良質の雇用機会が、さらに減るのではないかと懸念してのことだ。外国人労働者に対して排他的で、既存の非正規労働者の一括的な正規職化に好意的でない人たちも少なくない。彼らは言う。「自分のことで精一杯です」

 子育ては時間と真心が求められるが、経済的にも大きな負担だ。NH投資証券100歳時代研究所による2019年の推定によると、平均レベルの私教育(塾や習い事)費を含め、子どもの養育費は高校卒業までに1人当たり2億ウォン(約1960万円)かかる。これに耐えてきたのに期待していた暮らしが得られなければ、子を産み育てる気になるのは難しいだろう。住宅価格は、これまたどれだけ高いことか。

 労働市場に依然として残っている性差別も、出生率低下の一因となっている。女性の大学進学率は2009年に男性を追い越した。しかし就職市場で差別を受け、昇進でも差別を受けているのが現実だ。出産はキャリアの断絶につながり、労働市場内の地位を下落させる。2021年の20代女性の雇用率は59.6%で20代男性の雇用率(55.1%)より高いが、30~50代女性の雇用率は60%前半で、同年代の男性の雇用率より20ポイント以上低い。所得水準が低い階層では相対的に男性の婚姻比率が、所得水準が高い階層では相対的に女性のそれが低い。高学歴・高所得の女性たちは、苦労して得た地位を出産のために失いたくはないと考えるからだろう。

 下落し続ける出生率は、韓国の青年たちが単なる若い「世代」ではなく、この社会でまともに待遇されていない「特殊階層」でもあることを暗示する。少子化は年金制度の持続可能性に大きな問題を生じさせる社会問題として扱われているが、当事者にとっては「悲鳴」をあげながら行う「出産スト」であるといえる。

少子化の原因は「青年の声」にすでに示されている

 日本や韓国以外でも、香港、台湾、シンガポール、タイなどの東アジア諸国の出生率は非常に低い。その中で日本は、2021年の合計特殊出生率が1.34と相対的に高い。下落を止めたというのが異なる点だ。バブル崩壊以降、長きにわたり社会問題となってきた青年の失業が、かなりの部分解消されたことが影響したのだろう。日本の20~24歳の失業率は、2010年の9%台から2020年には4%台にまで下がっている。大卒者の大半が就職に成功している。定年延長で労働市場にとどまっていた1947年~1950年生まれの団塊の世代が、65歳になった2012年から本格的に退職しはじめたことで、青年たちにチャンスが訪れたのだ。

 韓国でも、ベビーブーム世代(1957~1975年生まれ)の本格的な引退は青年たちに雇用機会を与えるだろうか。量的な面ではありうるが、労働市場にまだ残っているベビーブーム世代は、良質な雇用からすでにほとんどが追い出されている。引退することで青年に良質な雇用を受け渡すとはならないだろう。希望の見えない未来に疲れ、怒った青年たちは、2022年3月の第20代大統領選挙で政治的存在感を示した。彼らの境遇をしっかりと認識し、考えを共有しつつ、意味ある解決策を見出す良い機会とすべきだ。

チョン・ナムグ|ハンギョレの論説委員、経済部長、東京特派員を歴任。『統計が伝える嘘』などの著書がある。ラジオやテレビで長らく経済解説にたずさわってきた。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1035454.html韓国語原文入力:2022-03-19 08:05
訳D.K

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